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第5話

「チッ、一応鍛えてるつもりなんだがな」


 真後ろに飛んで間一髪俺の一撃を躱したのを見て構えなおす。師匠の元で結構修業はしてたつもりだからたかが部隊長ごときに避けられたのは癪だがそんなことは言ってられない。


「そりゃ真正面から来るって分かってりゃな、それにお前の剣の正体も分かったし負ける気もしねえ」


「ほう?権力と数で何とかしてるような帝国の騎士様にそんな知恵があるとはな」


「俺の仲間への侮辱は許さん、それにそんな挑発に乗るほど馬鹿でもねえ」


「それならこいつはどうだ!」


 言い終わる前に重心を落とし地面を蹴り相手の足を狙い刺し貫こうと跳ぶ、その途中に投げてきた短刀を刃で落とし奴から距離を取る。


「何度も言わせるな、お前の剣は見切った」


「チッ、まだ部隊長程度に手こずるとか俺もまだまだだな」


「強がりはよせ、お前は剣しか使えないんだろ?」


「……ちょっと躱しただけで俺の技を見切ったつもりか?」


 予想通りの発言に安心はする、だがこちらも全部見せてはいないし相手も本気でそうは思っていないだろう。だからここからは相手の油断を引き出し情報を引き出すための戦いになる。


「そのつもりだ、お前の剣は触れたものを問答無用で切り裂くんだろう?ならそっちの体力が切れるまで躱し続けてれば安心して仕留められるだろうしな」


「……よく分かったな」


「そりゃそうだ、てめえは祝福(ギフト)の存在知ってただろ、聞いても驚かなかったしな。それで鉄壁だったって解説したのに突っ込んできたならそりゃあ斬れる何かはあるだろうよ、どうせ巫女から俺の話も聞いてんだろうしな」


「ごちゃごちゃと面倒なやつだな、それだけで全部分かったつもりか?」


「ああ、一撃で首狙ってきたなら振れたら即死ってわけじゃねえ、殺す気で来てるってのに遠慮する意味もないしそれ以上に俺を殺せるようなものもない。毒ガスとかあれば別だがその様子なら巫女を巻き込む状況で使わないだろ?」


「まいったな、部隊長っていうからには脳筋かと思ってたが頭は回るんだな」


「帝国騎士をなめるなよ、これで最後だ降伏しろ。今なら利用されてた冒険者ってことで許してやれる」


「何度も言わせるな。狗にくれてなどやるものか」


「そうか、なら仕方ない」


 そう告げると奴は地面を蹴り何かを飛ばしてきた。それを斬り真正面に駆け距離をつめるが今度はそこに向けて手から何かを投げてくる。

軽く後ろに飛んで躱したけれども命中した床から飛んできた地面の破片までは避け切れずに喰らってしまう。


「そうか、破片か」


 別になんということはない。地面を蹴ったのも手から投げたものも全部抉り取った壁や地面の破片だというだけのことだ。


「正解だ、俺の肉体は何より固い、つまりここは全部俺の武器ってことだ。後ろの奴ら守ろうなんてしなければそんなもん当たらなかっただろうに」


「すでに勝ったつもりか?その口ぶり、魔法や毒なら通じるんだろ?こっちを仕留めたいならさっさとそれを使ってるだろうしな」


 使われたところで穴を潜り逃げればいいということは口にせず様子を見る。どこまで見抜かれているか分からない以上それを探る必要もある。


「いちいち嫌味な野郎だ、だが俺は岩や壁を削って投げてれば勝てるんだぜ?わざわざ一人の女を守るためにそこまでする理由がわからん。惚れたか?」


 奴は自分が優位にいると確信しているのか口数が増えている。その間にできる限り情報を引き出さないと。


「そんな見方しかできねえのかよ。そっちこそあの子をそこまでして手に入れたいってのは帝国のお偉いさんの趣味かい?」


 後ろから聞こえてくる何を言ってるんですか!! という大声は聞こえないふりをしながら尋ねる。


「知らないのか?ザナド様がそのような輩はすでに粛清している。まさかそのようなことも知らず帝国に恨みでも持ってんのか?もしそうなら今の帝国には逆恨みだぞ」


「ザナド?」


 ようやく聞き出せた本命にはやる心を抑えて少しでも平静を装い尋ねる。


「まさか本気で知らないのか?ザナド様こそ帝国の誇る至高の騎士団長(ロード)、田舎者ってレベルじゃねえぞ?」


 帝国のことを世界の全てだとでも思い込んでいるようなその態度には吐き気がするがそれも抑えよう。そいつが俺の家族の仇かどうかを聞きださないといけない。


「それは凄いな、一体どんな奴なんだ?ひょっとしたら誤解してるかもしれねえ」


 剣を握る腕に力がこもる、思い出しただけで腸が煮えくり返りそうになりその仇を尊いもののように語る相手を切り伏せたいとすら思う。  


「なるほどあの方の話を聞きたいのか?なら教えてやろう。腐った貴族を粛清し悪龍を殺し魔王を滅ぼし帝国の未来を創りあげようとしている英雄、ザナド様のことを!」


 一転して狂信者のような様子を見せた目の前の男の言葉を聞いていく。

そして銀髪、二刀流、口調を聞き確信できた。ザナドという男こそ俺の村と家族を奪った男だと。


「もういい」


「そうか、つまり俺たちに協力してくれるということだな?」


「は?なんでそうなるんだよ」


「当然だろう、ザナド様の話を聞いたら男として黙ってはいられねえだろ。この村を滅ぼすのだってあの方の指示なんだぜ」


 ああ、そうか


「お前たちはダメだ」


「いつまでも昔のこと引きずって俺らを悪者扱いか、面倒臭え」


「お前たち帝国は腐ったまま変わってねえ。俺の家族を奪ったのもアリアの家族を奪ったのも纏めてまずはお前に返させてもらう!」


 俺は剣を抜いて目の前の敵に向けて再び跳んだ、こいつらは自分のやっていることを正義だとでも思っている狂人の集団だ。だから斬ることに迷いはない、背後の彼女と老人を守るためになら恐れることなどありはしない。

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