転生した先の旦那がクソ野郎でした
大正12年ー…4月上旬
そよ風に舞う桜の花びらと共に、その女はやって来た。
仕立ての良い淡い水色の着物は加賀友禅だろうか、はたまた京友禅か?
白い大輪の花が咲く着物に銀糸で紡いだ見事な帯に目を見張ったが、其れより何より驚いたのはその女の容姿だった。
「初めまして、本城 久乃です。
本日から末永くよろしくお願い申し上げます。」
深々と一礼しながら女は俺の顔を見上げる。
やはりー
その瞳と合った時に確信した。
久乃と名乗った女の異様な容姿が馴染みのない異国のモノだった。
日が透ける様な薄い茶色の髪に深い海の色をした碧い瞳。
血色の良い唇にそれを引き立てる白い肌。
まるで、以前読んだアンデルセンの[人魚姫]そのものだと思った。
「あの、、尾形 雨空さん…?でいらっしゃいますよね?」
久乃は俺が立つ後ろに見える表札と交互に見合っておずおずと聞いてきた。
家には俺1人しか住んでいない。
その事情を知らされていれば、この小さな平家の主人がその前にいるのだ間違いはあるまいと確信を抱きつつも自信なさげに問いかける声に「あぁ。」と返した。
「よかった、やはり貴方が雨空さんでしたか。
あの…もしやお出かけになる所でしたか?
本日、私が此方に嫁入りするお話は聞いておられましたでしょうか…」
せっかく嫁に来たというのにまるで知らぬ素振りの男に困惑の色を示した久乃に俺は少し…いや、かなり苛立っていた。
もちろん、嫁が来るとは聞いていた。
だが、その嫁がまさか異国人の血が混ざっている女でしかもまだ年幅も15や底らの少女だったものだから悪い冗談としか思えなかった。
「嫁って、君が?
は…っ、まさか、笑えるな。
お前、まだ子どもじゃないか。」
両親が寄越した勝手な結婚話。
どんな女が来ようと自分にはこれしきも興味が湧かない。
どうせ名前だけ、形だけの夫婦だ。
ところがなんだコレは?
自分の両親も久乃の両親も俺を馬鹿にしているのか?
沸々と湧きあがった苛立ちは直ぐ目の前の久乃に向けられていく。
鼻で笑い、冷めた目で久乃を見下す。
「はい…いぇ、、あの…私は先日17歳になりました。
雨空さんは19歳と聞いていますから歳の差は僅か2歳という事になります。
ですから…あの…さほど、可笑しな事はない…かと…」
俺の顔色を伺うような上目遣いで久乃がそう言う。
怯えているのか声は相変わらず震えていた。
「17だと?
お前、まるきし色気ってもんがないんだな。」
ふ〜ん、と頭からつま先まで見る視線から久乃は逃げる様に「あ…っ」と声を漏らして顔を赤くすると身体を小さく抱え込む。
「ふんっ、まぁ、いいさ。
空いてるから勝手に中に入ってくれ。
俺は用があるんだ。」
家の軒先を指して小さくなった久乃の横を通り過ぎた。
背に「あの…っ」と声が聞こえたが、気のせいだと無視をし待ち合わせの場所に向かう。