大会に向かう道3
「たぁぁぁぁぁぁああ!」
気合いの入った声と共に、白銀の剣筋が煌めきを放つ。
そして、響き渡る鋭い金属音……
「なろっ……」
デュランダルを持つテューネから繰り出される猛攻に、航太は堪らずにエアの剣を小さく振った。
エアの剣によって発生した鋭い風は、テューネの小さな身体を簡単に後方に飛ばす。
「追撃、鎌鼬!」
更に大きく振ったエアの剣から、目にも見える程の鎌鼬を生み出した。
が……地面から突然発生した水の柱……波の様な形状の水に鎌鼬は絡み取られ、その勢いは失われる。
飛ばされたテューネは大剣を持っているとは思えない動きで一回転すると、着地と同時に飛び上がり、勢いを失った鎌鼬を軽々と飛び越えた。
そのまま回転し、デュランダルに遠心力を加え航太に振り下ろそうとする。
凄まじい勢いで振り下ろされる大剣デュランダルを、エアの剣を横にして防ごうとする航太。
エアの剣とデュランダルの力比べが行われる……そうなる直前、白き閃光がテューネの無防備な側面に吸い込まれる。
「きゃあああぁぁぁ!」
考えても無い方向からの攻撃に、テューネの身体はバランスを失い大地に転げ落ちた。
白き閃光……ゼークの動作に無駄はない。
転がったテューネが体勢を整える前に、バスタード・ソードを振り翳す。
そのスピードは雷の如く……流れる様な動きで、テューネに攻撃を仕掛けようとする。
「速過ぎなんだよなー! 間に合え!」
その動きを止めようと、絵美が天沼矛を振って水の壁をテューネとゼークの間に発生させた。
その瞬間ゼークは飛び上がり、迫り上がっていく水の壁上を軽く蹴って前宙すると、テューネにバスタード・ソードを突き出す。
「まいりましたぁ……」
目前にバスタード・ソードの剣先を突き付けられ、テューネはデュランダルを手放して手を上げる。
「ふぅ……ちょっと航太! 無闇に大技を使うなって言ってるでしょ! 僅かな隙でも、凄腕や達人が相手なら確実にその隙を突いてくるわ。大技を使う時は、見せ技で相手の隙を作る時か、確実に仕留められる時だけって言ったよね? いける! って思った時に技を出しちゃうのが、航太の悪い所だわ」
「いや、でもよ……あのままテューネの攻撃を受け続けてたら、オレ死んでたぜ! いいか……信じられないが、テューネの腕はオレより上だ!」
「オレより上だ! じゃないのよ……それに、テューネより自分の方が実力が上だと思ってた事が驚きだわ……いい航太? あなたは、騎士見習いになった程度の剣の腕だと自覚しなさい! だからこそ、隙をつくっちゃ駄目なの! 十二騎士選抜試験に出てくる騎士に、弱い人はいないわ。気を引き締めないと……」
2人のやり取りに、ゼークの腕を借りて立ち上がったテューネは微笑んだ。
「それでも、負けてしまいましたね。航太様の腕や連携の問題は分からないですけど、やっぱりゼーク様は強い……神剣を持っていなくても、充分な程に……」
「ありがと、テューネ。テューネは、神剣の力に頼り過ぎかもね。だから隙も出来てしまう。でも今回は2人1組なんだから、攻撃だけじゃなくて防御も連携出来る。パートナーが攻撃を仕掛けた時、その攻撃を自信を持って完結出来る様にサポートする事も出来るはずよ。まぁ、私達のチームにも言える事なんだけどねー……」
ゼークに睨まれた航太は、口笛を吹きながら明後日の方向を向いて目を逸らす。
「やっぱり、私達の力不足かぁ……常に実戦で腕を磨いているゼークとテューネには敵わないなぁ……ゼークの動きに対応出来て無いもんねー。ゴメンね、テューネ」
「いえ、絵美様は頑張ってやってくれてますよ。私がゼーク様のようにに、リスク管理ができれば……」
テューネと絵美が話し合いを始めた様子を頷きながら見たゼークは、まだ明後日の方向を向いている航太の耳を摘む。
「いでででででで! 何すんだ! 耳は繊細なんだぞ!」
「そう? そんなに強く摘んだつもりは無かったんだけど……それより、私達も特訓を再開するわよ。明日は、いよいよトーナメントが始まるんだから!」
そんな2組を、少し離れた崖の上から見下ろす仮面を被った男が1人……
「私だけでは足りないと……我が主の命と言うより、マーリンの差し金か? 気に入らないが、用心に越した事は無い。数日は、トーナメントを楽しむとするか……」
仮面の男は、独り言の様に呟くと踵を返した。




