断罪イベント365-第81回 【追放令嬢ギルド 王都支部ビオラ】 第4話「ミレイユ初出勤」
王都ざまぁ支部「ビオラ」には、日々膨大な申請が届きます。
香りで申請書を読み取る受付嬢リリアーナ、それを現実に引き戻す執事クラウド、
そして冷静な支部長セレスタ。――ですが。
本部からの支援で新たに派遣された元役所職員、ミレイユ・カランの登場で、
支部はこれまでにない“静けさ”に包まれることになります。
香り、紅茶、そして無音の書類整理。
ビオラ支部に、初めて“朝の緊張”が生まれた。
まだ誰も出勤していない時間。
緋色の空気が冷たく支部を包む中、扉が コツ と一度だけ、小さく鳴った。
「……早いわね」
セレスタがカップを手に、振り返る。
扉の前には、灰色のジャケットに身を包んだミレイユ・カラン。
薄明のような静かな気配をまとい、無音で歩くその姿は――
まるで “書類の妖精”。
「本日より配属されました、ミレイユです。
申請ファイル、整理から始めてもよろしいでしょうか」
「……どうぞ」
セレスタが促すと、ミレイユは無言で書棚へ近づいた。
その瞬間、音が消えた。
紙がめくられる音も、足音も、衣擦れすら、ほとんど響かない。
「……すごいわね」
セレスタの紅茶のカップの音だけが、かすかに響いた。
◆リリアーナ、静寂に驚く
少し遅れて、リリアーナとクラウドが支部に入ってくる。
「おはようございま――」
その言葉が途中で止まった。
そこには、申請書の山が「音もなく崩されていく」光景。
「セレスタ様、支部内に、新しい香りが……
“無香の風”が流れています……これは……整理整頓の香り」
「それ、香りっていうのかしら」
クラウドが静かに頷く。
「整理が行き届いた職場は、香りではなく“空気の密度”が変わります。
……これは、本物です」
◆静寂の魔法
ミレイユは黙々と作業を続ける。
棚を拭く動作は無駄がなく、書類を分類する指先は正確で、
インクのにじみ具合まで瞬時に判別していく。
(※ビオラ支部の申請書、香りで分けられていた)
「……これ、香り順に並んでいたんですのね」
ミレイユが一枚の紙を手に取り、わずかに首を傾げる。
「“切なく滲んだインク”の棚……香り分類による整理法というのがあるのですね。面白いですが、実務運用には不向きです。数字順に再構築します」
「香り棚ーーーーッ!!」
リリアーナの悲鳴が支部に響いたが、
その声すら、棚の静寂に吸い込まれていった。
◆セレスタの分析
フィロが翼を畳みながら呟く。
「これは……静寂による支配だな」
「ええ。あの子、声を荒げなくても場を整える。
ビオラ支部に足りなかった、第三の要素よ。
“香り”と“ツッコミ”の間を埋める、“静かな秩序”」
セレスタがカップを置く音が、やけに響いた。
こうして――
香りで読むリリアーナ、
突っ込みで正すクラウド、
そして新たに加わった
静寂でまとめるミレイユ。
王都ビオラ支部は、ようやく「形」を帯びはじめる。
※なお、香り棚はミレイユによって“参考資料”としてラベリングされたが、
後に「嗅覚専用補助分類システム(非公式)」
として再登録されることになる。
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