大会に向かう道2
その日……ベルヘイムの城下町は盛大なお祭りの開催に、凄まじい程の賑わいを見せていた。
ベルヘイム十二騎士選抜トーナメント……
伝統ある十二騎士の2つの席を、いつまでも空けとく訳にもいかない。
伝統ある十二騎士に選ばれるには、国民が納得出来る人物である事も必要。
そして伝統ある十二騎士は、人々の希望になり得る人物でなければならない。
その十二騎士が選ばれる場所にいれる……共有出来る……初めての機会に、国民達が騒がない筈がなく、それがお祭り騒ぎになる事は容易に想像出来る。
十二騎士に選ばれる騎士の実力……武力はどの程度のモノなのか?
他国からの感心も高く、人口の倍の人がベルヘイムの城下町に押し寄せているのではないか……そう思える程、活気と熱気が城下町に溢れていた。
「こりゃ……すげーな。こんなにも注目度が高い大会なのかね? たかが騎士2人を決めるだけの武術大会だろうに……ワールドカップ以上の人が来てるんじゃねーか? これ……」
「私達にとっても、始めての経験ですからね。普通は、国王様が候補の中から選ぶだけですから……それでも、新たな十二騎士のお披露目の時は凄い人がベルヘイム城下には集まるんですよ。今回は、その十二騎士候補の騎士の戦いが直に見れる……盛り上がりますよ」
宿舎の3階の窓から、ごった返す人混みを見下ろしながら声を出す航太に、テューネが笑顔で応える。
「テューネは昔から、お祭りとか好きだもんねぇ……で、テューネのパートナーは誰なの? 大会当日合流なんて、連携とか大丈夫なのかしら? 今回の大会は強敵ばかりなのよ? 甘く見ていると、テューネでも怪我しかねないわ」
「そうですね……でも、甘く見ている訳じゃないんですよ。それに、連携も問題ありません。ゼーク様と航太様が本気で来ても、勝てないかもしれませんよ? そろそろ、来られる頃かな?」
テューネが部屋の入口に視線を移した瞬間、勢いよくドアが開く。
「呼ばれて飛び出てー」
「しゃんじゃか、じゃーん! でしゅ~」
聞き覚えのある声と、見覚えのある白い物体……
「って……絵美じゃねーか! てか……お前、聖凰にいたんじゃねーのか? なんでココにいる? 国境越えとか、どーなってんだ? そもそも、国境越える為に十二騎士になるとかなんとか……」
航太は困惑した顔で、絵美とゼークを交互に見る。
「私も、そう聞いていたわ。勿論、その為だけに十二騎士になる訳じゃないけど、少数精鋭で一真の説得に向かう事に変わりない。十二騎士にならないと、アルスターやコノート国境を抜けられない。そして、その国を抜けないとコナハトやムスペルヘイムに抜けられないのに……」
「だ、そうだ。で、絵美はどうやってココに来た? そういや聖凰の連中は、どうやってベルヘイム城まで来てんだ? アルスターやコノートと友好でも結んでんのか?」
首を捻る航太に、絵美が笑顔で吹き出す。
「そんなの、決まってんじゃん! 転移ゲー……」
「絵美様! 十二騎士選抜戦の招待状と、国王のサインが入った通行証をお持ちですよね? 早馬で来られたんですよね!」
テューネの口から発されたとは思えない大きな声に、絵美だけではなくゼークと航太も目を見開いた。
「そそそそそそ、そーでしゅたねー。長旅で大変でしゅたよねー。もぅ純白の身体が黒くなって、大変でしゅたよー……」
「あははははは! そーだったっけ? 通行証? 通行証つうこうしょう……テューネちゃん、そんなのあったっけ?」
絵美の無邪気な笑顔に、テューネは頭を抱える。
絵美の頬に少しだけ垂れる冷や汗が、多少の救いではあるが……
「はぁ……オルフェ様が、事前に各国境に通達しといて良かった。絵美様、水の女神だから許されてますけど、本当はダメですからね!」
「いやー……ごめん、テューネちゃん。段取りとか、すっかり忘れてたよー。通行証ね、通行証……」
テューネと絵美のやり取りを見て、全てを察した航太と、首を捻るゼーク……
「よし! 2人が隠し事をしている事は分かった。何を隠しているかは知らないが、テューネが隠したいと言うよりは、国として隠したいってトコだろうな。だがよ、テューネ。隠し事するなら、相手は選んだ方がいいぜ。絵美とガーゴは馬鹿じゃないが、アホだ」
「そうですね……絵美様は頭が弱い……じゃなくて、天真爛漫なのは知っていたのですが、今回はやむを得なかったというか……」
テューネは鋭い視線を感じ、言葉を選ぶ。
「なるほどなるほど……まぁ、テューネちゃんは許す。天真爛漫って言葉は結構好きだからねー。航ちゃんの方は悪口だし言い換えもしてないから、地獄行きけってーい! ガーゴ、やっちゃえ!」
「よっしゃーでしゅ~! くらうでしゅ~……スーパーアヒルくるくるバーンアターックぅ!」
クルクル回りながら突っ込んで来る白いアヒルのヌイグルミを、航太は無言でキャッチし……そのまま無言で窓の外にリリースする。
「ちょっと航ちゃん! ガーゴが可哀相でしょ! ちゃんと当たってあげなよ!」
「てかガーゴに攻撃させた事を、まず反省しろ! んで……オレはともかく、ゼークには謝っとけ! ベルヘイムの為にずっと戦ってんのに、隠し事されてたんじゃ、な……」
私が隠し事してるんじゃない……絵美はそう言いかけて、言葉を飲み込んだ。
そもそも自分が不用意に話をしていたから、気付かなくていい事に気付いてしまったのだから……
「ゴメン、ゼーク。私、何も考えてなかったから……」
「いいのいいの……絵美のキャラは知ってるから。それより、大会が終わったらオルフェ元帥からキッチリ話してもらうんだから! どうであれ十二騎士になる! 肩書きなんて、所詮肩書きだけど……聖凰のトップに会いに行くんだから、それなりの肩書きがないとね!」
ゼークは頬を両手で叩くと、気合いを入れる。
十二騎士選抜戦の初戦の時間が迫っていた……




