先輩くんとボスゴリラ
一位を走るあおに、俺と笹山はじりじりと接近していく。
アンカーはトラックを一周走るので、なかなかに長距離戦だ。
「クソっ!」
この異変に気が付いた生徒は、何人いるだろうか。
俺と笹山は何度も激しい衝突を繰り返す。
観客はこれも演出の一つだと思っており、衝突をするたびに盛り上がりを見せる。
実際、部活対抗リレーでは、ラグビー部とレスリング部のタックルは認められているし、演出としてある。
しかし、この笹山のタックルは明らかに悪意しかない。
全力疾走しながらのタックルなので、あまり力は無い。
もう!すっっっごく危ない!さっきから何回もコケそうになってるから!
もういっそ減速して前を走ってもらおうと思ったが、ここで俺が後退すれば、あおがあっという間に抜かされるだろう。
正直、あおは足が凄い速いという訳ではない。
それでも、俺と笹山に抜かされずにいる理由は、俺と笹山が足を引っ張りあっているからだ。
あおが笹山に負けるのはなんかイヤだなぁ………
笹山が勝者面して、胴上げされている姿を想像する。
うわぁ、ムカつく。
ここはやり返しが怖いが、笹山には負けてもらおう。
「おらっ!」
笹山がタックルをしてくる。
その度に俺はコケそうになり、必死に堪える。
頑張れ俺、頑張れ俺!
「律―!頑張れーー!」
そんな時、声が聞こえた。
声を張るのは苦手と言っていたのに、必死に応援しているなつきの声。
そんな声に励まされるかのように、俺は………
「えいっ」
「⁉」
笹山の足を引っかけた。
完全に悪役のする汚い手である。
なるべく自然にやったつもりだ。たぶん周りの人には不審に思われてないはず。
そのまま笹山はすってんころりん。見事にコケた。デカい身体をしている分、それはもう無様なコケ具合だ。
「はっはっは!待ってろー!一ノ瀬――――!」
気分が乗った俺は、なるべく気持ち悪くなるように、声を上げる。
一応学校では俺とあおは他人の設定なので苗字呼びで。
「きやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!来ないでくださぁぁぁぁぁぁい!!!!」
えぇ……そんな必死に逃げないでよ………
「待てぇぇぇええええええええ!!!」
「まじで怖いです!ほんとに!」
おっと、どうやら本当に怖いらしい。
周りの生徒も冗談ではなく、真剣に心配している。
これじゃ俺が完全に悪者じゃん。そうだけど。
恐怖のおかげで、加速したあおは一位でゴール。
俺は二位。すさまじい罵声が降り注ぐ。
まぁ、なんだ。とりあえず、あおに怖がらせてしまったことを謝りに行こうかと思い、歩き出したその時。
ドンッ!
強い衝撃に、俺は押し倒された。
ゴールした時に勢い余って衝突してしまったのだろう。
誰かが乗っかっている。
「おおおおおおお!」
歓声が上がった。
目を上げると、笹山が、俺の顔の目の前に居た。と言うより、さっきまでべっとり触れていた。キスもしたかもしれない。
…………こういうのって女の子がやるもんじゃなかったっけ?なんでボスゴリラなんだよ。
ホモカップルが誕生した瞬間だった。
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