第十六話
森の奥へブランコが駆けていく。
「待ってブランコ!!」
フェリシアが呼び止めても無視して獣道を疾走するブランコ。
僕はなんとかブランコに追いすがることができているが、フェリシアはかなり後方に置いてけぼりだ。
そのフェリシアの護衛のためにタチアナもこちらに来ることができない。
しばらく走ると、獣道から外れて藪の中を進みだした。
これには参る。
ふと思いついてブランコの〈疾走〉を〈模倣〉した。
案の定、僕の〈疾走〉よりもレベルが高い。
〈模倣・疾走〉〈軽業〉で藪を飛び越えながら、熟練度が溜まって新たに習得した〈跳躍〉も合わせてなんとかブランコに追いすがる。
行き着いた先は……小さな池だった。
ブランコはこちらを一瞥してから、池の中を覗き込む。
何があるのかと僕も池の中を覗き込んだ。
水中では――美しいひとりの少女が泣いていた。
精霊だ。
なぜこんなところで精霊が泣いているのかは分からないが、厄介事なのは分かる。
精霊とは自然を司る高位存在であり、その感情の発露はそのまま自然災害を呼び起こしかねない。
悲嘆に暮れ泣く精霊が、どのような災害をもたらすかは未知数だが、放置していいものではないことだけは確かだ。
嗅ぎつけたブランコはさすが幻獣というべきか。
しかし残念なことに、こちらから精霊にコンタクトを取る術がない。
いやあるにはあるのだが、熟練度を消費して【精霊語】を習得すればいい。
しかしこれ、必要とされる熟練度がすごく多いのだ。
とはいえこの状況を放置していいわけでもないし、今なんとかできるのは僕しかいないわけで。
もったいないが、【精霊語】を習得することにした。
「もしもし、そこの精霊さん。僕の声が聞こえますか?」
泣いていた精霊が不思議そうな表情で僕を見上げる。
両目からはポロポロと涙がこぼれたままだけど、どうやら【精霊語】は通じているようだ。
「誰?」
「僕はロイク。ロイク・ルークエンデ。このルークエンデ領を預かる領主の息子です」
「ルークエンデの……そう、ロイクというのね。お願い、今すぐ水精の剣を取り戻して」
「水精の剣? それは一体どういうものですか?」
「私のチカラを制御するための大事なものなの。ジンがいつの間にか盗んで行ってしまったみたいで……私、どうしたらいいか」
ジンとは地上で悪に染まった下級精霊だ。
それにしても精霊のチカラを制御するための水精の剣がなければ、この精霊は近く暴走するのではないだろうか。
急いだほうが良さそうだ。
「おーい、ここ、ここだよ!」
「坊っちゃん。ここにいましたか。ブランコも……まったくいきなり走り出すから追いつくのに手間取りました」
タチアナがフェリシアを連れて来てくれた。
ブランコはまた走り出しそうなところを僕が必死に押さえつけている。
恐らくは〈嗅覚〉か何かのスキルで水精の剣を盗んだジンの居場所が分かるのだろう。
僕たちを案内したいようだが、フェリシアの体力が限界だ。
「もう! どうしたのブランコは!」
「それが案内したい場所があるようなんだ。ブランコ、僕たちを案内する気があるなら、全力疾走するんじゃなくてもっとゆっくり歩いてくれないか? 君のご主人様を置いてけぼりにするつもりはないんだろう?」
ブランコはフェリシアを見上げて、尻尾を振っている。
分かったのか分かっていないのか微妙なところだ。
ジンと戦いになるのならば戦力は多い方が良い。
フェリシアはブランコとタチアナが守るだろうし、フェリシアの魔術はジンに有効だろうから。
逆に僕とブランコだけではジンを倒せない可能性が高い。
物理攻撃に強いジンには魔術でもって対処せねばならないのだが、水精霊のチカラを制御する剣を持っているとなると、僕の〈ウォータースピア〉が通じないかもしれないのだ。
僕は詳しい事情を話さずに、ブランコに先導を任せて三人でジンの元へ行くことにした。
ロイク・ルークエンデ(男/8歳)
【魂】
└【前世の記憶】
【肉体】
├【器用】
│ └〈剣技〉Lv5
├【敏捷】
│ ├〈回避〉Lv4
│ ├〈俊足〉Lv3 update!
│ ├〈軽業〉Lv3
│ ├〈水泳〉Lv1
│ └〈跳躍〉Lv1 new!
├【感知】
│ ├〈発見〉Lv1
│ ├〈索敵〉Lv2
│ └〈常在戦場〉Lv1
├【筋力】
│ ├〈格闘技〉Lv3
│ ├〈盾技〉Lv4
│ ├〈膂力〉Lv3
│ └〈瞬発力〉Lv3
└【体力】
├〈持久力〉Lv4
└〈持久走〉Lv1
【精神】
├【知力】
│ ├〈集中力〉Lv5
│ ├〈記憶力〉Lv10
│ │ ├〈模倣〉Lv5
│ │ ├〈写真記憶〉Lv3
│ │ └〈記憶の図書館〉Lv3
│ │ └〈検索〉Lv3
│ ├〈錬金術〉Lv3
│ ├〈指揮〉Lv2
│ └〈戦術思考〉Lv1
└【魔力】
├〈魔力操作〉Lv3
├〈魔術制御〉Lv5
├〈魔力圧縮〉Lv3
├〈闘気法〉Lv1
├【精霊語】 new!
├【水属性】
│ └〈水魔術〉Lv4
├【光属性】
│ └〈光魔術〉Lv2
└【情報属性】
└〈情報魔術〉Lv1




