先輩くんと髪
「こ、こんにちは」
緊張しつつも、店内に入る。
ここに来るたびに、何度も引き返そうと思った。
だがしかし、なんだかやけくそになっている自分のおかげで、何とかここに来ることができた。
「いらっしゃいませー」
店員さんがこちらに向かってくる。
「予約はされてますか……って、先輩君じゃん!」
「律です」
「先輩君久しぶりだねぇ。背は全く伸びてないねぇ」
「律です。そんなすぐ伸びませんよ」
「そう?わたし半年でめちゃ胸大きくなったけど?」
「乳です」
という訳で、やってきたのは美容院。
そこで働いているのは、あおのいとこの美玖さん。
あおの美人版と言った感じで、めちゃくちゃタイプです。
今日はこの人を堕としに来た。絶対彼女にしてやる。
「今日は一人?」
「はい。髪切ろうと思って」
今回もあおときたと思っているのか、不思議そうな様子の美玖さん。
「今度予定とかあるの?」
「ええと……明日あおと出かける予定はあります」
「デートだ!」
「お出かけです」
「デートだね!」
「やっぱりいとこですね」
そんな会話をしつつ、椅子に座らされ、カットをする体制に入る。
「今日はどんな感じに?」
「お任せにしようかな。ツーブロは校則で禁止なので、そこはよろしくお願いします」
「はいはーい」
会話をしつつ、髪が切られていく。
今までのぼさぼさの長めの髪は正直嫌いではなかったのだが、致し方ない。
「なんで髪切ろうと思ったの?」
真剣な仕事人の表情で、ミクさんは俺に問う。
なんで急に髪を切ろうと思ったのか、それは……
「最近あおと付き合っているって噂になってるんですよ。でも、みんながみんな釣り合ってないって言ってるんです」
「たしかに、あおちゃんは凄くかわいいからね」
「でも、あいつだけはむしろ逆の事を言ってて、大人数の前で、自分の方が俺に釣り合うようになりたいとか言い出して。そんなこと言われたんじゃ、ちょっとくらいは、イメチェンしなきゃって思っちゃいますよ。それに……」
「それに?」
「あいつがいろいろ頑張っているってのに、俺は何もしないってのはあれなんでね。せめてなるべくイケメンになってからデートに行こうかなって。そしたらちょっとは喜ぶかなって」
俺は言っていることの恥ずかしさを感じつつ、今日ここに来た理由を話した。
それを聞いていた美玖さんは…
「え、二人付き合って無かったの?」
「……」
真剣な話をしてたのにぃぃ!空気読めよ
「付き合ってないですよ……」
「何言ってんのよ。こっちのセリフだわ。まだ付き合ってなかったの?」
「ないです」
明らかに動揺している美玖さん。耳とか切りそうで怖い。
「んー。まぁ言いたいことは分かったよ。あまりにも青春過ぎて私は背中がかゆくなっちゃったよ」
なにそれ、大人になったらみんなそうなるの?
「じゃあなおさら今日はイケメンにしないとね」
「はい、お願いします」
そこからもあおの暴露話を聞きつつ、あおが「先輩はこのくらいの髪の長さが丁度いい」と、美玖さんに話していたらしい髪の長さに切ってもらった。
ちなみに、聞いた暴露話で一番楽しかったのは、あおがブラをつけ始めたのは中三からだという事。それまではぺちゃんこだったらしい。
今度ぺちゃんこあおの写真を見せてもらおう。
「ありがとうございます」
「いいえ、また来てね」
「はい」
料金を払ってお店を出ようとする。
美玖さんに引き留められた。
「そう言えば君、浮気してるんだって?どういう事?」
「そ、そもそも俺とあおは付き合ってないんですか……てゆうかその浮気しているとかいう人とも付き合ってないですし」
「どっちかはっきりしなさい。何なら明日、あおの処女を奪ってやりなさい」
「なんでみんなそんなことばっかり言うの……もっと健全な感じで行こうよ……」
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