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第3話 お持ち帰り

俺は、マオを背負って歩いていた。


森を抜け、王都セント・アルケニアの外れの丘が見えてきたころだった。


マオは、俺の背で静かに寝息を立てている――ように見えた。


でも、たぶん寝たふりだ。というか、絶対寝たふりだ。


「……元魔王が男にお持ち帰りされるなんてな。部下が聞いたら泣くぞ?」


そうつぶやくと、背中でピクッと小さな反応があった。


鼓動が、少しだけ速くなる。


やっぱり、聞こえてたか。


まあ、気づいてたけど。


マオを背負いなおしながら、俺は笑う。


そのときだった。


――グゥオォォォォ……オオオオ……ッ!!


空気が震えた。

遠く、黒雲がかかったような山の向こうから、重く、のしかかるような咆哮が響いた。


森の鳥たちが一斉に飛び立ち、草むらにいた小動物がバタバタと逃げていく。

まるで大地そのものが唸っているような、そんな音だった。


俺は足を止めて、マオを背負ったまま、山の方角にちらりと目をやった。


「あー……ドラゴンか、古代獣か、魔物の王か。まあ、なんかでかいのが起きたな」


しばらくじっと耳をすませたが、続きはなかった。


「でも今日は……もう疲れたから、相手はまた今度な」


そうつぶやいて、俺は足を進めた。


マオが、背の上でぴくぴくと反応していたが……寝たふりは続けているらしい。


王都セント・アルケニア。世界でも有数の大都市。その石壁が目の前に迫っていた。


門をくぐると、夕暮れの街に魔導灯がポツポツと灯りはじめていた。


人の声と、荷馬車の音と、どこかの酒場の歌声。にぎやかだ。


「……起きてるんだろ? 街についたぞ」


俺がそう声をかけると、マオは、ちょっとだけ間をおいて、もぞもぞと背から降りた。


「……気づいてたのか?」


「寝息はそれっぽかったけどな。途中で鼓動が強くなったりしてたから、バレバレだよ」


「う……」


マオは耳まで赤くなって、視線をそらした。


「ま、魔王が歩き続けるなんて、そんな恥ずかしい真似はできんからな。だからお前に運ばせてやったんだ」


はいはい。


ごまかす声まで小さくて、逆にわかりやすい。


そんなやりとりをしていると、小さな声がかかった。


「お兄さんたち、宿屋、さがしてるの?」


声の主は、小さな女の子だった。年は、十歳いくかどうか。


服はボロボロで、靴も片方すりきれてる。腕も細い。たぶん、食べるのも大変なんだろう。


「静かで、人の少ない宿屋がいいんだけどな」


俺がそう言うと、マオがピクッと肩をふるわせた。


「し、静かで……人の少ない……」


なんか変な勘違いしてそうだが、まあ放っておこう。


「知ってるよ。よかったら案内してあげる!」


女の子はにっこり笑って、俺に手を差し出した。


俺はその小さな手に、少し多めに金貨を乗せる。


「えっ……こんなに?」


「案内の代金と、明日のパン代。サービスだ」


「……ありがとう!」


女の子は嬉しそうに笑って、軽い足取りで先を歩き出す。


その背中を見ながら、マオがそっと、俺を見上げた。


その目は、優しかった。


やがて、女の子は一軒の宿屋の前で立ち止まった。


「ここだよ。静かで、あんまり人こないよ」


「ありがとう。助かった」


「うん! バイバイ!」


女の子は手を振って、通りを駆けていった。


俺は、その小さな背中が角を曲がって消えるまで見送ってから、マオに向き直った。


「……じゃあ、行くか。魔王様」


「うむ。つ、疲れただけだぞ。ドキドキとかしてないからな!」


「わかったわかった」


俺は笑って、マオとともに宿屋「ヒルトン」の扉を開けた。



 * * *



宿屋「ヒルトン」に入ると、カウンターの奥に初老の宿主がいた。


「こんばんは。一泊したいんだけど、部屋、二つ空いてるかい?」


俺がそう言うと、背後から声が飛んできた。


「二部屋などもったいなかろう。一部屋で十分だ!」


「え、でも、お前……嫌じゃないのか?」


「な、なぜそこで私が嫌がると思ったのだ……。むしろ、金が浮いてありがたいだろう。それに……べ、別に嫌ではない……」


マオは耳まで赤くなって、もごもご言っていた。


……なんだろうな、この元魔王。ほんと最近おかしい。


「じゃあ、ツインルームひと部屋」


俺が言うと、マオが小声でぶつぶつ言った。


「べ、別に……ツインがなければ、ダブルでもいいぞ……。いや、むしろ……ダブルの方が……」


「ツインですね、はいどうぞ」


宿主が、あっさりと鍵を差し出した。


「……くっ」


がっかりした顔のマオがちょっとだけ背を丸めたのを、俺は見逃さなかった。


鍵を受け取って、俺たちは階段を上がる。廊下の一番奥の部屋に入る。


部屋にはベッドが二つと、中央には丸い木のテーブルとイスが二脚。シンプルだがセンスが感じられる作りだった。


まあまあの広さだと思ったが――


「ふむ……狭いな」


マオが部屋を見回して言った。


「そりゃあ、魔王城に比べたら、どこの宿屋も狭いだろうよ」


俺は荷物を隅に下ろすと、ベッドに腰をおろし、軽く伸びをした。


「はぁ~……今日はいろいろあってさすがに疲れたから、俺はもう寝るよ。おやすみ」


そう言って横になると、マオも静かにベッドに入った。


「……ああ。おやすみ……」


マオもベッドに入った。


しばらくして、部屋に静けさが満ちる。


けれど――


(……だ、だめだ……)


マオは寝返りを打って、じっと天井を見つめていた。


心臓がばくばくして、まるで寝つけない。


(け、ケイゴと……同じ部屋……同じ空間……近すぎる……)


「……スゥ……スゥ……」


ケイゴはすっかり熟睡している。


(こ、こやつ……! 私がこうして、寝られずにおるというのに……よくもまあ、そんなにあっさり寝られるな……)


ベッドの中で身をよじりながら、マオはもぞもぞと枕に顔をうずめる。


鼓動が、止まらない。


それでも、目を閉じたまま、ひとこと。


「……バカめ」


そう言って、顔を赤くしたまま、もう一度眠ろうと努力する魔王様だった。

読んでくださってありがとうございます!

第3話、いかがでしたでしょうか。

マオが寝てないのに気づいているケイゴがマオをからかうところと、宿屋の受付でマオがごにょごにょ言っているところがお気に入りです。

少しでも楽しんでいただけたなら、高評価&ブックマークしていただけると、とても嬉しいです!

よろしくお願いします!

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