第五十五話
地底城塞の外側に築かれた陣地に多くの魔族が出ていたためか、城塞内は手薄だった。
散発的に襲いかかってくる魔族たちを前衛三人で瞬殺していく。
フェリシアの魔力は温存だ。
温存するまでもないかもしれないが。
城塞の構造は前世のものと同じだったから、まっすぐに魔族の王がいる玉座の間を目指す。
今の僕たちを阻めるような魔族は、いなかった。
「よもや人間にここまで攻め込まれようとはな」
魔族の王エーレンフリートは苛立ちを隠さず吐き捨てた。
〈魔力視〉がなくとも立ち上る魔力が見て取れる。
玉座から立ち上がったエーレンフリートは、傍らの王笏を手にして掲げた。
「来るがいい、人間ども。女子供に負けるほど魔族の王は脆弱ではないぞ!」
「先手必勝!」
リーリエが叫びながら踏み込む。
その恐るべき速度にエーレンフリートは瞠目した。
「くっ!?」
「やぁッ!!」
剣戟の音が玉座の間に木霊する。
リーリエのオリハルコンの聖剣を受ける度に、エーレンフリートの王笏に歪な傷跡が増えていく。
「な、なぜオリハルコンの剣を……しかも聖属性が付与された聖剣だと!?」
「やぁッ! やぁッ!」
「くそ、退け小娘! 〈オーバーブロウ〉!」
魔力の力場がエーレンフリートを中心に広がる。
リーリエはすかさず飛び退くと、入れ替わるようにフェリシアの魔術が放たれた。
「くらいなさい! 〈フレイムランス〉!!」
それは対人攻撃魔術の基礎にして奥義。
精霊の加護を得た火炎の槍は、渦を巻きながら魔力の力場を貫きエーレンフリートに迫る。
「なんだこの火力は!? う、うおおおおおおお!?」
ゴウ、と火炎の槍に貫かれたエーレンフリート。
しかし闇の衣が魔術の威力を大きく減殺し、なんとか生き延びる。
すかさず飛び込んだのはシャルロッテだ。
オリハルコンの大盾を前面に展開してのシールドバッシュを繰り出す。
その威力はトラックと正面衝突するようなものだ。
エーレンフリートは迫りくる壁に恐れおののき、遂に王笏のチカラを解き放った。
王笏のチカラは時間の停滞。
突進する壁、シャルロッテの歩みが鈍くなる。
「く、来るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「〈ヘイスト〉!!」
シャルロッテは時間加速の魔術で王笏の時間停滞のチカラを上書きし、玉座に突っ込む。
玉座は粉々に砕け散った。
だがそこにエーレンフリートは既にいない。
横に回り込むようにして回避したエーレンフリートは、腰のレイピアを抜いてシャルロッテに突きかかる。
だがシャルロッテは素早く巨大な盾をエーレンフリートに向け、レイピアの刺突を防ぎきった。
エーレンフリートは白兵戦が不利だと悟ると、距離を取って魔術の準備に入った。
「はあ、はあ、――〈ライトニングボルト〉ぉ!!」
雷が矢となってシャルロッテに襲いかかる。
「きゃあ!?」
「く、雷耐性の鎧か!?」
そう、全属性に耐性を持った防具を全員に用意してあるため、エーレンフリートの攻撃魔術はいずれも大きく軽減される。
何事もなかったかのようにシャルロッテは前進し、開いた距離を詰めて剣を振るった。
「オリハルコンの大剣!? くそ、厄介な……!!」
レイピアで打ち合うにはその大剣の重量は致命的。
エーレンフリートは避けるのに手一杯で、反撃もままならない。
……勝負あったな。
僕は〈隠密〉しながらそっと近づき、エーレンフリートの首をはねた。
「あ、ズルいですよロイク。私が戦っていたのに!」
「すまないシャルロッテ。だがトドメくらい僕に譲ってくれても良いだろう?」
「もう……仕方ないですね」
僕はエーレンフリートの遺体と各種装備を〈インベントリ〉に仕舞い、地上に帰還することにした。
地上の陣地の熱はようやく冷めてきたようだが、温かい風が吹き付けてきた。
「ルーセルガルト公爵!」
「やあヴィクトル団長。魔族の王は無事に討ち取ったよ」
「おお、では魔族は根絶やしになったも同然ですな。……しかし公爵もお人が悪い。最初から自分たちだけで決戦に臨むつもりだったのですか?」
「結果としてはそうなったね。ちょっとフェリシアの大魔術の威力が思ったより大きくて」
「ちょ、私のせいにしないでロイク!」
フェリシアの抗議をなだめながら、僕たちは後片付けを第二騎士団に任せて、一足先に王都へ戻ることにした。
ハヤテに乗って凱旋である。
王都に戻ったら第二騎士団の帰還を待って、祝祭が執り行われることとなった。
主役はもちろん僕たち。
第二騎士団は何もしていないが、戦勝の功績を独り占めする気はないので、パレードの主役として第二騎士団も晴れ舞台に上がることとなった。
かくして僕たちの戦いは終わった。
魔族の王を討ち果たすという快挙を成し遂げた英雄ロイク・ルーセルガルトは、後世にまで語り継がれることとなる。
だが僕としてはまだ人生の途上。
学園の入学すらまだなのだ。
出会っていないヒロインもふたりいる。
婚約者は既に三人もいるから、これ以上増やすことはないと思うけど……才能は確かだから、ルーセルガルト領にリクルートするのもいいかな。
季節は巡り、また春がやってくる。
制服に身を包んだ四人は、魔族の王を討伐した功績で王都に貰った屋敷から馬車に乗り学園を目指す。
平民だったリーリエはやはり魔族との戦いの功績で名誉士爵となり、めでたく貴族の末席に名を連ねることとなった。
僕たちは日課となったオープンフィールドでの修行を続けている。
リーリエとシャルロッテはもうバララエフと互角以上に戦えるようになった。
フェリシアは属性魔術を極め、学園では僕と一緒に精霊術の勉強をすることに決めている。
僕はといえば、熟練度を溜めて新たなスキルツリーのコンプリートに余念がない。
それでもやっぱり最初に〈記憶力〉特化ビルドにしたのは正解だったと言わざるを得ない。
僕の人生はまだまだ続く――。
これにて『僕だけスキルツリー ~〈記憶力〉ツリー特化ビルドで最強です!~』は完結です。
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作者にとって励みになりますので。
1日2回更新で1ヶ月未満の短期集中連載でしたが、無事に完結できて良かったです。
残るヒロインふたりと学園編は……後日談にしようかと思ったのですが、これといった事件も思いつかずに断念しました。
あしからず。
それでは次回作(未定)でお会いしましょう。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
 




