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雫物語~鳳凰戦型~  作者: クロプリ
騎士への道
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王立ベルヘイム騎士養成学校26

 

「ザハール! お前、無事だったか! ヨトゥン兵は……まだ食堂の中だな? ん……ちょっと待て。お前、その返り血はなんだ? それに、その剣は……ティルフィング?」


「兄貴……イヴァンの奴を殺ってやったぜ……意識の無いところをグサリってな! ようやく、復讐を果たせたぜ!」


 返り血を浴び赤く染まったまま歩くザハールは、食堂に向かって走って来た兄のクスターに声をかけられた。


 クスターの問いに答えた言葉は……語気を無理矢理に強めるザハールの声は、強い口気で後悔を隠そうとしている様にも見える。


「ザハール……イヴァンを殺って、ティルフィングを奪ったのか……復讐という事を除いてしまえば、イヴァンがアレナを殺したのと同じ事をやっている事を理解しているのか? 事実が歪められているとしても、ベルヘイムの中のイヴァンはティルフィングの封印を解き、友人であるオレの刑期を短くした英雄だ。アレナが死んだ逆恨みで、イヴァンを殺したと言われる可能性もある……イヴァンの大切な人達に、お前やオレの様な復讐心を植付ける事になるかもしれない……」


「そんな事は分かってんだ! 兄貴は、そんなに世間体が大切なのかよ! 姉貴が……アレナが、この世で一番大切で好きだった野郎に殺された……そんなサイコ野郎が、気を失って倒れていたんだ……頭で理解出来ていても、身体が動いちまった……どうしたって、許せなかったんだ! 兄貴なら、どうしてた? 復讐も出来ない程に腑抜けちまったのかよ!」


 睨んで来るザハールの視線に耐え切れず、クスターは目線を外す。


「いや……オレだって許せない……許した事なんて、一時も無い。だが、今のイヴァンに復讐したところで、叩かれるのはオレ達だ。良い事なんて、一個もない。だが……やってしまった事は、取り返しがつかない。ザハール、ティルフィングを貸せ! オレがイヴァンを殺った事にすれば、お前は騎士見習いになれる筈だ。これまでの努力……無駄にする事はない」


「それはどうかな……目撃者だっている。今更、兄貴に罪を被ってもらう事なんて、できねぇよ……オレは、ベルヘイムには戻らない覚悟が出来ている。それに、コイツ……ティルフィングは危険だ。神剣と言われながら、人の血を吸って強くなる……コイツは、人間と共存出来る代物じゃねぇ……だから、オレが持って行く。人の世界と離れた場所に……」


 そう言うと、ザハールはクスターの脇を抜けて歩き出す。


 ザハールの背中を確認したクスターは、自らのバスタード・ソードを鞘から引き抜く。


 そして、クスターに背を向けているザハールの後頭部を目掛けて、バスタード・ソードを振り下ろした。


「兄貴……どういうつもりだ?」


 ザハールは自分の頭に当たる直前で止まったバスタード・ソードを確認してから、振り返る。


「すまん……ザハールの言う通り、オレもティルフィングが神剣とは思えないんだ。もしも……お前がティルフィングの力に飲み込まれていたら、宿主の命を狙われた瞬間に動くと思ったんだ……だが、何も起きなかった。お前は、本当に……」


「だとしたら、あんな殺意の篭っていない一撃じゃダメだ。本気で……殺すつもりで来ないとな。だけど、オレは正気さ……自分の犯した罪も分かっている。ベルヘイム騎士殺しの家族として、兄貴には面倒をかける事になるけど……」


 そう言うと、ザハールは再び歩き出す。


 ベルヘイムの外へ出る為の門は、ヨトゥン兵との戦闘が行われている。


 混乱に乗じて外に出る事は、さほど難しくなさそうだ……


 動きだそうとしたザハールに、近寄る人影があった……



「そんな……力を解放しても、当たらないなんて……」


 クルージン・カサド・ヒャンの力が解放され、剣が光の鞭のように伸びて撓るが……


 遠距離からの不規則な攻撃すら、アーサーの絶妙な体重移動で躱される。


 風圧で逃げる紙の様に……攻撃が届く瞬間に身体が逃げていく。


「力を解放してこの程度か? 一流の神剣も、使い手が三流だと可哀相だな……」


「くっ……ならば、これでどう? 我に従えし幻神の炎鳥、イグニース・フェニーチェ! 現れ出でて我に仇なす者を焼き尽くせ!」


 アーサーの身体が軽くなったと同時に、メイヴが突き出した右手の前で食堂の天井にも届きそうな程の巨大な魔法陣が出現する。


 その魔法陣から、炎の鳥が生み出された。


 その姿は、正に炎の鷹……嘴を突き出して、アーサー目掛けて、魔法陣から勢いよく飛び出す。


「幻? 笑わせる。造りモノに何が出来る!」


 アーサーの瞳が一瞬だけ紅く光り……そして、一瞬だけ鳳凰の翼が広がる。


 鳳凰の翼が広がっただけで、炎の鷹……イグニース・フェニーチェは四散した。


 イグニース・フェニーチェが残した火の粉と、鳳凰の翼の消滅時に残った光の玉……その中心で、輝くエクスカリバーを構えるアーサーの姿は神々しい。


 その美しさに、メイヴは目を奪われた。


 自らの最大魔力を使った大技、イグニース・フェニーチェをも一歩も動かずに封じられた……倒れている人々も傷付けず、建物にも被害が無い。


 自分自身も、致命傷は一つも無い……それなのに、圧倒的な絶望感にメイヴは襲われていた。


「アーサー様、ご無事ですか? お一人で勝手に行動しないで下さいと、あれほど申し上げていますのに!」


「コイツらの狙いは、ベルヘイム天空城の転移魔法陣だろ? 我々が使い始めた結果、その存在がヨトゥンに知られてしまったのだ。その尻拭い程度はしてやらんとな……しかし、我々の国を攻めるよりベルヘイムを堕とす方が楽と判断されるとは……ベルヘイムとは、大国の割に脆弱なのだな」


 突然現れた美女とアーサーが話をしている……その隙に逃げようとしたメイヴは、そこで自分が縛られている事に気付く。


 胸の下から両腕と、両足……


 光る輪で縛られている。


「残念だけど、逃げるのは諦めた方がいいわ。神器ブリーシンガメンは人の力で破れる程柔じゃない。貴女が人なのかは分からないけどね」


「フレイヤ、貴女も聖凰騎士団にいるのね。女神である貴女が従うなんて……アーサーとは、一体何者なの……」


 バロールの配下だった時代に何回も剣を合わせて倒せなかった相手の登場に、メイヴは状況の打開を諦めていた……




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