第二十七話
ジェロイスホーフのダンジョン第38階層。
暗闇に〈ライト〉の明かりが煌々と照らしだすのは、女戦士と子供、そして大量のゾンビだった。
「〈セイクリッドウェポン〉!」
僕とタチアナの武器に聖なる属性を付与する。
アンデッドに対して有効なこの〈光魔術〉がなければ、大量のゾンビたちの物量に押し負ける可能性がある。
まあ、可能性があるってだけで、実際にはそんなことにはならないだろうけど。
タチアナの盾がゾンビを殴り飛ばす。
同時に剣で近寄るゾンビを貫いた。
どちらのゾンビも〈セイクリッドウェポン〉の効果のおかげで一撃で昇天した。
僕はタチアナが戦えていることを視界の隅で確認しながら、剣を振るう。
一度に三体のゾンビの首をはねて、そのままの勢いで前に出た。
……ちょっと数、多すぎやしませんかね?
この階層はアンデッドの巣窟ということで冒険者は立ち寄らない。
別ルートで下の階層へ行くことができるためだ。
僕たちとしては他人の目をはばからず戦えるのでむしろ穴場だったりする。
ただ難点として、
「ああもう、臭い! 汚い!」
「我慢だよタチアナ! 終わったら〈クレンリネス〉をかけるから!」
清浄化の魔術〈クレンリネス〉をかければ、匂いも汚れも一発で消せる。
これがなければこんなところで戦ったりはしない。
タチアナはシールドバッシュと剣戟で順調にゾンビを倒していく。
僕の方は〈生存本能〉任せでテキトーに剣を振るってゾンビを減らしていく。
怠けているのは一目瞭然だが、これもタチアナの修行のためだ。
獲物を取りすぎては彼女の成長が滞ってしまう。
僕はといえばオープンフィールドで稼ぎ放題なので、ダンジョンでガツガツ戦う必要はない。
〈セイクリッドウェポン〉で浄化されていくゾンビの群れ――その最後の一体をタチアナが盾で殴り倒して、今日の探索は終わりを告げた。
「ロイク、早く〈クレンリネス〉をお願いします!」
「オーケー。僕もいい加減、鼻が曲がりそうだ。〈クレンリネス〉!」
僕とタチアナだけでなく、フロア全体にまで広げる。
これで新たにアンデッドが湧くまでは悪臭に悩まされることはないだろう。
「さて……と。あとは後始末だけだね」
「随分と散らばってしまいましたね」
ゾンビが昇天した後に残ったのは、魔力を帯びた骨だ。
大量にあるそれらを集めて〈インベントリ〉に仕舞う。
利便性の問題から、僕は〈時空魔術〉をかじっていて、亜空間収納が使えるとタチアナには説明してある。
実際には時空属性のない僕がそんなことができるわけないのだがそこはそれ。
僕の異常な強さなどを十分に見知っているタチアナの感覚はもう麻痺していて、「ロイクならそういうこともありますかね」で済まされている。
ただ亜空間収納をもった治癒魔術師ということで、冒険者たちの間では僕は注目の的だ。
具体的に言えば勧誘が激しいので、辟易している。
タチアナごとどうだ、と言ってくれるパーティもあるのだが、そもそもタチアナより遥かに格下の実力しか無い奴ほどそういう言い方をするので腹立たしいものだ。
冒険者ギルドの受付で、大量の骨をカウンターに置く。
受付嬢はやや引きながらも、「よくこれだけ集めましたね」とこぼした。
大量のゾンビを相手取った証だから、どこで何をしていたのかはバレバレだが、まさか愚直に剣と盾で片っ端から殴り飛ばしているとは思うまい。
なにせ〈光魔術〉には対アンデッド用の攻撃魔術が多数存在する。
アンデッドにしか効果がないのが難点だが、それらを使って一網打尽にしたのだと思われていることだろう。
もちろんそうすれば楽に稼げるし、臭い思いもしないで済む。
だがそれではわざわざ人目につかない場所で剣を振るうという目的が達せられないし、タチアナの成長にも繋がらない。
僕の〈光魔術〉を鍛えるためにもそういう戦い方もする必要はあるのだが、それはオープンフィールドでやればいいことだ。
