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【超短編小説】日曜美術館1993

掲載日:2025/12/18

 朝鬼夢見死あさきゆめみし!!

 ちく、たく、ちく、たく。

 ワン、ツー!

 カウントが進む。

 追い詰められていく気がするが、そのカウントは執行猶予だとも言える。

 もしくは言い訳、諦めまでの距離。

 俺はスリーの前に肩を上げる。

「ちっ」

 その舌打ちは俺がしたのか?

 仕方ない。俺は起きてベッドを降りる。


 日曜日の朝だ。

 起きてリビングに行くとボロボロになったソファにテレビっ子の父親が横たわってワイドショーを見ている。

 布ソファの白い表面と父親が着ているタオル地のガウンは境界線が曖昧だった。

 耳を澄ますまでもなく台所で母親が刻む長ネギの音が聞こえる。鼻腔には味噌汁の匂いが広がる。

 生卵を喰わされることにウンザリする事から俺の日曜日は始まる。


 日曜日の存在は憂鬱だ。

 日曜日が厭で仕方ない。

 平日だってさっさと学校に行きたい訳でもないから難しいけれど、とにかく日曜日は嫌いだ。

「おはよう」

「おはよう」

 仕方なく父親の横に腰を下ろして興味の無いテレビ画面を眺める。

 映っているのは野球選手の活躍。サッカー選手の活躍。

 画面右上のテロップが俺の精神を圧迫する。何故かって?同い年くらいの少女が泣きながら卓球をしているからだ。



 努力、頑張り、スポーツ根性。

 今の俺に足りてないもの、欠落しているもの、凝視せざるを得ないもの、それらがまとめて美しくパッケージされている。

 刮目したくないクソのカタマリ。

 自分がああでない事を責められている気分になる。

 誰も何も言っていないのにな。

 そうやって日曜日の悪魔が嗤っているだけだ。



 俺はその悪魔を見ないようにテレビの画面を見ないで見つめる。

 犯罪者たちの過去が映されている。

 続く怠惰な若者の特徴。つまり予備軍。

 怠惰、諦め、無気力。

 今の自分が満たしている条件。

 自覚している病状。症状。自己診断。処方箋は努力頑張りスポーツ根性。抜け出せよと言われる。

 誰に?

 誰も言ってないよ。



 やめてくれ!

 


 俺の懇願を日曜日の悪魔は嗤う。

 父親とソファの境界はまだ曖昧で俺は父親の上に座っている気分になる。

 葱を刻むビートは一定で硬い。味噌汁はまだ煮えない。

 俺は画面を見つめたままだ。



 日曜美術館へ行けばよかった。

 父親はル・コルビジュエでも無ければ白井晟一でも無いし、隈研吾でもなけりゃロイドライトでもない。

 だが俺は父親の何も責めない。

 別にそれでいい。

 だから俺は俺でいたい。



 日曜美術館に日曜日の悪魔は入って来られない。

 チケットを買えない。

 あいつには影が無いからな。

 俺たちは日曜美術館の食堂で朝定食を食べるんだ。

 朝食を食べる場所、それがティファニーである必要なんてどこにもないんだ。

 だが日曜日の悪魔は嗤う。窓の外で。

 それなら大丈夫だ。

 俺には聞こえない。

 別に特別、死にたくなんかならないさ。いつも死にたい気がしているからな。

 日曜日の悪魔は満足そうに嗤う。

 死んでほしいなら考えておくよ。

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