五十寸法師①
突然だが『メスガキ』とは、挑発的な言動をとる少女のことである。
僕は現実で今まで見たことがない。
小学生の時に会っていたか?と聞かれたら覚えていないのでどうにもいえないのだが……。
まあ、とにかく今の今まで『メスガキ』という存在は見たことがなかったのだ。
この話をするということは、メスガキを見たのだろう?と大方予想がつくだろうが、まだ少し待ってほしい。もう一つの話も聞いて欲しいのだ。
『小針草子』は、僕ら2ーAの担任である。
身長は155cm程度、体重は知らない。スリーサイズは知っている方が怖いだろう。
よく生徒の相談に乗っていて、優しい先生……だと思う。
僕は今回が初の担任なので、曖昧になってしまうのは申し訳ない。
また、年齢は32歳くらいだと言われている……らしい。
これまた僕も噂話で聞いたことしかないので不確かである。
さて、ここで簡単な算数の問題をしよう。
アラサー+メスガキは、何になるだろうか。
メスガキは、アラサーに適応されるのだろうか?
……答えは正直僕にもわからない。
こんなことでシリアスになると思っていなかったから。
わかっていれば……もう少し違ったのだろうか。
いや、結果論か。
あらすじは……誰しも『子供に戻りたい』と口に出すことがあると思う。
それが不運にも、いや小針先生にとってどうかは知らないけど……叶っただけの話。
ああ、もちろん悪伽が関係している。
ーー7月19日、部活。
三連休の安らぎを経て再び勉強の場に戻ってきた。
が、もちろんのこと三連休後の学校など疲れている人が大多数。
帰りのホームルームが終わる頃には、教室が死屍累々になっていた。
「それは言い過ぎじゃないかな……」
小野から横槍が入る。
今は部活動をするために図書室へ向かっている。
同じ部活なので、二人で一緒に行くことにしたのだ。
ちなみに、「さんは何か嫌だ」という理由で呼び捨てになった。
如月以来2人目。嬉しい。
「そういえば、なんであの……悪伽?っていうのと戦ってるの?」
不意に、質問が飛んできた。
しかも回答に困るやつ。
答えはそりゃあるんだが……何故に今?
「ねえ、何で?何でですかー?おーい?ねえねえ……」
「うるせぇ!」
コイツこんなキャラだったか?
なんか鉄仮面の一件の時はもっと大人しかったはずだろ!?
「いや、実は少し疑問があってさ……悪伽って何なの?何がしたいの?」
「……図書室で話そうぜ」
そう言うと、無言の時間が訪れる。
……コイツ、現金だな。
無言の時間が流れて、図書室。
「で、どうしてなの?」
図書室に入るなり、鉄仮面を外して詰め寄ってくる小野。
部活中なので図書室には僕ら以外誰もいない。
如月も今日は用があると言って帰ってしまったからだ。
「んー。まず、悪伽っていうのは“概念”だ」
「概念?」
「説明がむずいが、まあ実態がないってことだ。例えば小野の“かぐや姫”……あれは、色々なことに使われているだろ?」
色々。
ゲーム、アニメ、漫画、小説の、元ネタ。
もちろんそれだけじゃないが。
「それにより、原本が歪む……間違ったかぐや姫が“概念”としてできる。で、魔素が組み合わさっちゃったのが悪伽だ」
「魔素が組み合わさったって……何でそこで異世界が絡んでくるんですか?」
ごちゃ混ぜのラノベですか?と言われた。
まあ、その通りである。
っていうか、魔素ってよくわかったな。
実は異世界転生系のラノベとかよく読んでる?
「如月が、去年こっちに来た時に異世界の魔素が流れてきたのが原因。あいつのせいだね」
「え……え……!?」
「で、悪伽は人の言霊に取り憑いて力を発揮する……前回だったら“綺麗になりたい”っていうのを実現するために力を発揮してたな」
「え。いやちょっと、その前の話で……」
「悪伽の目的は実体を得ること。駄々から力を発揮して衰弱させて乗っ取ろうとするんだ」
「聞いてくださいよ!!!」
そう大声をあげて、ガブっと肩を噛んでくる小野。
「痛ったい!何してんだよお前は!?」
都合の悪いことは無視するに限ると。
そう思っていたのが間違いだった。
「太刀凪くんが悪いんですよ……ハムッ」
「そんなどこぞやのエロゲーみたいなセリフを言うんじゃねえ!」
数十秒噛まれ続け、二人とも落ち着いた。
「……まあ、こんな感じだ」
「はい」
二人とも赤面しながら、違う方向を向いてしゃべる。
なんかコイツといると“そういう”イベントが起こる割合が多い気がする。
実はラキスケ要員のヒロインだったりして。
まあ、説明できたので結果オーライとしよう。
「って、まずい!」
図書室の備え付け時計を見て小野が叫ぶ。
なんか今日叫びすぎじゃない……?
「文芸部の先生って誰ですか!?私5時前までに入部届渡さないといけないんですよ!」
現在時刻、4時55分。
「え!ああ、平気だよ……だって顧問の先生は小針先生だろ」
「……あれ?そうでしたっけ」
「おまえ担任だぞ?」
「え、教室にいますかね!?」
「いると思うぞ」
ありがとうございます!と言って、図書室を去る小野。
なんか話が噛み合ってなかった気もするが、大丈夫だろう。
「何もすることないし、ついて行くか……」
廊下にあった自動販売機で緑茶を買って、教室に向かう。
緑茶うまい。
教室に着いた。
教室のドアにある窓部分から中の様子が見える。
そこから見えたのは、まるで二者面談のように座っている小野と先生。
神妙な話をしているように見える。
……入部届出すだけだろ?
「ざ〜こ♡」
ざ、こ?
今、確かに『雑魚』と聞こえた。
いや、あの先生に限ってそんなことは……。
「遅れるなんてカッコわる〜い♡おら、入部届だせ♡出しちゃえ♡」
先生がメスガキになってる。
何で?どうして?
何がトリガーでこうなった?
「あ、ああ、ありがとうございましゅう〜〜!!!」
小野は顔を恍惚とさせて罵倒を聞いている。
いや、何してんのあの人は。
……やべっ!こっちに気づいた!?
後退り。
「太刀凪く〜ん♡」
後ろの、“柔らかい”何かに当たる感触。
走馬灯のように、思い出す。
小針先生は、隠れ巨乳だと誰もが噂していたことを。
「ふふっ♡」
ハートが語尾につくような、甘ったるい笑い声。
それにより、得体の知れない感覚に襲われる。
「ようこそ♡」
そう言って、僕の手を繋ぎ教室へ招き入れる小針先生。
この時、僕は数学の問題が頭に浮かんでいた。
今思えば答えは間違っているのだろう。
メスガキ+アラサー=アラサーメスガキ。
小針先生は、アラサーメスガキなのだと……!