妹ちゃんはやさしい?
「ただいま。」
いつもより重く感じる玄関の扉を開けながら小声でつぶやく。
あれから一時間の電車という地味に長い通学路を帰り、気力は尽きそうだった。
笹山達め…容赦なく殴りやがって。
ずきずきと痛む体の痛みに堪えながらリビングに行く。
今日は早く休もうと、二階の自室に上がろうとしたところで、2階から妹の凛が降りてきた。
凛はなぜかいつも俺が帰ってくると、二階の自室に居ても、お出迎えに降りてきてくれるのだ。
なんて可愛らしい妹なのだろう。やだ、シスコンに目覚めちゃいそう。
まぁいつも「おかえり」ってすっごい冷めた目で言われてすぐに部屋に戻るんだけどね。「帰ってくるな」って言うメッセージなのかな……。
「おにいお帰り……。」
お決まりのあいさつの途中で、凛の声がだんだんと小さくなる。
「おにい…その傷………」
口元に絆創膏が貼ってあるのでこれの事だろう。
笹山の事は黙っておきたい。
幸い顔に残った傷はこれだけ。口元の怪我くらいいくらでもごまかせるだろう。
「実は野球やってたら顔面に硬球が、」
「バスケ部に行ったの?」
俺の発言を遮る、きつい言い口だった。
「傷、見せて。」
「嫌だ。」
俺もきつく言い返す。
しかし、凛が迫ってくる。
妹に変な心配をかけさせたくはない、俺は後ずさり拒否する。
「いいから見せてっ!」
強引に凛が俺の腕をとる。
その瞬間、腕が引っ張られたので、体に激痛が走った。
「っ!!」
思わず声が出そうになるほどの痛みだった。
俺の反応を見て一瞬、凛の手が緩むが、すぐさま確保される
「おにい…これ……」
凛が俺のシャツもめくって腹部を出すと、そこには何か所も、青紫色のあざができていた。
なかなか傷が生々しかったので凛がきつく目を閉じる。
俺もここまでひどいとは思わず、「うえぇ」と変な声を出してしまった。
「大丈夫だからさ、もういいだろ。」
沈黙に耐えれなかったので、早く解放してくれと凛を突き放す。
しかし、凛はすぐに今度は抱き着いてきた。
「痛っ!!」
可愛い妹からのハグは大変嬉しいのだが、正直今は傷が痛すぎてそれどころではない。
「まてって凛、痛いから!締め付けんなって!いってぇ!」
俺の声は全く届いていないようで、締め付ける腕は全く緩まない。
もう諦めた俺はなすすべなく痛みに耐えた。
「おにい………。」
俺のシャツを涙で濡らしながら小さくつぶやいた凛の声に、俺は何となく頭を撫でてやった。
その後。
「まじきもいんだけど、調子乗ってなでなでとか、ほんとにやめてほしいし、めっちゃ汗臭いし、ほんとキモイ。」
夕食を二人で食べながら、さっきのしおらしさはどこへ行ったのか、すっかりいつものペースに戻った凛の罵倒に、笹山のパンチ以上のダメージを受けるのだった。
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