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ショートショート4月〜4回目

永遠に遊べるおもちゃ

作者: たかさば

 父ちゃんに、おもちゃセットをもらった。

 バースデープレゼントなんだってさ!


 茶色い紙袋の中には…ゴムグライダーに風船、癇癪玉にでっかいスーパーボール、竹とんぼにパチンコ、これは…ダーツ?

 ヨーヨーにアメリカンクラッカー、BB弾のピストルにシャボン玉…盛りだくさんすぎてびっくりだ!これだけあれば、永遠に遊べるぞ!!


「ちょっと!!家の中で遊ばないでちょうだい!!」


 母ちゃんにこっぴどく怒られたので、袋を抱えたまま裏山の神社に行くことにした。

 ここならどれだけ飛行機を飛ばしても、風船を破裂させても、癇癪玉を踏んでも、スーパーボールを跳ねさせても、竹とんぼを電灯にぶつけても、パチンコで的を撃ち抜いても、紐が長いままヨーヨーをやっても、うるさくクラッカーを打ち鳴らしても、あちらこちらにBB弾を撒き散らしても、シャボンを飛ばしても、怒鳴られる事はあるまい。好きなだけ遊び続ける事ができそうだ!


 制限なく思いっきり遊べるようになった俺は、夢中でおもちゃを遊び倒した。

 いつもは近所のガキ大将にかっぱらわれて泣いてさっさと家に帰るのがオチなんだけど、今日はウザイ取り巻きもめんどくさい女子もいない。

 自由気ままにマイペースでおもちゃを遊べるのが、うれしいのなんのって!


「ねえ、何してるの?」


 お堂の前でゴムグライダーを組み立てていると、見たことのない子供が声をかけてきた。

 俺よりもちょっと小さい、なんとなく気弱な感じの…男子、だよなあ…?

 年下なら、面倒を見てやらねばなるまい。


「いっしょに遊ぶ?」

「うん!」


 知らないやつと一緒に、父ちゃんのおもちゃで遊ぶことにした。


 癇癪玉を怖がるようなビビリだし、ちょっと優しくしてやらないとな。

 風船を割ってへこんでるから、元気付けてやりたい。

 スーパーボールを追いかけて派手に転んだので、絆創膏を貼ってやった。

 竹とんぼを神社の屋根の上まで飛ばされたけど、許してやった。

 パチンコで葉っぱを狙って落として一緒に喜んだ。

 ヨーヨーの紐が切れるまで技を練習した。

 クラッカーが欠けるとか思いもしなかった。

 飛ばしたBB弾を集めながら、何度も発射した。

 シャボン液を使い果たしたあと、一緒に手を洗った。

 ダーツのマジックテープがばかになるまで楽しんだ。


 いつの間にか、長年の親友のようになっていた。

 なんていうんだろ、いやな事はしないし、気が合うというか…一緒に遊んでいて、すごく気持ちの良いやつだったからさ。


「ねえ、いつまで遊んでくれる?ずっと、遊べる?」


 ずいぶん遊んだと思っていたのに、まだ日はかなり高い。


「日が暮れるまでかな?」


 腹も減ってないし、まだまだ遊べそうだ。

 せっかく仲良くなれたんだ、もっと遊んでいたいな。でも、あらかたおもちゃで遊び尽くしちゃったしな…。


「僕のおもちゃでも…遊ぼうよ!」


 新しい友達の差し出した、見た事もないおもちゃに手を伸ばした。


 糸をぐるぐると巻き取るおもちゃ…つまらなそうに見えたけど、最後までやらずにはいられない。

 強力磁石でくっついてる?二つの玉を手のひらの上で転がすおもちゃ…中毒性があってやめ時がわからない。

 指先サイズの人形を投げつけあって、倒したものを積んでいくゲーム…ついつい熱中してしまって勝つまで何度もやり続けた。

 カラフルなスライムを混ぜていろんな形状に変化させるおもちゃ…全通りの混ぜ方を試してみるまではとがんばった。

 おばけに名前をつけて呼びつける遊びがおもしろすぎて…声が枯れた。

 いろんなモノが見える不思議なめがね…どこを見ても見た事がない風景が見えるのでついつい独り占めしてしまった。


 親友は、俺が何をしてもニコニコとしていて…。


「あ、もう夕方だ!そろそろ帰るよ!」


 気がつけば、空がオレンジ色に染まっていた。

 ここから家までは歩いて15分かかる。

 日が沈む前に帰らないと、母ちゃんがまたうるさいんだよなあ……。


「うん・・・長い間、一緒に遊んでくれて、ありがと!」


 にっこり笑った友達に、笑顔を返す。


「またなー!!!」


 俺は、友達に、手を振って。

 神社の角を曲がって、振り返り。


 最後にもう一度、手を、振ってやろうと……。



「・・・うっ!!」



 まぶしい夕日を、真正面から見てしまって……目が、眩む。



 よたよたと・・・前に進みながら、視線を、下げて…前に、進む……。



 俺は、家に、帰ろうと……。

 家に帰って、母ちゃんが……。



 たっぷり、遊んだから、帰らないと。

 遊びの時間は、終わったから、帰らないと。



 ……終わった?



 そうだな、仕事は終わったんだ、まっすぐ家に帰らねば。

 今日の現場はきつかったからな、腹も減ってるんだよ。


 今日は、父ちゃんの月命日。

 母ちゃんがいなりずしを作って、待ってるはずだ。


 ・・・いかんなあ、ぼんやりして。


 20年も前のことなのに、つい今さっきのように感じる。


 不思議なもんだ。

 俺は10歳から30歳まで…20年の月日を過ごしてここにいるはずなのに。


 まるで…生きてきたすべてが薄くなったような。

 一気に時間を飛び越して…大人の自分に乗り移ったような。


 ……疲れてるのかな?

 早く帰って、風呂に入って…寝よう。


 久しぶりに風呂に入って、母ちゃんのうまい飯を食べたい。

 ……昨日も風呂に入ったはずなのに、久しぶりって何なんだ。今朝だって、かあちゃんのメシ食って出勤したのにさ。

 過去の記憶に引っ張られるとか、相当だな。


 ・・・やっぱり、疲れているようだ。


 俺は、いつの間にか左手の中にあったスーパーボールをぎゅっと握りしめながら…家路を急いだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 浦島太郎
[一言] ああ、色々懐かしいオモチャがたくさん…… ぞわわわわーっと来る怖さを感じつつ、でも何故かじーんと来てちょっとあったかい心地もするような、不思議なお話しでした
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