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卵な隕石

作者: 水瀬 忍


「海」


そう呟いてみた。呟いてみただけで特に意味は無いが。強いて言うなれば海はおそらく夏を象徴するものであり、現在、正確に表記すると2024年8月24日の今日、偶然にも夏と区分される月の真っ只中であるということ以外において特に関係は無い。


真夏にわざわざクーラーが存在しない、そんな過酷な環境に手間をかけて行き、水着という日焼けを率先してしたいのかと問い詰めたくなるような衣装を着て不愉快かつ鉄板のように熱い砂の上を歩き、衛生的とはとても思えない水の中に自ら入って何が楽しいのかと思わなくは無いがしかし、僕には理解のできない、することが不可能な楽しさがきっとどこかにあるのだろうと投げやりな結論を無理やり差し込んで思考を放棄した。




何故「海」などという自分とは一切関係の無い世界のことに思いを馳せたかと言うと現在自分が住んでいる部屋の状況が海と似たような環境になってしまったのでは??と感じたからである。いや、僕がそう感じただけで他人から見たらただただ悲惨な状況というだけなのかもしれない。愍然たる状況というだけなのかもしれない。




既に何度も見渡し、あるいは現実確認を行った部屋を再び見やった。正直現実確認ではなく現実逃避をしたいのだがそんな悠長なことを言っている暇はなく、今すぐにでもこの部屋を脱出すべきであることは誰の目にも明らかであった。何がいけなかったのかと問われればそれはもちろん川の真横に建てられ、その上1階の格安アパートを借りた僕が悪いのだが、しかしだからと言ってこんな大惨事になるなんてことは誰も想像もできなかっただろうし、このアパート以外の住宅も同様に被害を受けているのだからこれは仕方がない事とも言えたのだ。何故ならこの大洪水を引き起こしているのは台風や大雨などそういった現実的なものではなく宇宙から飛来した巨大な隕石なのだから。いや、もしかしたら隕石もあるいは現実的なものに含まれるかもしれないが正直「そんな馬鹿な。」と言いたいところではある。


何故そんなことが起きたのかは一般市民である僕の知ったことでは無いが、知り得ることでもないがニュースを見る限り嘘では無いらしい。しかもその迷惑な隕石はお隣の県の、この洪水が起きている川のちょうど上流地点に落ちたのだそうだ。そして最悪なことに、その落下地点である上流地点であろうことか卵のようにふたつに割れ、中に内蔵されていた水と思われる液体がこの川に流出したのだ。一体どんな確率だと言うのだ。全ての情報源であるスマートフォンには繰り返しヘリコプターで撮影された航空映像が流されていたが、僕は意を決してそのスマートフォンをズボンに仕舞い、ベッド横の窓を開けた。そしてそこで僕が見たのは人類対宇宙人の対侵略戦争だった。


・・・


...という訳もなく見えたのはただの水没した住宅街だった。当たり前と言えば当たり前ではあるのだがああも巨大な隕石が落ちてくるとやはり宇宙人を連想してしまうのは仕方がないというかロマンというかー別にそうあれと思うわけでは無いのだけれども、どうあれこの状況に現実味が無さすぎて、現実がリアリティに欠け過ぎていて、SF映画を連想してしまうのもここでは仕方がないと言うべきだろう。


「さてと。」

声に出して言うことで強制的に思考を切り替える。ひとまず部屋から出ることは決定しているのだがその後どこに行くことが出来るのだろうか。そこで初めて何となく窓のすぐ下、つまり地面を見た。いや、()()()()()()というのが正しい。何故ならそれを見ることは叶わなかったからだ。消失していたのだ。地面が。いくら水没しようとも地面が無くなる筈が無いのに。1mほど水没している為、水が濁って見えないという可能性は大いにありうるだろうが。(1mというのは部屋の中の家具の沈み具合から予測したただの目算である。)しかし水は濁っているとは程遠い程に澄んでいてーそれどころか世界一透明度の高い湖であるバイカル湖をも抜くのではないか思ってしまうくらいに、不自然なくらいに透明で、しかし底が無かった。見る限り底が見当たらなかったのだ。


・・・


さて、ここでひとつ問題だ。

人間誰しも訳が分からない状態に陥る可能性はゼロでは無い。寧ろ場面を限定しなければそのような事は日常茶飯事だろう。だがしかし、日常茶飯事だからと言ってその都度懸命な、最適な判断が出来るとは限らないものだ。特に情報が限られ、平常を失い、混乱の末に起こした行動なら尚更だ。何が言いたいのか分からない?それは自分で考える事だ。物語の行く末も、結末も。何時何時それが自分の身に降りかからないとは限らないのだから。

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