12騎士選抜トーナメント4
「アデリア将軍配下の騎士って強いんだな! あまり一緒に戦った事は無かったが、確かに少数の部隊で活躍していたイメージあるぜ!」
「蒼き鎧を纏いし蒼穹の遊撃部隊……アデリア様がバロール討伐の部隊に選抜された事は驚きでしたが、この強さの遊撃部隊は欠かせなかったんでしょうね!」
バロール討伐の初期の部隊は、失われても問題ない人員で構成されていた。
国として重要ではない人間で構成された部隊で、生粋のエリートであるアデリア・ホーネ将軍が遠征軍に加わるという話は、当時のベルヘイム国内でも驚きと称賛で響めいていたとテューネは記憶している。
その部隊を構成している騎士も、当然エリートであり強い。
ベルヘイム近郊でも有名な盗賊団の猛者を秒殺で葬ってみせたのだ。
葬った……実剣だけでなく神器や魔法の使用も許可されている大会で、死者がでない筈がない。
しかし……
「殺す必要、あったのかしら……」
「いやーゼークさん、流石に峰打ちで気絶させただけだろ。血だって……」
そこまで言って、航太は言葉を失う。
高速で振られたバスタード・ソードは、対戦相手の柔らかい横腹を深く斬り裂いている。
その傷は鋭く、出血するまでに時間がかかっていただけであった。
ピクリとも動かなくなった盗賊の身体を、清掃係が袖に運んでいく。
「って、やり過ぎだろ! 接戦で已む無くってなら分からなくもないが、あれだけ圧倒的に勝てるのに殺す……なんて……」
「相手が盗賊だったから、上から指示でも出ていたんでしょうか? それでも……正規軍の騎士がやる事じゃない気がします……」
青ざめた航太とテューネの顔をゼークは交互に見てから、静寂に包まれた戦いの舞台に視線を移す。
「アデリア将軍の指示なのかしら……確かに遊撃部隊である以上、非情な選択をする事も多いんでしょうけど……でも、今は……」
ゼークは独り言を呟く程度の小さな声で、自分の考えを口にしていた。
その声は誰の耳にも飛び込む事はなく、静かに流れる風の中に消えていった‥…
「アデリア殿が裏切り……本当なんでしょうか?」
「ガラバ、どこに耳があるか分からん。口に出すな」
フェルグスはガラバの口を制すると、仮面の男に渡された手紙を見ながら本日の最終戦である蒼い鎧の騎士の戦いを思い出す。
殺す必要があったかと言われれば、あったのかもしれない。
相手は盗賊で、生かして帰せばベルヘイムに害をなす可能性もある。
ベルヘイム国の騎士であれば、国民を守るために殺生する事は当然ともいえるだろう。
そもそも参加資格が無い時点で、どんな人間が紛れ込んでくるか分からない。
大会そのものが、ベルヘイム12騎士を餌に集まってくる不逞な輩を一掃する為のものかもしれないのだ。
「国王の目的が、謀反を企てている者やベルヘイムに反抗しようとしている者を炙り出す目的であれば、将軍を使っている事も考えられなくはないが……」
「ただ……奴隷駆逐の一件にしても、何かベルヘイム国そのものが迷走している様にも見えますね」
ガラバの言葉に軽く頷きながら、宿の窓から大会の余韻で喧騒の続く大通をフェルグスは眺めた。
活気溢れる街の雰囲気は、何かの陰謀など感じられない程に平和に見える。
「フェルグス様、我々は外様です。あまり考え過ぎても仕方ないかもしれませんよ。出来る事は限られていますから……」
「確かに、私に出来る事と言えば害虫駆除ぐらいか。蒼穹の遊撃軍に所属する騎士だとしても、カラドボルグから逃れる事は不可能だ。ネズミ程に身体を小さくしていてもな」
フェルグスの言葉が終わらないうちに、天井から僅かな物音が聞こえた。
「何奴!」
ガラバの手が、壁に立て掛けてあるガラディーンに伸びる。
「ガラバ、今から追っても間に合うまい。それに、ベルヘイム国内でベルヘイム騎士を理由も無く討つ事は出来んだろう。アデリア将軍のお抱え騎士で間違いなさそうだが……」
「ならば、やはりアデリア殿がベルヘイムを裏切っている?」
フェルグスは、ガラバの問いに静かに首を横に振った。
「まだ分からん。それこそ、国王の命令で外様の我々を監視させていただけかもしれないからな。元々は、敵対していた部隊に所属していたのだ。目をつれられていても、文句は言えんよ」
何かが起こりそうな予感がする。
ベルヘイム国内だけで終わる程度の騒動であれば良いが……
聖凰騎士団にフィアナ騎士団、ベルヘイム12騎士団にヨトゥンの部隊……
それにヨトゥンの軍勢にも、フェルグスが知らない部隊がいる。
ウートガルザとは何者なのか……
フェルグスは無意識に、神剣カラドボルグを見た。
自分は何を成せば良いのか……
今はまだ、考えても結論は出なかった……




