第四十一話
早速、シャルロッテ王女にフレンド申請をして、〈記憶の図書館〉経由でオープンフィールドに招待した。
「こんな世界があっただなんて、想像もしていませんでした」
「現実との乖離を防ぐため、一日に一回だけ利用しています。それでも普通に鍛錬するより二倍の効率が得られます」
「そうですね。ここで鍛えられれば、私もロイクのように魔族と戦えるようになれるのかしら?」
「はい。是非とも魔族との戦いに助力をお願いします」
「あら? ロイクは魔族と戦うつもりでいるの?」
「はい。いずれは魔族の王を討ち滅ぼすつもりでいます。そのためには心強い仲間が必要です」
「それが、私たち?」
「そのつもりで鍛えています」
「そう……私と同じことを考えている人が伴侶だなんて、嬉しいわ」
ブランコとハヤテと戯れるフェリシアとリーリエを眺めながら、僕とシャルロッテ王女は目的が同じであることを確かめ合う。
『ソード&ソード』ではミスリルの甲冑と盾に身を固めたパーティの防御役を担っていたシャルロッテ王女は、この世界でも同様に甲冑姿を披露した。
シャルロッテは【時空属性】を持っているため、亜空間収納に鎧と盾を仕舞っているのだ。
パーティは四人揃った。
さあ、ビシバシ鍛えていこう!
王女が移動するということは、商隊ひとつが移動するのと同じかそれよりも大人数が移動するということでもある。
まず王女シャルロッテ自身、執事兼護衛のセバスチャン、身の回りの世話をする侍女数名、専属の料理人、そして護衛のための近衛騎士たち。
ルークエンデ領に向かうことが決まった時点で僕たちの馬車も用意された。
ただし僕とフェリシアはシャルロッテの馬車に同乗することになったが。
「まず婚姻の順番に割り込んでしまったお詫びを言わなくてはなりませんね、フェリシア」
「お詫びだなんてとんでもない。シャルロッテ王女がロイクのもとに降嫁されるというのならば、第一夫人となるのは当然のことです」
「それはそうなのですが……」
「あ、あとシャルロッテ王女には言っておかねばなりませんね。ロイクはルークエンデの三男なのでルークエンデ家を継ぐことはありません。しかし私との婚姻でファーランド家を継ぐことになっていたのです」
「あら……それは少し困ったことになるのではないかしら? 当のファーランド家の跡取り娘であるフェリシアが第二夫人では不都合なのでは?」
「はい……そこだけが問題といえば問題ですね」
かと言って王女であるシャルロッテを第二夫人にして、フェリシアを第一夫人にするというのは貴族社会の序列としてはあり得ない。
確かに難しい問題だ。
しかしその難問に、セバスチャンがいとも容易く解答を出した。
「ロイク様が新たな爵位を授かるというのは如何でしょう? 幸い幼いながらにして魔族二体を討ち果たしたという功績があります」
「なるほど……それならば新しい爵位に対する跡取りを私が、ファーランド家の跡取りをフェリシアが産むということで問題が解決しそうですね」
シャルロッテが妙案だと言って賛意を示す。
フェリシアも「それなら問題はなくなりますね」と当たり前のように言った。
「では父にロイクへの叙爵の話も通しておく必要がありますね。王族が降嫁する際に夫に爵位が授与されることはよくあることなので、そこまで難しいことではないと思います」
僕自身が話に加わらないまま、新しい爵位を授爵することになった。
人生、何が起こるか分からないものだね。
先触れが出されていたため、ルークエンデ領につくとアーヴァング先生と数名の兵士が先導のために待ち受けていた。
「ロイク殿が王女様と婚約なさるとは……ご兄弟のなかでもずば抜けた才覚を有しておりましたが、これにはこのアーヴァングも驚きました」
「お久しぶりですアーヴァング先生。僕としても身に余る話だとは思うのだけど、……まあ見劣りしないように、なんとか頑張るよ」
「ははは、ロイク殿ならば大丈夫でしょう」
王女一行と僕たちはアーヴァング先生たちに先導され、無事にルークエンデ家についた。
屋敷の前で、父とラルフ兄上に出迎えられる。
「ようこそお越しくださいました、シャルロッテ王女様」
「あまり畏まらないでください、未来の義父様。私のことは未来の娘と思って接してください」
「恐れ多いことです」
かくしてシャルロッテがルークエンデ家に滞在することになった。
フェリシアとエルミーヌは一旦、ファーランド領に帰らなければならないが、冬の間にまた来ると約束した。
さしあたって問題は王女であるシャルロッテの生活レベルをいかに維持するかである。
父とラルフ兄上はふたり揃って「王族をもてなすという前例がないのでどうしようもない。どうしてくれる」などと僕に八つ当たりをしてきた。
……そんなこと言われても、ねえ?




