同級生ちゃんとお散歩
「やっほ」
旅館の入り口付近で先に待っていると、ほどなくしてなつきはやってきた。
体操服を着て深夜に出歩くと補導されてしまうので、私服なのだが、なつきは驚くほどに薄着だった。
春も終わりに近づき、温かくなってきたとはいえ、夜はとても冷える。
俺は来ていた薄手のパーカーをなつきに渡した。
「ありがと」
なつきはそれを受け取り、安心したように笑った。
なんで急に会いたいなんて言いだしたのか、そんなことは聞かない。
二人のこの時間をかみしめるように、俺たちは歩き出す。
修学旅行の夜に、こっそり宿を抜け出してお散歩。
いけないことをしている時の気持ちよさと、居心地の悪さと、青春の思い出を更新している儚さと尊さを感じながら、ぽつりぽつりと、弾む心と落ち着いた気持ちの混ざった胸の内でなつきと話す。
「ねぇ、律、バスケ部に戻らないの?」
靴音だけが聞こえる夜道でなつきが尋ねる。
「うーん。そのつもりはないかな」
「……そっか。私が言ってもダメなんだね」
「まぁね」
今まで散々あおや友人に言われた「バスケ部には戻らないのか?」という言葉とは重さが違う気がして、それでもこう返事をした自分にも責任がある気がした。
それからは全くバスケの話題に触れることなく、静かに歩いていく。
ただ、ほんの一瞬、さみしく感じたのは気のせいだろうか。
「おいひいね」
訪れたコンビニで、俺はアイスを、なつきはフライヤーのチキンを買った。
深夜にそんな油物を食べるなんて怠惰な女だ。
「一口ちょーだい」
「ん」
「ありがと。あむ…」
コンビニの前でお菓子を貪る二人。
こんな事をするために旅館を抜け出したのかとも思えるし、十分にリスクを冒してでもコンビニに来ても良かったと思える。
ただ、もう少し、コンビニが旅館から遠ければいいな、と思った。
しばらくコンビニでゆっくりして、来た道と同じ道を帰っていく。
遠回りをしたいと思ったけれど、迷ってしまう気がして、でも後になって遠回りをしておけばよかったと後悔する気がした。
いつの間にかなつきと俺の手は繋がれていて、時間がゆっくりに感じたかと思いきや、あっという間に旅館までついてしまった。
それでもその力弱く握られた手は離れることは無くて、困っているとなつきは先ほどとは違う雰囲気で俺に問いかけた。
「ねえ、三日目の自由時間。私とデートしよ」
そして立て続けに、なつきは雪が染まったみたいな表情で、俺に言った。
「私、律が好きだよ」
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