同級生ちゃんとリストバンド
店内にはさまざまな匂いがある。
ツンとした薬品の匂いがする場所があれば、ゴムの香りがするところ、衣類が売っている所では、新品の服独特の匂いがある。
スポーツをやっている人ならば、こういうお店に来ると必ず興奮する。
自分の専門外のスポーツの商品でもつい気になって見てしまう。
しかし今回はなつきのお買い物が優先。
なつきの先導の元、バスケットの商品が並んでいるコーナーへ。
まずはテーピングなど、部費で買えない消耗品などをチェックする。
「何が買いたいの?」
お店に入る前になつきが買いたいものがあると言っていた。
もしかすると、俺をこのお店に連れてくるための冗談かもしれないが、一応聞いてみた。
「え!?ええと………」
やはり、予想は当たっていたようで、特に買いたいものは無いようだ。
「あ、リストバンドは欲しいかも」
思いついたように、なつきは言う。
リストバンドか。
試合でつけている人は、別に珍しくもなんともない。
他のスポーツではいろいろ規制が厳しかったりするのだが、バスケットはそこまでサポーターなどの身に着けるものには厳しくないイメージだ。
しかし、俺は「一年生でそんなのをつけているのは生意気」という強豪校独特の訳の分からない風習のせいで、なにも身に着けずにバスケをしていた。
それに、利き腕にテーピングやサポーターなどをしていると気になってうまくプレイができなかった。
なつきはもう二年生だし、女バスはそこまで先輩後輩の上下関係は厳しくないので、リストバンドはつけることができるだろう。
「いいじゃん。かっこいい」
「前から興味はあったんだよね」
そう言って、リストバンドが並んでいる棚を二人で見る。
こうしてみると、いろいろなデザインがあって格好いい。
バスケはもうしていないが、個人的に欲しくなってしまう。
「どんなのがいいかなぁ」
なつきも楽しそうに悩んでいる。
「青なんてどう?」
「一ノ瀬さん?」
「なんでそうなるんだよ」
俺はただ色の事を言っただけなんだが。
紛らわしい名前をしないでくれよ、我が後輩。
まぁ、あおに似合うリストバンドがあるとすれば、青系統の色だろうな。
「ただなつきっぽい色を言っただけだよ」
「なるほど………青ね………」
そう言って、なつきは青色のリストバンドを手に取る。
「よし、決めた。黒にしよっと」
おい、人の話聞いてなかったのかよ。
かなり傷つきつつも、なつきから黒のリストバンドを取り上げる。
「これくらい買ってあげるよ。なつき頑張ってるし」
「え、いいの?悪いよ」
「気にするなよ」
そう言って、レジへと向かう。
格好をつけたが、別に大した値段ではない。
お会計を済ませ、なつきにリストバンドを手渡す。
「ありがと」
なつきは少し照れた様子で、受け取って、口を開いた。
「律、これ、お揃いにしない?」
そう言って、リストバンドの二つあるうちの一つを取り出し、俺に差し出す。
「いいの?」
俺がそう尋ねると、なつきは笑って答えた。
「うん。律とお揃いにしたかったんだ」
俺はリストバンドを受け取る。
それを見てなつきは納得したように言った。
「やっぱり、律は黒が良く似合うよ」
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もうじき100話になりますね。
たくさんの方に読んでいただき、本当に光栄です。
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