第四十五話
式典はつつがなく終わった。
シャルロッテ王女が僕に降嫁すること、そして魔族を討ち取った功績として僕がルーセルガルト公爵に叙されることが貴族たちに知らしめられる。
予めシャルロッテが降嫁するという話とその相手に爵位が授与されるという話は、耳の早い貴族たちには伝わっていたようなので驚きの声はなかったが、野次馬根性あふれる貴族の数があんなにも多いとは思わなかった。
その後は王家の方々を紹介され、挨拶をした。
みなシャルロッテが嫁ぎ先を決めたことを寂しく感じつつも祝福してくれていた。
王都でやらなければならないことはこんなところ。
闘技大会まで日にちがあるため、ルーセルガルト領に行くことにした。
自分の領地だから、代官に挨拶をしておかなければならないし、直接どんなところなのか見ておきたくもある。
しかしそんな僕たちとは別行動を取りたがる人物がいた。
バララエフである。
「ロイク。儂は己の剣をもう一度見つめ直すために、迷宮都市に赴くつもりだ。リーリエも随分と強くなったし、儂がいなくても大丈夫だろう」
「それは闘技大会に備える、ということかバララエフ?」
「当然だろう。国王陛下はああ言っておられたが、儂は負けるつもりはないぞ」
「負けるつもりで戦う剣士はいない、か。……分かった、道中気をつけて」
「ああ。そちらもな。……そういうわけだから、リーリエ。儂がいなくとも自己鍛錬は欠かすなよ」
リーリエは「もうお祖父様ったら」とため息をついてから、「私はロイク様を応援しますからね?」と言った。
キョトンとしたバララエフは、一拍置いて笑った後、迷宮都市に向けて旅立った。
王都から馬車で三日の距離にルーセルガルト領はあった。
王都から近いこともあって道はよく整備されており、交易の中継地点として栄えているようだった。
「タチアナとエルミーヌは付き合わせて悪かったな」
「いいえ、私の仕事はもともと坊っちゃんの保護者代わりですので。坊っちゃん行くところタチアナあり、ですよ」
「私もファーランド卿からフェリシア様のことを任されていますので、タチアナと立場は同じですね」
「そうか」
なお父とは王都で分かれている。
これからは同じ領主同士となるわけだが、父の爵位を追い越してしまったのは不思議な気分だ。
「そうだタチアナ。僕の保護者役のことだが、依頼主を父から僕に変更しても構わないかな?」
「へ? と言いますと?」
「僕も父と同じ領主となった以上、他の領主から保護者を派遣されているといういびつな形態を正したいと思ってね」
「ああ~なるほど。そういうことでしたら、同額を支払ってもらえれば坊っちゃんに直接、雇われることは可能ですけど」
「けど?」
「私、結構高いですよ」
タチアナの実力を考えれば高いのは当然とも言える。
当初からなかなかの実力者だったのが、迷宮都市で揉まれて更に強くなったからな。
「その辺は代官と相談するけど、なんとかなると思うよ。必要なことだしね」
「分かりました。そういう心づもりでいます。いやあ坊っちゃんも出世したもんですね」
「まったくだ」
公爵になるとは思ってもみなかった。
そういえば『ソード&ソード』のシャルロッテとの個別エンディングでは、主人公はどこかの大貴族に叙されたと記述にあったような気がする。
〈記憶力〉をコンプリートした僕であっても、【前世の記憶】についてはスキルの対象外なのか、曖昧な部分が多い。
まあやり込んだゲームのことだから大抵のことは覚えているし、設定資料集である〈エンサイクロペディア〉もある。
問題はない。
さて領主の館に到着すると、先触れを出してあったため屋敷の使用人を始めとして文官、武官総出で出迎えてくれた。
「初めまして。そしてようこそロイク様、シャルロッテ様。私はルーセルガルト領の代官をしておりますフィルマンと申します」
「よろしくフィルマン。僕はまだ叙爵されたばかりで右も左も分からない。領主を継ぐことのない貴族の三男坊だったから、領主教育も受けていないんだ。苦労をかけるだろうが、長い目で見て勉強させて欲しい」
「ルークエンデの神童ロイク様でしたら噂はかねがね。ご安心を、私や部下が仕事については代行できますし、質問には答えるように通達してあります。一度ですべて暗記なされるという頭脳、楽しみにしているのですよ」
「暗記は得意なのだけどね。それを活かせるかどうかは不安がある。よろしく支えてくれ、フィルマン」
「は。誠心誠意、お仕えさせていただきます」
領主館で歓待を受けた後、僕は街を直接視察することにした。
大人数となってしまったのでお忍びらしくないが、よく知らない街で大人たち抜きに子供だけでの外出はさすがに許可が下りなかった。
そんなわけでお忍び……っておいシャルロッテ、お前の平服、生地が豪華すぎないか!?
「シャルロッテ、それじゃお忍びの意味が……まあいいところの商家のお嬢様ってことにしておこうか。そうすると僕らは商家の奉公人ってところかな」
恐縮するシャルロッテ。
しかし側に仕えるセバスチャンも隙のない執事オーラを放っており、お忍びにならないのは明白だ。
たまたま商隊についてきたお嬢様御一行ということで、なんとか誤魔化せるだろうか。
そんなこんなで、街を見て回る。
途中で買い食いをしたり、武具屋を見て回ったりしながら、その日は楽しく過ごした。




