先輩くんとママ
「……何やってるんですか」
「……あれ?」
なつきの部屋から出た瞬間、目の前にはさつきさんがいた。
さては、俺となつきが「そういう行為」をすると思って、盗聴しに来ていたのか。まったく、良い趣味をしている。
「ええと…………ごめんなさい」
「リビングで寝ます」
「…………はい」
元からなつきが寝るまで待って、リビングで寝るつもりだった。
さすがに女子高生と一緒に寝るなんていろいろ問題がありすぎる。
「ねぇ、何持ってるの?」
「これですか?クッションです。いい感じになつきの匂いがするんですよ」
「はぁ………」
リビングに行くと、さつきさんがココアを用意してくれた。
さつきさんも手にマグカップを持っているので、話したいことがあるのだろう。
二人テーブルで向き合って座る。
「ねぇ、律くん。」
「はい」
「あなたたち、本当は付き合ってないんでしょう?」
さつきさんは確信があるようで、これはもう嘘をついても仕方がないだろう。
「はい。去年に。訳あって別れました」
「そう…」
何か言われるかと思ったが、意外にもさつきさんは返事をするだけだった。
「何があったのかは知らないけれど、二人で決めたことなのだから、私は何も言わないわ」
コーヒーを一口飲んで、さつきさんは言った。
「ただ、なつきに寄り添ってあげて」
最初は厳しく、最後は優しく言った。
「あの子、一時期凄く落ち込んでいたの。律くんの事だとすぐに分かったわ。娘をこんなに悲しませるなんて許さない、八つ裂きにしてやろう…………とも一時期思っていた。てゆうか旦那は実行しようとしていた」
おいおいまじかよ。
山本パパとは仲良くなれる気がしない。
「最近は目立って落ち込んでいる様子は無かったけれど、それでもやっぱり心のどこかで辛そうだった。」
そうだ。なつきは、一年前の出来事を誰よりも引きずっている。
きっと、これからもずっと。
「でも、今日のなつきは本当に楽しそうだったわ。」
そこで、さつきさんの顔が笑顔になる。
俺から見れば、今日のなつきは振り回されてばかりのようだったが。
「やっぱり、なつきには君しかいない」
さつきさんは、そう強く言った。
なんだか、気圧されてしまう。それだけ、この言葉に重みを感じた。
「まぁ、でも律くんが別の人を好きって言うんなら私は止めないけどね。あくまでもなつ×りつ推しなだけで」
そうお茶目に笑うさつきさん。
さつ×りつなんてどうですか?
「まぁ、でも中途半端はダメよ?」
「うぅ……」
「その反応、もしかして図星?」
「……………」
面目ない………
「律くんも男子高生だもんねー」
なんだその納得の仕方は。
さつきさんは立ち上がって、ぐいっと、身を乗り出した。
「そういう時は、どっちの子がムラムラしているかで決めればいいわよ。私はそうやって旦那を決めた。」
そう自信満々に言い張るさつきさん。
なるほど、その決め方だと、胸がチラ見えしている今のさつきさんを選ぶことになるのですが、どういたしましょう。
この作品が少しでもいいなと思ったら★★★★★と、感想、ブックマークをよろしくお願いします