自称黒魔術師の禁忌なる召喚
昨日が今日になる時。今日が明日になる時。
夜と朝の間は、少し青みがかった空が星々を眠らせる。
僕は、そんな空を窓から見やり、カーテンで閉め、踵を返す。
最後の窓から光を失った暗い部屋を眺める。真っ暗で見えはしないが、どこに何があるかは、僕の頭の中にある。
心の中で一、二、三と数えながら僕は前進する。
前に五歩、そこから右へ二歩。ここがポイント地点だ。
期待に胸が高鳴り、鼓動が早くなっている。高鳴りを抑えるようと、ゆっくり深呼吸をひとつ。
そして、僕は唱える。
「---全ての万物に告ぐ。我、万物を操る者なり。」
呪文を唱えると、柔い風が頬をかすめ、足元に描いておいた魔法円と、召喚用の魔法円が輝きだす。
魔法円の光に照らされ、床、壁、天井に徹夜して書いた赤黒い呪文がよく見える。新聞の記事の様に、文字でびっしり敷き詰められている。
この呪文は、大魔術探知避けの対策だ。この部屋を覆うように書いた呪文によって、外部へ魔力が漏れ出し、外部者に”この大魔術”の使用を悟られないようにするためだ。
なにせ、僕がこれからすることは禁忌なのだから。
「我、天地を導く者なり。されど帰ることならず。
古き同志よ、黒き血の風をまといし我の願いを聞き届けよ。」
柔い風が、強くなる。部屋を駆け巡る強風に体が揺れ動き、思わず口を閉じてしまいそうになる。
負けじと踏ん張りながら、口を大きく開き叫ぶ、同時に想像する。
僕の求めているモノ。
僕の手に入れたいチカラ。
僕の壊したい世界。
「いでよ!世界最強の覇者!!」
ボンッと、爆発するような音ともに、目の前から突風と白い雲のような煙が襲い掛かる。
両腕で顔をガードするも風には耐えられず、背後にある魔法円の壁にぶつかった勢いで、尻餅をついてしまった。痛みを我慢して、召喚用の魔法円の方へ目を細めて見る。
部屋中のカーテンが最後の突風で飛ばされ、この場に朝日が差し込み、五メートル先に何かの気配を感じた。
そこは、召喚用の魔法円の真上にあたる。
僕は、体中に心臓がいっぱいあるのでは?と、思うくらい心臓の音がうるさい。
召喚魔術は成功だ!魔獣の王か?それとも、ダークエルフの王?
はたまた、凶悪なドラゴン王か?
きっと、すごく悪く強い世界の魔族が召喚されたに違いない。これで世界は僕の思うままだ!!ふっはははははは!!!
と、3秒ほど勝利の優越にひたっていたら、風は消え、召喚用からでていた煙が薄れて朝日によりその姿が現れた。
床からゆっくり上に見やると、人の足、男性用のパンツ、人の背中・・に大きな傷痕、黒い髪・・・のようなものが見えた。
いや、見た。朝日に照らされ片足立ちで、今パンツをはこうとしている真っ裸の人間の男を。
見たくもないものは、まぶしい光で輝いていた。
「ゲホッゲホッ・・・なんなんだ。あれ?ここどこ?」
キョロキョロ見まわす男は僕と目が合うと、苦笑いしながら尋ねてきた。
「あ、そこの僕?ここどこかな? 俺、風呂場にいたはずなんだけど?」
僕の嫌いなもの。
僕を子ども扱いする大人。
僕の邪魔をする者。
ただの普通の人間。
俺は勢いのまま人間の男に、手にしていた分厚い魔術書を投げつけた。