鉄仮面姫④
対戦、なんて言ったが実際はそんなかっこいいモノではない。
あくまで掃除の延長、と言った方が合っているだろう。
「pぉきじゅhygtfrあws!!!ぁぁぁl!!!」
暴れ狂う姫。
その勢いのままとんでもないスピードで竹槍が飛んでくる。
……まずい、避けられない!?
「考えなしに突っ込むのはやめましょう」
瞬間、如月がはった結界により竹槍が全て弾かれる。
「さっすが魔法使い!」
「お世辞はどうでもいいので、さっさと吸い込んじゃってください」
ぶっきらぼうな返事。
裏を返せば、あまり余裕がないということでもある。
「わかってる!」
飛んでくる竹槍を結界で弾きながら、ただひたすらに姫の方に進む。
しかし、掃除機の間合に入った瞬間に姫が消えた。
「如月ィ!」
「わかってます」
如月が巨大な結界を展開し、姫の位置を炙り出す。
「……真上!」
「おっけい!」
上を見上げると、そこには姫の姿。
僕の結界が解かれているのを見て、ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべている。
大方、僕に竹槍が今度こそ当たるとでも思っているのだろう。
「残念だったな!」
僕は掃除機を上に高く掲げ、スイッチを入れる。
手に伝わる振動と、キュイーンという吸い込みの音。
「!あsxdcfvgbhんjmk!!!ィィィキイィk」
姫を吸い込むが、一部しか吸いこめていない。
……もしかしてパワーが足りない!?
「如月、これ力足りない!」
「使い手によって力が変わる仕様だからですね……さすが自称戦闘力5」
「ええ!?ごめん聞こえない!」
「はいはい、すみませんね」
ため息と共に、立てた人差し指をくるりと回す。
すると、掃除機に『強』のボタンが増設された。
「サンキュー!」
迷わずに『強』のボタンを押す。
ギュイイイーン、とさらに吸い込み音と力が強くなる。
「〜〜!!!!」
声にならない叫びを上げる姫。
そうしてそのまま、“スポン”という音と共に吸い込んだ。
『超越の麗美人』討伐完了、とでも言えばいいだろうか。
「はあ、つっかれた……」
僕はそのまま地面に座り、竹藪の空間が壊れてゆくのを見届けた。
「お疲れ様です」
そう言って、僕の手から掃除機を回収する如月。
それと同時に、ようやく見覚えのある校庭に戻った。
今回は、うまく行った。
次回があるかなんてわからないが、まあ今くらいは喜んでもいいだろう。
……ん。
今思うことじゃ絶対にないけれど、夕日が綺麗だ。
今まで帰ってる時は、そんなこと思わなかったのに。
「何感傷に浸ってるんですか、小野さんのところに行きますよ」
その如月の一言で、現実に戻ってくる。
僕は頷き、如月の腹に抱きつくと一発ビンタをされたのちそのまま飛んでくれた。
力がなくて落ちそう。
「上へ参ります」
「こんな危険なエレベーターないわ」
屋上に着くと、“素顔”の小野さんが僕たちを待っていた。
「た、太刀凪くん……それに如月さんも」
戸惑うような声。
彼女がどこまで知っているかで話が変わってくるが……。
「……ありがとう」
ペコリと、45度のお辞儀。
この週だけで何回見たかわからないその綺麗な礼に、失礼と思いながらも笑ってしまった。
いろいろ疑問があるのだろう。
そもそも屋上に来ているのも空飛びながらだし。
それでも、お礼が第一声にくるとはできた人だな、と思った。
「感謝されたら何か言うことがあるんじゃないですか?太刀凪くん」
小声で如月が伝えてくる。
お前も感謝されてるだろうが、といったら「確かに」と返ってきた。
ということで二人揃って返答。
「「どういたしまして」」
後書き、と称せばいいのだろうか?
まあ……要するに後の話、と言うことである。
屋上に行ってから、みんな見ているのに空を飛んだことに気づいたのだが……どうすることもできないので無視した。
如月も、「疲れて忘れてました、すみません」と言う始末。
まあ、そんな感じで7月14日は幕を閉じた。
次の日だが……まず空飛びが話題になっていなかったことが最大の救いだった。
そうそう、小野さんはこの一件が終わった後でも、鉄仮面をつけたまま過ごしてたな。
「転校した時からこのキャラだったので……今更変えてもおかしいと思って」
僕がキャラ立ちは高校において大切だと知った瞬間である。
ま、どのみち僕は皆から陰キャとしか思われていないだろうからセーフ。
でも、小野さんは姫の一件前より楽しく話せてそうだ。よかった。
後は……文芸部が3人になったと言うことくらい。
もちろん新部員は小野さん。
如月のこととか、自分から出てきた奴は何なのか?と言う話もした。
……話している時に如月から冷たい視線をもらいながら、だが。
全然関係はないが、悪伽を作った言霊に心当たりあるか、と聞けば……。
「うーん。かぐや姫と私の言霊から生まれたのがあれなんでしょう?なら……“綺麗になりたい”とかかもしれません」
小野さん曰くこの願いは、女の子の一生の願いらしい。
だとすれば、“かぐや姫”の美しさにもあっている。
美しすぎるが故に、不老不死の薬を蹴ってでも彼女と一緒に居たいと思う男がいるとか。
だから乱闘騒ぎが起きたりもした。
「綺麗になりすぎるのも、考えものですね」
そう、困ったように彼女は言う。
そこに今回の経験が詰まっている、そんな気がした。
こんな感じで、今回の騒動は終わり。
……如月からの竹篦返しの話は、しなくてもいいだろう。
しっぺ返しは、『竹篦返し』と書くそうです。
作者は初めて知りました。