幕間『三連休』
今日から三連休。
7月16・17日が土・日曜日。
7月18日が海の日で休みである。
まあ、何もすることはないのだが。
「まあ、そうでしょうね」
「なんで僕の心の声に反応しているんだよ、如月」
僕の何気ない心の声に、如月が同意する。
現在、僕の部屋。AM10:00。何で如月がいるかというと、覚えていない人も多いと思うが、僕は小野さんの秘密を知るためにこいつに“魔法”を使うように要求した。もちろん対価を要求されたが。
その対価が『僕の部屋にくる』だったので、対価を払うためにうちに呼んだと言うことだ。
「……うわー。自分で言っておいて何だけど“対価を払う”ってなんかちょっと卑猥だな……キャッ♡(ここまで棒読み)」
「その僕の気持ちを勝手に捏造するのやめろ!あと“対価を払う”は卑猥じゃねえから!?それ等価交換している全ての錬金術師に失礼だから!無言で“キャッ♡”とかも言うな!」
別に何もする気はない。
ないったらない。
「で、何で僕の部屋に来るのを対価にしたんだ?」
「魔法使うならここが一番バレないかなって」
そう、自信満々に告げられる。
……やっぱりラブコメ的な理由ではないわな。
まあ、そもそも現実でラブコメを求めるのもどうかとは思うけれど、魔法が存在しているんだからそれぐらい良いじゃないかとも思ってしまう。
今の所ただの魔法とか道具使う異能力バトルだけど。
「魔法陣を描くので、そこら辺の公園でやると危ないですし」
「逆に聞くけど、何で危ない魔法をこの部屋でやろうとした?」
もちろんだが、僕の部屋は公園よりも遥かに狭い。
さらに一般的な机やベットもおいてある。
ってか魔法陣って、なにで描くんだよ!?
「……せめてウェットシートで取れるやつにしてくれ」
「シートに敷いて描くから平気ですよ。楽しみだなー」
僕の諦めの言葉、すなわち了承の言葉を聞いて、水を得た魚のように素早く準備に入る如月。
しかし、その顔からは楽しみとは思えない無表情。
……もうちょっと楽しそうな顔でやってくれたら了承した甲斐があったのに、とも思ったが如月にそんなことを求めるのも酷だなと感じた。
「………」
「………」
無言の時間。
ただ如月がシートに色鉛筆で描く音と、風の音しかこの部屋に存在していなかった。
……少し気まずい。
「そういえば太刀凪くん」
相手側も気まずかったのか、話しかけてくる。
「ん?何だ?」
「結局小野さんには触れたんですか?」
「……触れてないよ」
「え?」
「……?え、って何?」
何だよ『え?』って……。
本当に僕は触っていない。別に見返してもらってもいい。
「どっか触られたりしましたか?と後で聞いたとき、小野さんは顔を赤らめて黙り、頷くだけだったので」
滲み出ている事後感……!
何もしてない……というと嘘になるけど、触れたりは絶対してないから!
何で曖昧な表現にするんだよ!?
僕は無実だ!
変態では断じてない!
「いや、触ってなくても小野さんの下着姿を見たのは普通に変態ですから」
「………」
本当のことすぎて何も言えない。
悪伽の能力といえど、見たのは事実だしな……。
「まあそれは置いておいて、魔法陣できましたよ」
「置いておいて、一生そこから取り出さないでくれ」
何はともあれ、魔法陣ができた。
床に乗せると青色の光を放ち、なんか神々しい音がしている。
「で?何の効果があるんだ?これ」
「こういう効果があります」
僕の腕を掴み、魔法陣に飛び乗る如月。
すると、僕の部屋から景色が変わり、綺麗な夜空の見える場所になった。
「……転移魔法?」
「正解です」
あたりが自然に囲まれていて、蛍らしきものが飛んでいる。
……さっきまで朝だったはずなのに?
「ここ地球じゃなくて、私のいた世界ですから」
そう、あっけらかんと。
いつも忘れそうになるが、目の前の彼女は異世界から来ていたんだ。
なるほど……毎日これ使ってこっちの世界に来ているのか。
「何でこっちに来たか、わかりますね?」
笑みを浮かべて僕に問いかける如月。
何だろうか。
いつもと、違うギャップがある。
萌える。
「つ、月が綺麗だからか……?」
やばい。
変なこと口走った。
如月も心なしか少し引いているように見える。
「……正解です」
「正解なのかよ!ならそんな引くような顔見せなくていいだろうが!」
そうツッコむと、如月が澄ました顔になる。
え?そんな変なこと言ったか?
「私はあなたの労いになると思ってここに来たのですが……あなたがまさか告白してくるとは!いいでしょう……ここはあえて“ごめんなさい”」
そう言って謝られる。
45度、じゃない!?90度のお辞儀で。
「そ、違が、そういう意味で言ったんじゃないんだ!変に言葉の裏読み取るな!?」
必死に弁解するが、聞こえないふりをする如月。
そして後ろの木に隠れるのであった。
……弁解で疲れたので、彼女の敷いたブルーシートに寝そべり夜空を見上げる。
異世界には季節がないため夏の大三角形とかはないが、綺麗だ。
「おーい!如月も見ろよ!」
そう言うと、こちらに猫のように寄ってくる如月。
ともに空を見ながら、鉄仮面姫の事件の疲れを癒すのであった……。