第九話
冬が訪れる前。
遂に書庫の本を読み尽くしてしまった。
知識の吸収が頭打ちになったのも痛いが、主な熟練度稼ぎの手段を失ったのも痛かった。
何か手軽に熟練度を稼ぐ手段を見つけなければ、学園に行くまで成長が止まってしまう。
ゲーマーとして、それはあまりにも酷い仕打ちである。
僕は内心の焦りを隠しながら、過ぎていく時間を惜しみながら屋敷を散策する。
結果、見つけたのは今は使われていない錬金術の工房だった。
ホコリだらけでまずは掃除から始めなければならないが、森で薬草を採取してポーションの作成などをすれば熟練度を得られるかもしれない。
そもそも『ソード&ソード』はアイテム制作の自由度がかなり高いゲームだった。
ここいらで生産系スキルに手を出すのも悪い選択肢ではないように思えた。
最大の難関は森へ出かけることだ。
未だ七歳の僕がひとりで護衛なしに森に出かけることは、父にバレたら外出禁止を言い渡されるのが目に見えている。
しかし他に有意義な時間の過ごし方がない以上は、直訴するしかない。
……覚悟を決めるか。
僕は父の説得に乗り出した。
「森へ薬草採取に行きたいだと? バカを言うな」
「バカじゃありませんよ、父上。書庫の本はもうすべて読み尽くしました。新しいことに着手したいのです」
「は? 書庫の本をすべて? それは本当か?」
「はい。勉強も学園で習うことをしていますし、このペースだと学園に入学する前に学園で学ぶことを学び終えてしまいそうです」
「……それは家庭教師から聞いている」
「森の浅いところで薬草を採取するだけでいいんです。ゴブリン程度なら問題なく相手できることは、父上もご存知でしょう」
「森に出るのはゴブリンばかりではない」
苦虫を噛み潰したような顔で父は言った。
「ならば新しい本を購入してくれますか? 僕が一日に一冊以上、読むことはご存知ですよね? そのペースに合わせて本を用意してくれたら、錬金術に手を出すのはやめますよ」
「阿呆。そんなに本を買ったらルークエンデ領の財政が傾くわ」
「ではどうか森へ行く許可を」
「……むぅ」
父は小さく唸ると、しばし黙考した上で答えた。
「護衛をつける。必ず護衛の言うことを聞き、危険なことをしないと誓えるならば、許可しよう」
「ありがとうございます!」
そうしてつけられたのは、女性冒険者のタチアナだった。
「坊っちゃん。森は危険なところです。浅い箇所でも、何かの弾みに強力な魔物と遭遇することもあります。そのときは私が時間を稼ぎますから、一目散に逃げてください」
「はい!」
「準備はよろしいですね? では参りましょう」
バックパックには遭難したときのために携帯食料と水袋が入っている。
他に薬草採取用の鎌、薬草を束ねるための麻縄。
腰には実剣を帯剣している。
タチアナは貴族の子供が目一杯、威勢を張っているようにでも見えるのだろう、胡乱げな眼差しでチラリと腰の剣を一瞥された。
これでも結構、強いつもりなんだけどね。
さて護衛のタチアナの実力は?
こっそりと〈ディテクト・ステータス〉を行使してみた。
《名前 タチアナ 性別 女 年齢 16
【器用】163 【敏捷】133 【感知】154
【筋力】112 【体力】176 【知力】117
【魔力】120
〈剣技〉Lv5 〈盾技〉Lv6 〈索敵〉Lv2
〈持久力〉Lv4 〈集中力〉Lv3 〈火魔術〉Lv3》
懐かしの『ソード&ソード』のステータス画面だ。
比較用に僕のステータスもどどん。
《名前 ロイク 性別 男 年齢 7
【器用】115 【敏捷】126 【感知】103
【筋力】110 【体力】105 【知力】377
【魔力】144
〈剣技〉Lv3 〈俊足〉Lv2 〈軽業〉Lv2
……》
知力とスキル数は圧倒しているけど、基礎スペックで水を開けられている。
七歳と十六歳を比較すればこんなものかな。
戦闘経験のない平均的な成人男性のステータスが100だから、実のところ僕は七歳児としては破格のステータスを誇っているのだけどね。
しかしタチアナも凄い。
十六歳でこの数字、しかも〈剣技〉と〈盾技〉はレベル5を越えている。
かなり才能と環境に恵まれていたと見える。
父上は護衛役に相当、気を使ったみたいだ。
ロイク・ルークエンデ(男/7歳)
【魂】
└【前世の記憶】
【肉体】
├【器用】
│ └〈剣技〉Lv3
├【敏捷】
│ ├〈俊足〉Lv2
│ ├〈軽業〉Lv2
│ └〈水泳〉Lv1
├【感知】
├【筋力】
│ ├〈格闘技〉Lv2 update!
│ ├〈膂力〉Lv2
│ └〈瞬発力〉Lv2 update!
└【体力】
├〈持久力〉Lv3
└〈持久走〉Lv1
【精神】
├【知力】
│ ├〈集中力〉Lv3
│ └〈記憶力〉Lv10
│ ├〈模倣〉Lv2
│ ├〈写真記憶〉Lv2
│ └〈記憶の図書館〉Lv2
│ └〈検索〉Lv1
└【魔力】
├〈魔力操作〉Lv2
├〈魔術制御〉Lv1
├【水属性】
│ └〈水魔術〉Lv2
├【光属性】
│ └〈光魔術〉Lv1
└【情報属性】
└〈情報魔術〉Lv1 new!