第五話
イチェリーナ先生は王都で魔術師学院を卒業した才媛である。
三十路手前だが実家が貧乏で結婚どころではないらしい。
美人だし出るとこ出てるし、モテないはずもない。
実際のところ、貴族の愛人狙いで家に来てみた、というのもありそうな話だった。
さすがに本人に直接、確認するようなことはしていないけど。
「さてロイク君の属性を調べましょうね」
「はい。先生は属性判別水晶をお持ちなのですね?」
「あらよく知っているわね。そうよ、属性は魔術具である特殊な水晶で調べるの。これがそうよ」
実物は初めて見る。
いや『ソード&ソード』では、ゲームの最初のキャラクター作成画面や、冒険者ギルドなんかへ行くと見れるのだけど。
ポリゴンの塊ではない実物の水晶は、透き通った美しいものだった。
「これに魔力を流すのだけど……魔力の制御を学んでいない今のロイク君は、これに血を垂らすことで魔力を識別することになるわね」
そう言いながらイチェリーナ先生はナイフも渡してきた。
僕は親指をチビっと切って、プックリと浮き上がってきた血玉を水晶に触れさせた。
「君、躊躇なく切るわね……」
「え? でも血が必要なんですよね?」
「そうだけど……もっと嫌がるかと思ったわ」
水晶は青と白のマダラ模様となった。
「あら、水属性と光属性じゃない。凄い、治癒魔術師向きよ」
「そのようですね」
「あら驚かないの? 水属性と光属性を併せ持っているなら食いっぱぐれることないというくらい便利な属性なのに」
「いえ、ありがたいのですが……治癒魔術師として生きていくつもりはないので」
「もったいない……安定した高収入よ? 貴族の三男ならいずれ自分の力で身を立てないといけないでしょう。そのときの選択肢になるんじゃないかしら」
「そうですね……選択肢は多い方がいいですよね」
七歳児に将来をとやかく言われても実感が湧かない。
今の所は〈記憶力〉特化キャラクターとなっているが、〈剣技〉の伸びも悪くない。
これに回復を中心とした魔術を備えれば……割とひとりでなんでもできる万能キャラクターになるわけだ。
これで生涯を怪我人や病人の相手をし続けるというのも、もったいないじゃないか。
確かに治癒魔術師は安定した高収入が見込めるが、今からそうと決めて修行する気にはどうしてもなれない。
希望を言えば『ソード&ソード』の世界を自由に生きたい。
そうすると冒険者か、となるのだが、それはそれでリスキーな選択肢でいまいちピンと来ない。
とりあえずは学園でモラトリアムを過ごしながら、将来のことをゆっくり考えればいいと思う。
さしあたって僕が優先すべきは熟練度稼ぎだ。
「イチェリーナ先生、早速ですが魔術を教えて下さい」
「いいわよ、と言いたいところなんだけど。まずは基本の魔力操作からね」
「魔力操作、ですか」
「そう。血を垂らさずに水晶の色を変えられるくらいでなきゃ、魔術は扱えないわ」
実のところ、【魔力】ツリーに見えている。
ゴブリンを殺しまくった際に溜めた熟練度はまだ余らせているので、ここはサクっと取得してしまおうか?
いや、もったいない。
「先生、手本を見せてください」
「ほら、こうするの……って見るだけでできるわけないじゃない。手取り足取り教えてあげ――え?」
――〈模倣〉!
僕はイチェリーナ先生が水晶に魔力を流したのを、〈模倣〉した。
……よし、これを繰り返せば〈魔力操作〉の感覚が掴める。
熟練度は伸ばしたいスキルが出たときに消費したいので、ここは〈模倣〉でなんとかしたいところだ。
「ちょ、どうやったの? ロイク君、一体、キミは――」
「先生、手取り足取り教えて下さい。実はまだ水晶に魔力を流すことしかできないんです」
「え? そ、そうなの。じゃあ基本からやりましょうか」
イチェリーナ先生のお手本を片っ端から〈模倣〉して、僕は今日一日で〈魔力操作〉を習得することができた。
ロイク・ルークエンデ(男/7歳)
【魂】
└【前世の記憶】
【肉体】
├【器用】
│ └〈剣技〉Lv3 update!
├【敏捷】
│ ├〈俊足〉Lv1
│ └〈軽業〉Lv2
├【感知】
├【筋力】
│ └〈膂力〉Lv1
└【体力】
├〈持久力〉Lv3
└〈持久走〉Lv1
【精神】
├【知力】
│ ├〈集中力〉Lv2
│ └〈記憶力〉Lv8 update!
│ ├〈模倣〉Lv2
│ ├〈写真記憶〉Lv2 update!
│ └〈記憶の図書館〉Lv2 update!
└【魔力】
├〈魔力操作〉Lv1 new!
├【水属性】
└【光属性】