第十一話
タチアナが屋敷に滞在するようになった冬を越えて、春がやってきた。
冬の間はさすがに森に出かけることもなく、剣技の授業と魔術の研鑽に明け暮れていた。
アーヴァング先生の授業以外に空き時間にも素振りをしたり、タチアナと手合わせをするようになって、〈剣技〉が伸びた。
読書の時間をそのまま〈剣技〉磨きにシフトした形になる。
錬金術は結局、中途半端に手を付けた状態だ。
だが春が来たので、またタチアナを伴って森に出かけることができるようになった。
「坊っちゃん、ゴブリンです」
「だね」
森で遭遇したゴブリン一匹。
手に石の斧を持った雑魚である。
「タチアナ、僕に任せてもらえるかな?」
「……仕方ないですね」
冬の間にさんざん手合わせをしていたから、僕の実力でゴブリンに遅れを取らないことはタチアナも理解している。
とはいえ彼女の職分からすればこれはあってはならないことだ。
父には秘密。
僕は敢えて〈模倣〉を使わずに剣を振るってゴブリンを仕留めた。
〈模倣〉による一撃はたしかに綺麗だが、硬直した素振りに過ぎない。
素振りは十分に身についてきていたので、乱雑に剣を取り回してもゴブリン程度なら十分に通用する。
というか、連撃や角度を変えた打ち込みなどを考えると、実戦で〈模倣〉を使うのは避けた方が良いのだ。
とはいえ〈模倣〉の価値が下がったわけではない。
タチアナが定期的に行っている〈索敵〉を〈模倣〉して習得したし、盾の扱いも〈模倣〉させてもらった。
盾は荷物になるし、八歳になった僕にはまだ重い。
攻撃を受け止めたり受け流したりするには、体格が足りないので、タチアナとの模擬戦のときにしか使っていない。
ただできる限りスキルを習得しておくのは悪いことではないだろう。
盗める技術は盗んでおく。
初春はそうやって森での立ち回り方をタチアナから〈模倣〉させてもらい、スキル習得に役立てた。
状況の変化は突然だった。
遭遇したゴブリンがこちらを視認した途端に逃げ出したのだ。
「向かってこなかったね」
「珍しいこともあるものですね」
ふたりして顔を見合わせる。
武装しているとはいえ女子供のふたり組だ。
低脳なゴブリンなら向かってくるのが普通。
なんとなく記憶に引っかかるものを感じて、僕は〈記憶の図書館〉からゴブリンの逃走について〈検索〉を開始した。
記憶の書物のどこに記述があったか定かではないため、〈検索〉に時間がかかる。
そろそろ〈検索〉のレベルも上げた方がいいかもしれない。
〈発見〉先生が活躍している間も〈検索〉は続いていた。
そしてはたとその文献に行き当たる。
「思い出した! あのゴブリン、斥候だ!」
「え?」
タチアナがコテリと首を傾げた。
「そんなことがあるのですか? ゴブリンですよ?」
「あるんだよ。……指揮個体が群れを統率している場合にはね」
「指揮個体!?」
「ゴブリンジェネラル以上がいるね。キングだと最悪だ。すぐに戻って父上に報告しなきゃ」
僕とタチアナはすぐに森から出て、屋敷に帰還した。
ロイク・ルークエンデ(男/8歳)
【魂】
└【前世の記憶】
【肉体】
├【器用】
│ └〈剣技〉Lv4 update!
├【敏捷】
│ ├〈俊足〉Lv2
│ ├〈軽業〉Lv2
│ └〈水泳〉Lv1
├【感知】
│ ├〈発見〉Lv1
│ └〈索敵〉Lv1 new!
├【筋力】
│ ├〈格闘技〉Lv3 update!
│ ├〈盾技〉Lv2 new!
│ ├〈膂力〉Lv3 update!
│ └〈瞬発力〉Lv3 update!
└【体力】
├〈持久力〉Lv4 update!
└〈持久走〉Lv1
【精神】
├【知力】
│ ├〈集中力〉Lv4 update!
│ ├〈記憶力〉Lv10
│ │ ├〈模倣〉Lv3 update!
│ │ ├〈写真記憶〉Lv2
│ │ └〈記憶の図書館〉Lv2
│ │ └〈検索〉Lv1
│ └〈錬金術〉Lv1 new!
└【魔力】
├〈魔力操作〉Lv2
├〈魔術制御〉Lv2 update!
├〈魔力圧縮〉Lv1 new!
├【水属性】
│ └〈水魔術〉Lv3 update!
├【光属性】
│ └〈光魔術〉Lv2 update!
└【情報属性】
└〈情報魔術〉Lv1




