12騎士選抜トーナメント5
12騎士選抜トーナメントは、滞りなく進められていた。
航太とゼーク、絵美とテューネ、友美とジル……
全員が順調に勝ち進む中フェルグスとガラバ、蒼穹の遊撃軍に所属する騎士の対戦が始まった。
大方の予想通り、フェルグス達が勝利する。
開始1分もかからず、正に圧倒的な勝利……
それも、神剣の能力を使わずに……だ。
蒼穹の遊撃軍の騎士は強い……多少は善戦するであろうと思われていた為、観戦していた者達は唖然とし言葉が出ない。
「強すぎんだろ……そりゃ強ぇのは分かっていたが、遊撃部隊の騎士を秒殺って……」
「神剣と聖剣……やっぱり凄い。2人の実力は勿論なんだけど、その実力を発揮させているのは……」
ゼークは座席の横に立て掛けられた自らの剣を見つめ、そして軽く首を振る。
「まだ神剣が無いと強くなれねぇとか思ってんのかよ! 今の戦い、神剣の能力は使ってねぇ! なら、フェルグス達の純粋な力だろ!」
「違うよ、航太。神剣の力は、特殊能力だけじゃない。自分の扱い易い重さになり、更に凄まじい程の剣撃を生み出すの。私は重い剣は扱えない。重量が増すと、スピードが削られる。でもね……神剣なら関係なくなるのよ……」
どうしても感じてしまう、自らの力の底。
幼少の頃から剣術を磨き、研鑽を積んできた。
寝る間も惜しんで、必死に励んでいたつもりだ。
それでも神剣を持った素人に、あっさり追い付かれた。
一定の強さになると、だいたいの者が選択を迫られる。
スピードを重視するか、パワーを重視するか……
つける筋肉の質が異なる為、両方を活かす事は難しい。
しかし、神剣を使う者は関係なくなる。
純粋な身体能力を上げる事だけに集中出来る様になる……剣を振る筋肉は必要なくなるのだから……
そして当然、剣圧、剣撃も変わってくる。
細い剣は、軽いが威力や耐久性は低い。
逆に太い剣は、威力や耐久性は高いが重い。
この剣の特性すら、神剣では無視される。
自分に合った重さで、剣の持つ最高の破壊力を発揮できるのだ。
特殊能力が無くても、神剣は充分に強い……
「ゼークは、相変わらずだねー。でもね、我が聖凰には神剣を持たない猛者もいるんだよー。日本刀を使いこなすーモゴモゴ……」
「ちょっと絵美様! 声が大きいです! ゼーク様と航太様には聞かれても最悪いいですけど、他のお客様達もいらしゃる場所では……」
試合を終えて戻ってきた絵美がゼークに気付き声を出し、その内容に気付いたテューネが慌てて絵美の口を塞ぐ。
「てか絵美さん、我が聖凰って……もう完全に聖凰の人間じゃねーか!」
「航太も声がデカイ! あっ……それより、神剣を持たない猛者って?」
ゼークの言葉に絵美は微笑むと、試合会場の部隊に視線を移す。
まずは女性2人の騎士が舞台に上がり、歓声が上がる。
「智美さんとジルだな……ジルは神剣を使いこなしちゃいねーが、ティルヴィングは神剣だぜ! それに、聖凰の人間でもねぇ!」
「そだねー。だから私が言いたいのは、智ちん達の対戦相手だよ」
智美達の対戦相手は、男性と女性の2人組。
前から見ると黒いワンピースなのに、後ろから見るとジャケットの様に上下分かれている……そんな不思議な服を纒った女性……
「って、あれ美羽じゃねーか! 確かに絵美と聖凰に行ったって事だったが、大会に出てたのかよ! っても、逞しい顔つきになったな……いや、ちょっと待てよ! 今日、試合があるって事は……」
「そっ! ミワちん、ちゃんと勝ち上がってきてんだよ! でも、見て欲しいのは相方の男の子の方……カズちゃんとガラードに鍛えられた努力家なのよー」
絵美の視線の先にいる男の羽織る黒のロング丈のアウターは、両裾から背中を回るジッパーがついており、開いたジッパーの中からは暗赤色の柄が浮かび上がっている。
腰に差さる日本刀を帯びた姿は、違和感を感じるものの不思議と変な感じはしない。
「おい……どうなってる……ありゃ、コッチの人間じゃねぇのか……」
「さっすが航ちゃん! 大正解! 時空に影響があったのは、あの海辺だけじゃなかったみたいよー」
大声で色々話す絵美を横目に溜息をついた航太は、絵美の腕を掴んで自分の直ぐ横に連れてくる。
「今は止めてくれる人材がいないんだ……大声で色々と喋るな。後で面倒な事になるかもしれねーからよ。で……どういうこった? オレ達が作った時空の歪みが、他にも出来たってのか?」
「そうみたい。コッチの世界に来るには、空間を破壊し、空間に流れる水と風の力が必要らしいんだけど、空間を破壊する力の制御が出来てなくて、他の場所でも空間が一瞬開いたゃったんじゃないかって……マーリンさんが言ってた」
「んで、あの男が巻き込まれたって事か? つーか、オレがグラムを使いこなせてねーって言いたいのかよ!」
「知らないよー! そんなの! でも、江ノ島の海岸で死のうとしてたらしいの……彼。その時に時空の歪みに巻き込まれて……」
突然大声を出した航太から顔を顰めて後退り離れた絵美は、舞台に立つ4人を視界に入れた。
「拾われた家で奴隷として扱われて、もう1回死のうって決めた時、私達が助けた。そして聖凰の皆を見て、生きると決めた。死ぬ気で強くなろうと決めた。聖凰の力になろうと決めた。私達みたいに、神剣を持ってる訳じゃない。でも考えて努力して手に入れた力は、神剣にも劣らないと私は思う」
静かに……しかし真面目な表情でゼークを見る絵美の茶色の瞳に、ゼークは息を飲む。
「絵美……見せてもらうわ。貴女がそこまで言う、神剣に匹敵する力ってモノを……」
注目が集まる一戦が、始まろうとしていた……




