魔女ドローネは、ゾンビーが好き
魔法の国、アサルセニア。住所はカボチャ畑の向こう側。
フジッリのようにねじれ曲がった樹々に囲まれた、ワードローブの中ほどに暗い、暗い森の奥。
ここに住む住人は皆魔法使いだ。漆黒のローブに身を包み、イチイの杖を持っている。
もちろん、魔女ドローネも。
彼女が得意なのは、恐ろしい死者たちを呼び出す魔法。ひとたび彼女が杖を振るえば、恐ろしい死者たちがどこからともなくあらわれ、イタズラの限りをつくすのだ!
だが、ゾンビが恐ろしいのは姿だけ。彼らの頭の中には、脳ミソがちょっぴりしか入っちゃいない。
暗闇に隠れると足元の段差でずっこけるし、つぎはぎだらけの足じゃ逃げる人間どもを追いかけることもできやしない。
そんなドローネのことを、他の魔女たちは落ちこぼれと笑うのだった。
ある日、魔法学校の先生であるマルガリータは、ドローネに言った。
「ドローネさん。少しはゾンビ以外の魔法も覚えたらどうですか」
「でも先生、ゾンビにも色々種類があるんだよ。今は馬のゾンビを呼び出す呪文を練習してるんだ」
「結局はゾンビでしょう? 同じ魔法ばかりで、人間が驚くもんですか!」
魔女の価値観は、人間たちのそれとはかけ離れていた。
冷酷な魔女たちは、イタズラの結果がどうなるかなんて考えない。とにかく驚かせれば満足で、自身の満足が一番なのだ。
とある魔女は自動車のうるさい音に腹を立て、高速道路に苺のジャムを巻き散らしてやった。
甘ったるい匂いともに、アスファルトはすぐさま最低なレッドカーペットと化した。
一昼夜続いた渋滞の中でクラクションと共に響いていたのは、魔女のケタケタという甲高い笑い声。
また別の魔女は、キツネ狩りを楽しむ紳士たちの前で、キツネを大きな雄牛に変えてやった。
暴れまわる雄牛は逆に紳士たちを追いかけ回し、狩場は大混乱だ。
素早い茶色の雄牛はさんざんに暴れまわったあげく、澱んだ霧の谷を飛び越えて、どこかへ行ってしまった。
行き掛けの駄賃で農場の柵をぶち壊し、多くの羊たちが自由の荒野へ旅立った。
ただ、ドローネは他の魔女とは違う。心優しい魔女だ。ドローネ自身もそう思っている。
イタズラは好きだけど、人間をケガさせたり困らせたりは、あまり好きではなかった。
黙り込むドローネに、マルガリータはため息ひとつ。
そして、言いつけた。
「いいですか、ドローネさん。あなたは今から、人間界で修業をしてきなさい」
「はあ、人間界、ですか?」
「そうです。人間たちを存分に驚かせるまで、帰ってこなくてよろしい!」
教師マルガリータは厳しい。問答無用で魔法を唱えると、そのままドローネを人間界へと弾き飛ばした。




