表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第4話 二度目の冒険者登録

ギルドの扉を押し開けて中に入ると、懐かしい空気を感じた。


「ここはいつ来ても変わらないな」


そんなふうに呟いた俺のあとから、コツコツとヒールの音を鳴らしながら、マオがゆっくりと中に入ってきた。


その瞬間、周囲の空気がピリッと張りつめる。


中にいた男たちの視線が、一斉にマオに向いた。


赤いドレスに、整った顔立ち。人間離れした気配。


そりゃあ、目立つよな……。


「ふぁ……」


マオが手を口に当ててあくびをした。


「ん? 寝不足か?」


「……貴様のせいだ……」


「……あー、すまん。もしかして、俺……いびき、うるさかった?」


俺がそう言うと、マオはびくっと小さく肩を揺らし、すぐに首を横に振った。


「違う。そうではない……」


「じゃあ何が?」


「……うるさい……とにかくお前のせいだ!」


マオがぷいっと俺から顔をそらす。けれど、ふいにぽつりと付け加える。


「……隣にお前がいる状態で、簡単に眠れるわけなかろう……」


「え?」


「なんでもない。忘れろ」


でも、すぐに涼しい顔で辺りを見回すと、口調を切り替えた。


「ここが冒険者ギルドか。見た目は安っぽいな」


「魔王城とは違うからな。こっちは機能優先だよ」


そう言いながら、俺はまっすぐカウンターへと向かう。


「新規登録ですね? それでは、こちらに記入をお願いします」


受付嬢から紙を受け取って、必要事項を書き込む。


「続いて、魔力測定です」


ギルドの中央にある《昇光石》――魔力量を測る柱のようなものの前に立って、俺は右手をそっと当てた。


右手を柱に添えた瞬間、内部に眠る魔力がゆらりと反応しそうになる。


それを、ぐっと抑え込む。


(……ここで目立つわけにはいかない)


ほんの少しだけ流した魔力は、かすかに柱を光らせた。


……ピカッ。


「はい、Eランクですね! これから一緒に頑張りましょう!」


受付嬢がにっこり笑う。俺はそれに笑顔で頷く。


(……よし、これで目立たずに行動できる)


――そのときだった。


「おい、あれはなんだ?」


マオの声が聞こえてきた。


振り返ると、マオがクエスト掲示板を指さしている。


「あれはクエスト掲示板。狩りとか護衛とか、仕事の依頼がいろいろ貼ってある」


「ふむ……これが面白そうだ、これを受けろ」


マオは一枚の紙をじっと見つめていた。


『緊急クエスト:守護獣レイフォルス制圧指令』


俺は眉をしかめてその紙を覗き込んだ。


「これはSランクの依頼だから、Eランクの俺じゃ無理だ」


「ふん……つまらんな」


マオがため息をついたそのとき、近くの冒険者たちがくすくすと笑い始めた。


「レイフォルスとか無理に決まってんだろ」


「新人が何か言ってるぜ」


そして――


「新人さんかい? オレが色々教えてやろうか?」


ひとりの男がマオに話しかけてきた。俺には目もくれず、ニヤニヤしながら言う。


「俺はグエス。このギルドじゃ俺の名前知らねぇやつはいねぇよ。君みたいな綺麗な人と一緒に組めたら、俺もめちゃくちゃテンション上がるんだけどなぁ~」


……あーあ。


「お前はSランクか?」


マオが静かに問いかける。その声に、男が一瞬ひるむ。


「いや、今はBだけど……実力ならもうAランク――」


「Sランク以外に興味はない。消えろ」


ぴしゃり。


男が顔をひきつらせた。周囲から再び笑い声が起きる。


「へぇ……新人のくせに、いい度胸してんな。あとで困っても助けてやらねえからな」


吐き捨てるように言って、男は去っていった。


俺は苦笑しながらマオの方を向いた――が。


「……あれ? マオは?」


姿が見えない。視線をめぐらせると、赤いドレスが昇光石の前に立っていた。


「……まさか」


ゾッとして駆け寄る。


「やめろマオ! それに触るな!!」


けれど、もう遅かった。


マオの手が昇光石に触れる。


次の瞬間――


ビッカーーーーーーッ!!!


眩しい光がギルドを包み込んだ。


窓からもれた光が、外の通りを昼間みたいに照らす。


「うわっ!?」「目がっ、目がああ!!」


俺はマオの手を掴んで、ギルドから逃げ出した。


「走れ!」


「……っ、気安く触るな……」


手を振り払おうとするマオ。でも、その手には力がなかった。


……いや、むしろ――一瞬だけ、握り返されたような……。


俺がそう思ったときには、マオはもうそっぽを向いていたけど。


……気のせい、か?


