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お姉ちゃんがこの世の全てから守ってあげるからね


「うっ……今日も同接0人……」


 俺、加賀迅<かが じん>は高校1年生兼ダンジョン冒険者兼配信者である。50年前に突如として各地に現れたダンジョン。内部には魔物という脅威が存在したが、それと同時に地球上には存在しなかった物が手に入る宝物庫でもある。かつてダンジョンの奥から持ち帰られた若返りの秘薬なんかは兆単位の金を動かした。一攫千金、ダンジョンドリームに憧れて多くの人間が冒険者になった。

 けれど当然誰もが夢を手に入れられる訳が無い。彼らはダンジョンというものを舐めていた、その結果冒険者の大勢が強大な魔物にやられて命を散らした。

 そんな黎明期を経て今ではランク制度が出来、ランクに応じて探索できる範囲が決まっている。例えば俺のようなFランク、ド新人であれば渋谷ダンジョンであれば10階層までしか探索してはいけない。勿論ダンジョンの難易度によって探索できる層は変動する為、高難易度の新宿ダンジョンでは5階層までしか探索できない。


 そう肩書こそ色々述べたが俺は所詮【新人】冒険者だし、チャンネル登録者10人もいない【底辺】配信者なので何も誇れるところは無い。冒険者になったのもパッとしない高校生活を変えたいというありきたりなものだ。自分は特別だと思いたかった。だが上位冒険者が持ってるような特別な【スキル】は何も持ってない。いや一個だけあるが何の役にも立たないゴミスキルだ。そして当然何のスキルも持たない初心者の平凡な配信などがうけるはずもなく視聴者も居ない。

 自分を変えようと色々と手を出したのに何一つ結果がでない現状が【お前はただのモブだ】と囁いてくる。その囁きに抗う程の気概も無く、俺は棒立ちでため息を吐く。配信中に何をしてるんだとも思うが、どうせ誰も見てないから関係無いか。


「今日の配信はここで終わりにしま――」


 誰も見てないから何も言わずに配信を切れば良いのに、一応終わりの挨拶を口にして配信を閉じようとドローンに手を伸ばす。だが、その瞬間ダンジョンが揺れた。


「っ!? なんだいま――」

「Gyaaaaaa――!」

「は?」


 渋谷ダンジョン、ここは30階層までしかない新人冒険者御用達の低レベルダンジョンだ。出てくるのはゴブリンばかりで最下層のボスもゴブリンキングという徹底ぶりだ。そんなゴブリンしか出てこないダンジョンにそいつは居た。


「どら……ご……ん……?」


 ドラゴン、それは人類の到達点と言われるA級冒険者パーティーすら蹴散らす埒外の存在。討伐できるのは同じく人でない存在――S級冒険者のみだ。日本だと1人しかいず、世界全体でも10人程度しかいないはずだ。そんな存在のみが抗うことができる竜種がF級冒険者というミジンコレベルの前に居た。

 ダンジョンイレギュラー――本来では存在しなはずのモンスターが現れるそれはどのダンジョンでも突如発生し、多くの冒険者の命を奪ってきた。そして今度の餌食は俺だった。そりゃそうだただの新人にドラゴンをどうこう出来る訳が無い。出来る訳が無いのに。


「はっ、いいぜ。こういうのを待ってたんだよ! そうだよ俺は主人公なんだ! 特別な存在なんだ! だからこれは俺が英雄になる瞬間なんだ、そうだよなぁ!」


 到底頑丈な鱗を貫くことが出来ぬギルドから借りてる安物の剣を構える。頭ではちゃんと分かっている。どうあがいても自分ではこの化け物には勝てないと。じゃあ逃げるか? 馬鹿言え。向こうは完全に俺を獲物と認識している、どうやって逃げるというんだ。誰かに助けを求める? 誰に? 撮影の為にと人が居る場所を避けて人気の無い場所にいたのも悪かった。いや、新人が何人居ようがこの状況が好転することは無いから関係無いか。

 そうこれはもう詰んだ物語。だから最後を少しでもカッコよく終わらせようという哀れな足掻きだ。

配信を通じて誰かの記憶に残れば、なんて同接0人が言っても仕方ないか。というか本来であればイレギュラーが配信を見てる人に通じるのに、底辺配信者であることがこんなとこでも足を引っ張る。俺が捕食されても誰にも気づかれない。つまり冒険者ギルドはこのイレギュラーを把握できない。おいおい、本当に無意味な死じゃねぇか。

 そこまで全部分かった上で俺はドラゴンに向けて駆け出す。


「しねぇやクソトカゲ野郎!」


 そんな俺の決死の攻撃がドラゴンの身体を貫く――なんて事は無く、バキリと剣先が折れて終わった。


「は、ははは……さ、さすがドラゴンじゃねぇか」


 震えた声が誰にも届かず消えゆく。痛くもかゆくも無かっただろうに、ドラゴンは鬱陶しそうに俺を爪で薙ぎ払った。


「ひぎっ!?」


あまりの速度により発生した風圧に吹き飛ばされながらだった為、俺の身体に爪は掠っただけだった。だがそれだけで腹部は切り裂かれ、どくどくと血が溢れる。即死こそしなかったがそれが幸か不幸か分からない。


「あぁああああああ!! いたいいたいいたいいたいっ! たすけっ、だれかぁたすけてよぉ」


 助けを乞いながら情けなく地べたのたうちまわる姿は憧れていた英雄の姿とはかけ離れていた。当然誰も助けに来るわけがない。それを理解してしまい涙がボロボロと零れ落ちていく。けれど、その時交わるはずが無かった運命が交差した。


「私の弟に何をしたぁあああああああ!!!」


 あれだけ圧倒的な存在だったドラゴンが吹き飛んでいく。俺には目視出来ない速度の攻撃だった。視界に映るのは強烈な緋。腰まで伸びた赤髪が揺れる姿だった。こちらを振りむいたことでその赤髪の主が誰か判明した。

 突然現れドラゴンを吹き飛ばした女性、それは斎京燃殲夜<さいきょう もつよ>――この国唯一のS級冒険者である。彼女は俺の傍で屈むと液体を腹部に掛けてくれた。すると嘘みたいにドラゴンに切り裂かれた傷は消え失せた。更に体中から力が湧いてくる。死にかけの人間を回復させるなんてこれどう考えても普通のポーションじゃないだろ!?

 何故S級冒険者が渋谷ダンジョンの上層なんかにいるんだ? とかこのポーション何!? とかポーションを取り出す際しれっと草むらに放り捨てたのさっきのドラゴンの首だよね? とか色々と気になる事はある。あるがそんなことよりも――!


「貴方が無事でよかった。これからはお姉ちゃんがこの世の全てから守ってあげるからね」


 俺に姉は居ねぇえええええええ~~!!!



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