王立ベルヘイム騎士養成学校28
「航太、とりあえず剣を納めて……フェルグスの言う通り、今は敵じゃない」
既にヨトゥン兵に対して剣を構えるフェルグスに、航太は剣を向けたままだった。
ゼークの声も聞こえていないのか……航太はフェルグスを睨み続ける。
「余裕だな……オレなんて眼中にねぇって事かよ! お前が敵じゃねぇってんなら、それでも構わない……が、オレは敵だと思って行動すんぞ?」
「それでも、別に問題はない。ゼークに迷惑がかからなければ……な。技の名前を大声で叫ぶ奴の攻撃なんぞ、目を瞑っていても避けられる。だが騎士を目指すならば、立ち振る舞いも考えた方がいい」
口を動かしながらでも、フェルグスは強い。
迫って来る屈強なヨトゥン兵を軽くあしらい、その身体を的確に斬り裂いていく。
「てめっ……スカしてんじゃねーぞ!」
「風の騎士殿、貴殿は過去にフェルグス様と敵対していたかもしれません。しかし、状況は変わるモノです。そして今は、ソコにこだわっている時ではない……違いますか?」
航太の視界に突然入り、フェルグスの姿を隠したのはガラバだった。
黄金の鎧を纏った高貴な顔立ちの穏やかな口調による正論に、航太は何も言えなくなってしまう。
「私達は、聖凰騎士団への入団を目標にしています。聖凰騎士団が介入している戦闘で、聖凰騎士団が敵対している部隊と戦っているまでの事。そして、風の騎士殿はベルヘイムを守りたいのならば、この戦闘に関しては利害は一致しています。協力しあっても問題ないかと……」
喋りながらも、ガラバの持つガラディーンはヨトゥン兵を喰らっていく。
フェルグスとガラバ……2人の言葉は間違っていないと思う。
確かに、今は敵ではないのかもしれない。
力を合わせてヨトゥン兵を退け、城内の助けに行く事が最優先事項だって事も頭では分かっている。
だが……フェルグスはランカスト将軍を殺したロキ陣営に所属していた。
ランカスト将軍がビューレイストのダインスレイヴに突き刺された時だって、どこかで見ていたに違いない。
一真とロキが戦った時は、主であるロキに刃向かい一真に力を貸してくれていた事は確かだが……
それでも……大切な人を見殺した奴と肩を並べて戦うなんて、どうしても納得できない。
「航太、ランカスト将軍が倒された時、ガヌロンを捕らえてくれたのはフェルグスよ。フェルグスは常に正しい事をやろうとしている。ガラバくんの言う通り、利害が一致している間だけでも……」
ゼークの言葉に、航太はエアの剣を力強く握り締め……
「だらぁぁぁぁぁぁ!」
エアの剣を振りながら叫んでいた。
発生した鎌鼬は、フェルグスの前にいたヨトゥン兵達を薙ぎ払う。
「わりぃな……頭ン中がお子ちゃまなんでよ……なかなか割り切れねぇんだ。だが、確かにベルヘイムをヨトゥンに破壊させる訳にはいかねぇ……それこそ、ランカスト将軍に怒鳴られちまう。ランカスト将軍から教わったのは、変なプライドを持ち続ける事じゃねぇ!」
「ふっ……技の名前を叫ばなくても技は出せるんだな。頼りにさせてもらうぞ、風の騎士!」
カラドボルグから放たれる様に見える閃光と、エアの剣から放たれる鎌鼬が直線に伸び、次々とヨトゥン兵を倒していく。
が……ヨトゥン軍の中心辺りで、その勢いが殺される。
「ニーズヘッグ、そこかっ!」
止められた伸ばしたカラドボルグに、電撃が走った。
カラドボルグの周囲にいるヨトゥン兵を燃やしながら、電撃がニーズヘッグに向けて流れていく。
「フェルグス……ロキ軍から離れているのでしたね。でしたら、ここで私に殺されても文句は無いですね? 人間如きに、龍の翼が止められるか……見させて頂きましょう」
ニーズヘッグに電撃が届いたと思われた瞬間、黄色の光は緑の波紋によって四散した。
ニーズヘッグの前に、盾の様に4つの緑の波紋が浮いている。
「攻防一体の私の力……ラタトクス。見せて差し上げましょう」
漆黒の翼に、地面まで伸びている様に見える髪が舞う。
ニーズヘッグの動きに呼応して、ラタトクスと呼ばれた緑の波紋を作り出していた球体がフェルグス達に迫って来る。
「邪龍ニーズヘッグ……邪な者を伐つのは、聖剣と決まっている! ガラディーン、その力を解放しろ!」
ガラディーンの刀身から、黄金の輝きが溢れ出す。
緑と黄金が、空中で激突した……