考える間もなく、俺はマオの手を引いて裏通りへ駆け出した。



 * * *



ようやく人気のない路地にたどり着き、俺は立ち止まって肩で息をつく。


「はぁ……はぁ……頼むから、もう勝手なことはしないでくれ……」


背後では、まだギルドのほうから怒号が響いていた。


けど、マオはというと――


「魔力を測る装置に魔力を込めて、何が悪い?」


そんな顔で、平然と立っている。


「悪いに決まってるだろ。あのまま吹き飛ぶかと思ったわ!」


「ふん……少し、お前にいいところを見せようと思っただけだ」


え?


今、なんて……?


でもその声は、風にかき消されそうなほど小さくて。


俺の耳には、届かなかった。


マオはすぐに顔をそむけてしまう。


……と、そのとき。


気配を感じて、俺は物陰に向かって声をかけた。


「……そこにいるやつ、出てこないでそのまま帰ってくれると助かるんだけど?」


沈黙のあと、茂みから三人の人影が姿を現した。


先頭は、さっきマオに絡んでた男――グエス。


その後ろに、明らかに手練れっぽい二人がついてきている。


「よぉオッサン。さっきは、よくも恥かかせてくれたな」


「いや、恥をかかせたのは俺じゃなくてマオだし。というか、お前が勝手に転んだだけだろ」


「うるせぇ!」


怒鳴るグエスが一歩踏み出す。


マオが俺にちらっと視線をよこした。


「なんだこいつらは?」


「さっき会ったばっかだろ。忘れんなよ」


「虫の顔なんぞ、いちいち覚えていられるか」


「てめぇ……!」


グエスが剣を抜いた。続いて、仲間二人も構える。


俺は肩をすくめて、マオに言った。


「マオ、人間界じゃな、こういう連中をしばくと酒代が手に入るんだ」


「ほう……そういうことは早く言え。人間界のルールは面白いな」


「ただし、殺すのはダメだ。死なせると報酬がもらえなくなる」


「善処しよう」


マオの足が、すっと前に出る。


「どこまでもナメやがってぇぇぇ!!」


グエスの怒鳴り声とともに、三人が一斉にマオへと突っ込んでいく。


次の瞬間――


ヒュッ、と風を切る音。


グエスの顔面にマオの拳がめり込み、吹っ飛んだ。


短剣の男は、側頭部に蹴りを食らってそのまま沈黙。


ローブの男は、マオの手のひらが胸に触れた瞬間、ガクッと崩れ落ちる。


……全員、完全に意識を失ってる。


「三人、十秒。さすがです元魔王さま」


思わず、俺はぽつりと呟いていた。


倒れた男たちの腰から財布を回収し、中身を確認する。


ジャラッ。


「とりあえず、今夜の酒代は確保っと」


「ふむ。金を得るというのは、案外楽しいものだな」


マオはどこか満足そうに頷いていた。


「じゃ、飲みに行くか」



 * * *



裏通りの屋台。赤ちょうちんの下で、俺とマオは並んで腰かけていた。


「……もっとマシな酒はないのか?」


コップを口から離しながら、マオが文句を言う。


「あるにはあるけどな。お前の手袋買ったら、金なくなったんだよ」


「ふむ……これはなかなか良い出来だぞ」


マオは手にはめた新品の革手袋をじっと見つめていた。


「そりゃ良かったよ」


俺は苦笑して、ぐいっと酒をあおる。


そのとき、マオがぽつりとつぶやいた。


「……そういえば、この世界に来た理由を聞いてなかったな」


その言葉に、俺の手が止まる。


しばしの沈黙のあと、俺は静かに口を開いた。


「……世界平和を、やり直すためだよ」


「ふむ、随分と曖昧な目的だな」


「前の世界じゃ、マオを倒しても世界は平和にならなかったからさ。……だから今度は"勇者"じゃなくて、"俺"のやり方でってな」


「……暇人だな」


「俺もそう思う」


俺は照れ笑いを浮かべながら、もう一口、酒を飲んだ。


そのとき、マオがふいにぽつりとつぶやいた。


「……嫌いじゃないがな」


「え? なんか言った?」


「言ってない! 聞くな!」


──夜の風が、少しだけ心地よかった。

読んでくださってありがとうございます!

第4話、いかがでしたでしょうか。

おなじみの能力測定で、ケイゴはうまくやるけど、マオが勝手に触って規格外の結果を出すところがお気に入りです。

少しでも楽しんでいただけたなら、高評価&ブックマークしていただけると、とても嬉しいです!

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