ダンジョン探索の方針は、自己鍛錬。
あとお金稼ぎである。
だから楽な方法は取らない。
涙目で骨を数える受付嬢を横目にしながら、僕とタチアナは代わる代わる声をかけてくる冒険者たちと会話をする。
「ブランドーのパーティが全滅したらしいってよ」
「へえ。どこら辺で?」
「第45階層。ほら、例の辻切りの噂があるところ」
「噂だろう? まさかその辻切りに全滅させられたとでも?」
「それがどうもそうらしい。死体は剣で切り裂かれた跡しかないから、魔物の仕業じゃねえって話」
「ふうむ」
タチアナと話をしているのは、中層を探索している同業だ。
実力はタチアナより格下で、……酒の席で喧嘩して負けたことがある……しかし横の繋がりを大事にしている冒険者だから耳が早いし情報も正確だ。
無茶な勧誘もしてこないので、話し相手としては穏当な部類。
第45階層の辻切りとは、最近になって噂になっている物騒な輩の話だ。
なんでもたったひとりでダンジョンに住み着いて、冒険者を襲っているらしい。
目的は不明。
ただ尋常じゃない腕前だとの目撃証言がある。
実際、今回の話でパーティひとつを相手取って勝利する手練に格上げされたようだし。
「討伐隊が組まれるってよ。下層の冒険者も集められている」
「そいつは大事だね」
「だろ? どうだい、タチアナとロイクも参加してみちゃ」
言外に「お前ら強いんだから下層のパーティに入れてもらえばいいのに」といったところだろうか。
正直、僕の〈剣技〉を見せたくないのでその手の話は断っているわけだが、外から見ればそんな事情は分からない。
きっと親切心で言ってくれているのだろうけど。
「まあ考えておくよ」
「おう。じゃあまたな」
受付嬢もちょうど骨を数え終えたらしい。
積まれた銀貨は当面、生活に困らない額だが、装備のメンテナスなどを考えれば稼げるだけ稼いでおくのが冒険者だ。
明日はどこに潜ろうか。
……討伐隊が組まれる前に噂の辻斬りを見物するのも悪くないかな。
相手がひとりなら負ける心配はない。
そのくらい、そのときの僕は慢心していた。
ロイク・ルークエンデ(男/10歳)
【魂】
└【前世の記憶】
【肉体】
├【器用】
│ ├〈剣技〉Lv8
│ └〈槍技〉Lv3
├【敏捷】
│ ├〈回避〉Lv6
│ ├〈俊足〉Lv4
│ ├〈軽業〉Lv4
│ ├〈水泳〉Lv2
│ ├〈跳躍〉Lv1
│ └〈騎乗〉Lv2
├【感知】
│ ├〈発見〉Lv3
│ ├〈索敵〉Lv3
│ └〈常在戦場〉Lv4 update!
├【筋力】
│ ├〈格闘技〉Lv5
│ ├〈盾技〉Lv6
│ ├〈膂力〉Lv4
│ ├〈瞬発力〉Lv4
│ └〈鍛冶〉Lv7
└【体力】
├〈持久力〉Lv7
├〈持久走〉Lv5
└〈頑強〉Lv3
【精神】
├【知力】
│ ├〈集中力〉Lv9
│ │ ├〈限界突破〉Lv3 update!
│ │ ├〈心眼〉Lv3 update!
│ │ └〈生存本能〉Lv3 update!
│ │ └〈直感〉Lv3
│ ├〈記憶力〉Lv10
│ │ ├〈模倣〉Lv5
│ │ ├〈写真記憶〉Lv5
│ │ └〈記憶の図書館〉Lv5
│ │ └〈検索〉Lv3
│ ├〈錬金術〉Lv7
│ ├〈指揮〉Lv3
│ └〈戦術思考〉Lv3
└【魔力】
├〈魔力操作〉Lv6
├〈魔術制御〉Lv7 update!
├〈魔力圧縮〉Lv5
├〈闘気法〉Lv6 update!
├〈魔力庫〉Lv5
├【精霊語】
│ └〈水の精霊術〉Lv2
├【幻獣語】
│ └【使い魔:ハヤテ】
│ └〈小型化〉Lv5
├【水属性】
│ └〈水魔術〉Lv6
├【光属性】
│ └〈光魔術〉Lv6 update!
│ └〈付与魔術〉Lv5
└【情報属性】
└〈情報魔術〉Lv5




