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弟君が望むなら姉弟という関係はみ出しても良いよ

「あの……斎京さん」

「ん? 何を恥ずかしがってるの? いつもみたいにお姉ちゃんって呼んでいいのよ弟君」

「えぇ……呼んだことねぇですけど……」


 あの後俺達はギルドに呼ばれて話をすることになった。斎京さんが一瞬で片づけていたとはいえドラゴンはドラゴン。そんな物騒な存在が新人が通う渋谷ダンジョンに現れたという事でギルドは上に下に大騒ぎだったらしい。小さな渋谷支部で話が済む訳が無く、霞が関にあるギルド本部まで行く事になった。そして応接室に通され、ふかふかのソファーに腰掛けたのだが、多分こんな事が無ければ一生俺には縁が無い場所だろう。

 そしてギルドマスターまで出張ってきていざ話を、となっても斎京さんは俺以外に興味を示さずひたすら俺に話しかけてくる為、ギルドの偉い人達は皆頭を抱えている。斎京さんのそれは本来なら怒鳴られても文句が言えない態度だが、日本に唯一のS級冒険者に文句言える存在などその場に居なかった。

 

 S級冒険者とは強大な力に比例して我が強く、国が頭を下げて頼みごとをしても頷いてくれるかは気分次第なのが一般的だ。少し前までの事務的に淡々と処理してくれていた彼女が異例なのだが、それに慣れてしまっていたお偉い方はどうすれば良いか分からず迅に視線を向けるだけだった。


「あの……報告しませんか?」


 どうにかしてくれという期待の籠った視線に耐えられなかった俺は、仕方なく口を開いた。先程からの態度からこんな事で無礼だと切り捨てられることは無いだろうが、相手はS級冒険者。流石に肝が冷える。


「勿論、貴方がそう言うなそうしましょう」


 だがそんな心配は杞憂で、斎京さんはあっさりと報告を始めた。といっても今回のはダンジョンイレギュラー。当然起きたことに明確な理由など無い。また斎京さんがあの場に居たのも直感スキルによるものらしく、意図してダンジョンイレギュラーに対処することが可能なわけではないと判明。そうなると後の議題は1つ。何故斎京さんが俺の事を弟と呼び出しているかについてだ。が、当人は弟君は弟君だと言い張る為、何一つ状況が分からない。――俺以外は。

 これに関して心当たりがある為、冷汗が背中を伝う。え、これ俺が全部悪いってことにならないよな!?


「あの……俺のスキルに【弟】というものがあるんですよね……」

「【弟】? 初めて聞くがどんなスキルなんだ?」


 不思議そうな顔をして老齢のギルドマスターが尋ねてくるが、内容が内容だけに非常に答えにくい。俺にそのつもりは一切ないが、絶対に馬鹿にしていると思われるだろう。


「その……スキルの説明は【弟である】だけです……。因みに俺は一人っ子なので弟じゃないです……」

「は?」


 ギルドマスターを始め周囲の人間が何言ってんだこいつって顔しているが、本当にそれしか説明が無いのだ。だから俺も周囲も今まで死にスキルだと思ってたのだ。でもこの状況どう考えてもこの【弟】スキルが作用しているとしか考えられない。もし関係無かったら本当にホラーだよ。


「なんですか貴方達。弟君の話が信じられないのですか?」

「え、いやそうではないが……じゃがその……【弟】スキルの所為だと言うなら斎京さんは彼に洗脳されている状態なのでは?」

「弟君が私を洗脳してると言いたいのですか!? なんて無礼な! 今すぐ首を刎ね――」

「お、お、お、落ち着いてください斎京さん!」

「もう、だからいつも通りお姉ちゃんって呼んでください」


 首を刎ねるとか言いかけた人間が頬を膨らませてプンプン怒っている。あまりのギャップに心臓が止まりそうだ。ガチの意味で。因みに斎京さんに睨まれていたギルマスの心臓も止まりかけただろうが、なんとか死は免れたようだ。


「そもそも私には状態異常無効スキルがあります。洗脳されるはずがありません!」

「えっと……ならどうして加賀君を弟だと?」

「それは私がお姉ちゃんで弟君が弟君だからです!」


 斎京さん以外の全員の気持ちが1つになる。だからなんでそうなるんだよ!!! 


「……現状【弟】スキルによる影響と考えるのが一番適切じゃな。そうなると気になるのは効果範囲と持続時間じゃが」

「あー距離が離れたらこの状況も解決するかもしれないんですね。それなら――」

「あり得ないことだけど。もし私が弟君を弟君と認識できなくなってしまったら……世界、滅ぼしちゃうかもしれないかな。こんな鮮やかな世界を知ったらもうあんな灰色の世界に戻れないもの」


 冗談みたいな台詞を真顔で言っているのはS級冒険者。人の枠組みを超越した者。つまり、やろうと思えば世界くらいガチで滅ぼせる。少なくても日本は世界地図から消える。それを察した大人達は目配せをしたあと、全員が俺に向かってにっこりと微笑んできた。


「加賀君、よろしく頼んだよ!」

「何をですか!?」

「はっはっはっ、言わなくても分かっているだろう?」

「分かるけど分かりたくないです!」

「可能な限り斎京さんの傍を離れるな……ごほん、くれないじゃろうか?」


 斎京さん、ちょっと俺に命令しようとした相手を睨まないでくれ。ギルマス震えてるじゃんか。

 それはそうと、つまり【弟】スキルがどうやれば解除されるか分からない現状、効果範囲の中に斎京さんを含めた状態で居ろという事だろう。下手に離れて解除されてしまえば世界が終わる。因みに持続時間があった場合も世界が終わる。なにこの無理ゲー。


「いやいや、俺とずっと一緒なんて斎京さんも嫌でしょう!?」

「え、弟君がずっと傍に居てくれるなんてお姉ちゃん嬉しいな」

「ジーザス!」

「お姉ちゃんが守ってあげるから、ず~と一緒にいようね弟君?」


 隣に座っていた斎京さんに抱きしめられてS級のS級()が俺の顔を包み込む。無理無理! こんな色々な意味で破壊力が高い人とずっと一緒にいたら暴走するぞ!? 俺は健全な男子高校生だ! 


「弟君どうしたの? 顔が真っ赤だよ?」


 貴方の所為です! と言えれば良いのだがチキンな俺は何も言えずにいる。あとこの感触が離れがたい。一体何カップなんだ……!? っていかんいかん邪な思考は切り捨てないと。


「せっかくだから2人暮らししよっか? た~くさん甘やかしてあげるよ?」

「ふぁ!?」

「大丈夫だよ? 私の今の家弟君1人くらいなら余裕で住めるからね」

「いや、その若い男女が2人っきりなんて間違いが起きたらどうするんですか!?」

「……う~ん。勿論世間的には良くないけど。お姉ちゃんは弟君が望むなら姉弟という関係 は み 出 し て も 良いよ?」

「んんっ!?」


 何!? 姉弟という関係はみ出すって!? ちょっと彼女いない歴=年齢の男子高校生には破壊力が強すぎるんですが!? 斎京さんは美人系で普段は人を寄せ付けない雰囲気を醸し出してるのに、俺の前ではふにゃふにゃの表情を見せてくれて、そんなのはみ出したいに決まって――ごほんごほん。


「まぁ……仕方ないか」

「仕方なく無いですよ!? 絶対間違い起きますよ!?」

「世界が滅びるよりは間違いが起きる方がましじゃろ。あ、責任はちゃんと取るんだぞ加賀君?」

「俺まだ高校1年生なんですけどぉおおおおお!! 責任なんて取れませんよぉおおおおお!!」


 この歳でパパ、結婚なんてダメ絶対! というかこんなスキルによる影響がある人に手を出すなんて人として絶対に駄目だろ! 断固拒否の姿勢を見せるとギルマスはしばらく考え込んだ。


「……加賀君、間違いが起こらなければ問題無いのじゃな?」

「そう……ですね」

「ならば解決策がある、3人暮らしすれば良い」

「え、ギルマスとですか!?」

「そんなわけないじゃろ! 儂は命が惜しい!」


 おい、なんで命が掛かってるんだよ。あんたいい歳してまだ旺盛なのかよ!? その手の不祥事とか起こしてないよな!?


「う~ん弟君と2人きりじゃないのは不満だけど、弟君が私の家に住んでくれるなら別に良いよ? あ、でも同意なしに弟君に手を出そうものなら――そいつ殺すから」

「ひっ!?」


 俺に向けてじゃないのに、あまりの殺気にしょんべんちびりそうになった。絶対本気だ。というかなんで襲われるのが俺なんだ! 斎京さんの方でしょ!


「大丈夫じゃ、そいつは人呼んで【熟女専】の橘、2人とも対象外じゃ」

「なんかそれはそれで大丈夫なんですか色々と」

 

 何をどうしたらギルドでの呼び名が熟女専になるんだ。色々と奥が深そうだけど、知りたくない。


「因みにA級冒険者だから腕は確かじゃ。加賀君の護衛の為にも悪くないじゃろ」

「それは、私だけじゃ弟君を守れないって意味ですか?」

「いやいや、そうではない。じゃが護衛なんていくらおっても損はせんじゃろ? 念には念を入れておくべきじゃ」


 斎京さんはしばらく黙り込んだ後、ギルマスの提案を受け入れた。そういえば橘さんとやらの意思はどうなってるんだ。……多分関係無いだろうな。世界の危機だもんな……。まぁ俺の意思も関係無かったし、その人の意思もどうでも良いでしょ! 道連れじゃい!




「お、君らが燃殲夜ちゃんと迅君かな? お兄さんの事は二郎ちゃんって気軽に呼んでね?」


 そして斎京さんの家へと高級車で送り届けられた俺達の前に現れたのはヘラヘラとうさんくさい笑みを浮かべるお兄さんだった。本当に護衛が務まるのか? と疑いたくなるが、その両腰には日本刀を帯刀しており、最低限武器は手にしていた。それに。


「ふぅん。役に立たなそうな追い返そうかと思ったけど、まぁ弟君の護衛としては合格ね」

「そりゃ良かった。ははっ、S級冒険者にお墨付き頂けるなんて嬉しいね~。今日は良い酒開けちゃおうかな」


 斎京さんが認めるという事はかなりの実力者なのだろう。冒険者は見た目じゃないよな、俺もこんな風に誰かに認められるレベルの冒険者になれるかな? 


 なんて少し憧れの感情抱いていたが、その日の夜に未成年の俺に酒を勧めてきたことで半殺しされる姿を見て、憧れは消え去った。

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