王立ベルヘイム騎士養成学校11
「智美、航太から連絡が来ているわ。なんか、協力して欲しい事があるって……」
「協力? 何だろ? 悪い事に手を貸せって話じゃなきゃいいけど……」
智美は額から流れる汗を腕で拭うと、ゼークから伝信器を受けとる。
「航ちゃん? 学園生活で、何かトラブルでも起こした?」
「何だ、そりゃ? いや……トラブルっちゃ、トラブルかな? いやーなぁ……オレと同じカリキュラムを受けたいって奴が三人もいて、全員で合格する為には寝る間も惜しんで訓練しなきゃなんねぇ……」
「はぁ……なる程ね。私に、傷やら疲れやらを取って欲しいって訳ね。まぁ……コッチの仕事は終わってるから、力を貸すぐらいは出来るけど……」
智美はそこまで言うと、ゼークに許可を求める為に視線を向けた。
「智美のスキルアップにも繋がるなら、良いんじゃないかしら? 航太にとっては、十二騎士選抜試験は過程でしかない。最終的には一真を救って、そしてヨトゥンを撃退しなきゃいけない。養成学校の試験で足踏みしてもらっちゃ、困るしね」
「そうだね……分かった。航ちゃんが騎士見習いになるまで、しっかり監視してくるよ。航ちゃん、聞こえてた?」
「てか、監視って何だよ! 手伝いとか協力とか言えねーのか? 優しくない女はモテねーぞ!」
航太の声を聞き、智美とゼークは顔を見合わせて笑う。
「航太、大丈夫よ。智美は航太以外には優しいし、充分モテモテよ。心配無用! それより、しっかり騎士見習いになってよ。一真を助けるチャンスは……」
「ああ……状況は把握しているつもりだ。必ず最短で、騎士見習いになる。そして、ベルヘイムも一真も……全てを守る。オルフェ将軍やゼークの頑張りを、無駄にはしないさ」
航太の言葉に、ゼークは少し胸が熱くなる。
「ホントに……どこまで真面目なのか、ふざけているのか分からないわね……でも、ありがと。必ず一真を助けましょ……私達の英雄を……あと、オルフェは元帥よ」
「将軍も元帥も、似たようなモンだろ。じゃあ、智美頼むぜ! 出来るだけソッコーで来てくれ!」
伝信器を切ると、智美は壁に立てかけてあった草薙の剣と天叢雲剣を鞘に収めた。
「ゼーク、行って来るね。航ちゃんを必ず一人前にして戻って来るから」
「うん、よろしくね。気をつけて行って来て」
笑顔で手を振った智美は、修練場の外へと走り出す。
「智美……やっぱり貴女は、戦闘には向いてない……優し過ぎる。一真みたいに、ホワイト・ティアラ隊で後方支援に徹してくれた方が……」
走り去る智美の後ろ姿を見送りながら、ゼークは呟いた……
「ザハール、動きが遅せー! 炎にビビって必要以上に間合いをとったら、攻撃に移れねーぞ! 攻撃範囲が広い相手には、懐に飛び込むんだよ!」
「ちっ、言いたい放題言ってくれるぜ……くそっ、剣に炎が纏うだけで、ここまで戦い辛くなるのかよ……」
汗を地面に垂らしながら、ザハールは剣を構える。
ザハールの視線の先には、神剣グラムに炎を纏わせた航太が仁王立ちしていた。
「って……航ちゃん! 何突っ立ってんの? ベルヘイム騎士の構え! ザハール君の動きを見ながら、自分も学習しなよ……」
「おっとぉ……そうだった。気を抜くと、すぐ忘れちまうな……」
智美の言葉で思い出したかの様に、ぎこちない動きで航太はベルヘイム騎士の構えをとる。
「まったく……何のための訓練だと思ってんのかしら……」
はぁ……と溜息を吐く智美の横で、ジルが笑う。
「智美さん、ありがとうございます。疲れも痛みも消えました。智美さんの力……本当に凄いですね」
「二本の神剣を使い熟すなんて、フィアナ騎士のディルムッドぐらいしか、私は知らない。二本の神剣を同時に使って、二人を同時に回復させるなんて……」
ジルの言葉に同意したイングリスは、回復した身体を少し動かして問題無い事を確認した。
「二人とも、頑張り時って事は理解しているけど、無理し過ぎちゃ駄目だよ。傷と疲労は回復させてあげれても、精神的な所までは回復出来ない。集中力が切れてきたら、休憩してね」
智美の言葉に頷いたジルとイングリスは、航太に向かって駆けて行く。
と……同時に、全身に軽い火傷を負ったザハールが智美の前に転がって来る。
その身体が、直ぐに青い光に包まれた。
「智美さん、ありがとうございます。それにしても、剣に炎が付加されるだけで、マジで戦い辛い……けど、恐怖に勝って懐に飛び込まねーと……」
青い光の中で、ザハールはジルとイングリスの動きを目で追っている。
その姿を見て、智美は頼もしさを感じた。
しかし……それと同時に、不安もある。
ロキの陣営にいた兵達は、申し訳ないがザハール達の何倍も強い。
動きを見るだけで、智美には分かってしまう。
実際にヨトゥンの兵達を見てきた智美には、その力の差を……
「だから、私達が戦わないと……一人でも多くの命を守る為に……そうだよね、カズちゃん……」
航太が剣を振る姿を見ながら、智美は呟いた。




