王立ベルヘイム騎士養成学校29
「くっ……なんだ、この力は? ガラディーンが押し負ける……」
緑の波紋が盾の様に広がり、ガラバが渾身の力で振り下ろしたガラディーンの軌道は止められていた。
止められた……どころではなく、緑の波紋は前進しガラバの身体を城壁に向かって押し込んでいく。
ガラディーンを波紋から離したら、途端に身体ごと城壁に飛ばされかねない。
いや、波紋と城壁に挟まれて押し潰されるだろう。
「そのまま身体を潰して差し上げてもいいのだけれど、待つのは得意ではありませんので……殺した後にプレスしてあげましょう。ラタトクス、やってくださいな」
押し込まれいくガラバの姿をフワフワと浮きながら見ていた3体のラタトクスは、緑の波紋を発生させると動き出す。
波紋の外側を鋭利な刃物のように尖らせると、回転しながらガラバに迫る。
手も足も出ないガラバは、背中に冷たいモノが走るのを感じた。
死ぬ……のか?
「ガラバ、私を信じて頭を下げろ!」
そう思ったガラバの耳にフェルグスの声が届き、藁にも縋るおもいで身体を沈み込ませる。
その瞬間、ガラバの頭上に閃光が走り、伸びた剣が緑の波紋の進行を止めていた。
「航太!」
「わーってるよ! 世話が焼ける……」
ガラバに迫る緑の波紋を、一つはゼークの剣が抑え、二つはエアの剣から発生した風の刃が防ぐ。
「ガラバ、離れろ! カラドボルグで押し切る!」
虹の長さまで一瞬で伸びると謳われるカラドボルグ……その力は絶大だ。
緑の波紋で身を守るラタトクスを後方へ押し返していく。
「流石はフェルグス……いえ、カラドボルグですわ。貴方だけは、私が直接やるしかないようね」
ニーズヘッグの背中からから黒き翼が生え、大空へ飛び立つ。
「我が漆黒の長鎌、フラーマ・シュヴァルト……ゴミ共を喰らい尽くしなさい……」
ニーズヘッグの右手が黒き靄に包まれ、その靄が長い鎌へと姿を変えていく。
空中でその長い鎌を振りかぶり、ニーズヘッグはフェルグス達に向けて横に払った。
フラーマ・シュヴァルトと呼ばれた黒衣の鎌から黒い炎が発生し、大地を焼きながらフェルグス達に迫る。
「ガラバ、ニーズヘッグは任せた! 我々は緑のリスを片付けるぞ!」
「って、おい! イケメン一人に任せていいのかよ? 奴の僕みたいな奴に圧倒されまくってたんだぞ? 本体を相手に勝てる訳ねーだろ!」
迫る黒い炎を見ようとせずラタトクスに向かってカラドボルグを振るフェルグスに、航太は叫んだ。
「戦いには相性と言うモノがある。闇……邪を払うのは光と決まっている。全てを飲み込む黒に唯一対抗出来る光……それが聖剣だ」
「逆に、私達では闇に飲まれちゃうの! 邪龍はガラバ君に任せて、私達はサポートを!」
半信半疑で迫る黒き炎を見た航太は、目を見開いた。
黒き炎が、光に包まれて消失していく……美しくも力強い光は、先程まで小さなリスに押されていたとは思えない程に神々しい。
「忌々しい……ラタトクス、聖剣使いを先に片付けて下さいな。いえ……いい事を考えました」
ニーズヘッグが黒鎌フラーマ・シュヴァルトで合図を送ると、4体のラタトクスがガラバを除く航太達3人を取り囲む様に四方に配置された。
そして、半球状の緑の光に3人は捕われてしまう。
「リス如きが、こんなんで閉じ込めたつもりかよ! 4体同時に吹っ飛ばしてやんぜ! くらえ、乾坤式鎌鼬!」
エアの剣を構えて……そして航太が高速で一回転すると、円形の鎌鼬が広がっていく。
「風神式とやらと、何が違うんだ?」
「あ? 全然ちげーだろーが!」
止まって緑の光を出しているリスに鎌鼬を当てるのは簡単……そう思いフェルグスに反論した航太の目に、鎌鼬を吸収した黒い壁が見えた。
「残念でしたわね。風だろうと雷だろうと、闇の前には無力……ここからは、私のターンですわよ。ラタトクス、小賢しい聖剣使いの相手はお願いいたしますわ」
鎌鼬を吸収した闇が、緑のドームの中を満たしていく。
「まずい……フェルグス様、直ぐにお助けします!」
ガラバは叫び、ラタトクスに向けてガラディーンを振り下ろす!
先程、強大な黒き炎を消滅させた程の光は、ラタトクスの放つ緑の波紋に完全に防がれていた……




