トライアングルレッスンM 「微笑って...」
「ねぇ、たくみ・・・わたしどうしたらいいのかな・・・ただ、ひろしのことが好きなだけなんだけどな・・・」
俺の目の前で、ゆいこが静かに目を伏せて涙を流す。
俺は抱き寄せたくなる衝動を堪え、ぎゅっと手を握りしめた。
学生時代、俺とひろしとゆいこはいつも一緒にいた。
ゆいこより一足先に社会人となり、甘くない現実の荒波に揉まれ、俺たちは周りが見えなくなっていたのかもしれない。
「わたしとは住む世界が違っちゃったみたいだよ・・・」
ゆいこが寂しそうに呟く。
子供の頃からずっと、ゆいこはひろしが好きだった。
そして俺は、あの頃からずっとひろしを見つめて微笑むゆいこを見つめてきた。
「大丈夫だって。くそ真面目なあいつのことだ、今は慣れない環境にテンパってるだけだって。・・・別に、お前のこと嫌いになったわけじゃないって。」
その大きな瞳にあふれんばかりの涙をためて、ゆいこが俺を見る。
「ただ好きってだけじゃ、一緒にいられないのかな・・・」
「大丈夫だって、あいつだって・・・お前のこと、ちゃんと考えてるよ」
俺は、あいつが将来のために・・・、ゆいこのために・・・と躍起になっているのを知っている。
「好きだって・・・伝えたいのに・・・ひろしの気持ちが見えないよ・・・」
頬に伝う涙を拭うゆいこの頭にそっと手を置いた。
どう慰めるべきなのか迷い、唇を噛む。
大丈夫・・・あいつはお前にことが好きだよ。
そう伝えてしまえれば、こいつの涙も乾くのだろうか。
でもなんだか悔しくて、その言葉を言えないでいる俺は、卑怯だろうか。
俺だって、お前が好きなんだ。
でも・・・。
かけがえのないお前だから・・・。
ずっとひろしの隣で微笑っていて欲しいから・・・。
俺は携帯を取り出すと、ひろしの番号へ発信した。