王立ベルヘイム騎士養成学校30
「この闇の正体は何なんだ? 力が吸収されてるみてーな感じだぞ!」
「光でなければ、闇は払えない……神剣では戦う事すら許されぬ者……それが邪龍だ」
闇に覆われていくドームの中で、フェルグスが目の前に降りてきたニーズヘッグの挙動を見ながら航太の問いに答えた。
「神剣では戦う事すら許されない……って、冷静に言ってんじゃねーぞ! その光属性の剣を持ってるイケメン君は、蚊帳の外なんだが?」
「だな……かなりマズイ状況だ。とりあえず、緑に光っているリス……奴らを内側から潰すしかない」
フェルグスの言葉から、危険な状況である事が容易に理解出来る。
余裕の笑みを浮かべるニーズヘッグの右手に握られるフラーマ・シュヴァルトから無限に闇が流れ出ていく為、時間的な余裕は無い。
「内側からったって……神剣の力が使えねぇってんなら、直接攻撃しかねぇって事だろ? やれんのか?」
「やるしかないわ……ドームが闇に飲み込まれる前に! 私が囮になるから、航太とフェルグスは緑のリスを!」
航太が制止する前に、ゼークは剣に炎を纏わせてニーズヘッグの懐に飛び込んだ。
「人間如きが……勇敢と言うより、無謀……と言うべきですわね。時間稼ぎにもならないですのに……」
ニーズヘッグがフラーマ・シュヴァルトから流れ出る闇に左手を突っ込み、ゼークに向かって横に払う。
闇が刃の様に横に広がり、質量を持ってゼークに襲いかかった。
「きゃあぁぁ!」
フラーマ・シュヴァルトで攻撃してくると思っていたゼークは、闇の攻撃を咄嗟に剣で防ぐがバランスを崩し、緑のドームの壁に身体を叩きつけられ倒れる。
「ゼーク! 大丈夫か? 闇を飛ばして、人の身体を吹っ飛ばすって……ファンタジー過ぎんだろ!」
叫ぶ航太の横で、フェルグスが瞬時に行動を起こしていた。
カラドボルグをニーズヘッグに向けて伸ばし、牽制しながら倒れているゼークに近付いて行く。
「無駄な事を……例えカラドボルグの様な神剣でも、闇の中では私に傷一つ付けられません。そして、もうドームは闇に覆われる……この中では、私が支配者です。諦めて、その命を捧げなさいな」
黒き鎌フラーマ・シュヴァルトは、闇と完全に同化した。
その鎌の一撃は、咄嗟に後ろに跳んだフェルグスの左肩から胸までを斬り裂く。
「くっ……攻撃が全く見えん! 攻撃動作も見えなければ、攻撃時の風切り音も聞こえないだと!」
「流石は歴戦の勇士。危険を察知して回避するとは……見事ですわ。 でも、いつまでも持ちませんわよ。その傷では、もう素早く動けないでしょ?」
フラーマ・シュヴァルトの一撃はフェルグスの鎧を簡単に斬り、肩から胸までの皮膚を裂いていた。
「どうかな? こんな浅い傷を付けただけで、勝った気でいるのか?」
「そうですわね……ただ、私は貴方を見くびってはいませんの……一撃で仕留められるなんて思っていませんのよ……」
そう言ってフェルグスに留めの一撃を与えようとしたニーズヘッグの髪の毛が少し揺れる。
「私の空間の中で、風? この風……まさか、フレースヴェルグの……」
航太の方を見たニーズヘッグは、エアの剣が異彩の力を放っているのが見えた……
「おいおい、聖剣の聖なる力だけで戦い過ぎだぜ! 時には力任せに剣を振った方が良い時もある!」
ラタトクスの放つ波紋……緑の壁に聖なる光を纏ったガラディーンで攻撃を加えるガラバ。
しかしその光の剣は、緑の波紋に尽く押し返されていた。
闇が広がっていくドームの中……ガラバは焦りながら、ガラディーンを振り続ける。
そんな時、後方から声が聞こえたが、それどころではない。
「知った風な口を利くな! 力で崩せる壁ならば苦労はしない!」
声をかけた人物を見ようともせず、カラバはラタトクスに向けてガラディーンを振り続ける。
「だから……それをやって、何か解決するのかねぇ……ニミュエ、オレに筋力アップの魔法だ!」
「いえ……いつも言っていますが、筋力がアップする魔法などありません! 魔法具の力を上げるだけの魔法……いつも言っていますのに……」
そう言いながらも、ニミュエと呼ばれた女性は魔法を唱えた。
「綺麗な戦いだけが、正義じゃねぇ! 時には野蛮な戦い方だって必要だぜ! 仲間を助けたきゃ、なりふり構ってらんねぇからな!」
ラタトクスに大きな盾を構えて体当たりをした男は、そのまま剣を振り下ろし……そして蹴り飛ばす。
ラタトクスが少しだけ後方に飛ばされ、緑の波紋の継ぎ目に少しだけ破綻が生じる。
「おりゃあああ!」
その男は、更に剣をラタトクスに向けて突き出していった……




