プロローグ
不意に風が吹き、靡いた花びらが空高く渦巻いていた。
その周りでは少年少女がかわいく悲鳴して、その様子を保護者である長身の女が微笑ましく思いながら眺めていた。
それに呼応するように鳥がさえずり、仲間に入れてほしいのか集団の周りをウロチョロと飛び回る。
平和。この二文字はこの空間のために生まれた言葉なのだろう。
「総員、退避!」
前言を撤回させるかのように、下の地上から再び怒号と爆発音が鳴り響いた。
「また始めましたか」
保護者の女が、同世代の輪に入らず穴から地上をずっと眺めている少女に近づいた。
「今までで一番短かい停戦だったかも。まさか5分も持たないなんて」
「人間とはそういう生き物なのですよ。ほら、アスクルもあっちでみんなと遊んだらどうですか?」
アスクルと呼ばれた少女は、退屈そうに首を横に振り、視線を地上に戻した。
「こっちの方が楽しそう」
「物騒なことを言わないでください、そんな子に育てた覚えはありませんよ」
「ねぇねぇ使長様、降りちゃだめ?」
「降りないと約束できるのであれば、このまま地上の様子を見ていてかまいませんよ」
溜息交じりに、使長と呼ばれた女は再びアスクルから離れていった。
ここは天界。天使たちが住まう場所。