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雫物語~鳳凰戦型~  作者: クロプリ
騎士への道
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王立ベルヘイム騎士養成学校7

 

「ザハール、付いて来なくてもいいんだぞ。お前はまだ剣術を学んでいない。オレ達がいても危険には変わりない」


「そうね……でも、ザハちゃんは言って聞くような子じゃないわ。クスター、イヴァン、守ってあげて」


 ザハール達は、ベルヘイム西北にある洞窟の入口に立っていた。


 人影は4つ……背の高い影が2つ、少し身長の低い細身の影が1つ、そして小さな影が1つ……


 夕暮れのオレンジの光の浴びて、影が伸びている。


「馬鹿にすんじゃねーよ! 洞窟の中のモンスター程度、オレだって倒せるぜ! 兄貴が神剣を持つ姿を一番に見たいんだよ。オレは付いて行くぜ!」


「アレナもクスターも、じゃじゃ馬な弟がいると苦労するな。まぁ、2人ともオレとクスターの後ろを付いて来な。必ず守ってやるぜ」


 人影の正体はラトヴァラ兄弟であるクスター、アレナ、ザハールの3人と……


 クスターの親友でアレナの恋人である、金髪でニヒルな顔立ちのイヴァン・シュラーメク。


 彼らは、炎の洞窟と呼ばれる場所の入口に立っている。


 炎の洞窟……と言う割には、洞窟の中からは冷たい風が吹いており、その風が身体に当たる度に身がブルッと震えた。


「そろそろ、卒業試験が始まっちまう。騎士養成学校史上最強のクスターが、神剣ティルフィングを継承するべきだ。雑魚な先輩達に、万が一でも渡っちまったら最悪だ」


「悪いなイヴァン。付き合わせてしまって……オレ1人なら、なんとかなると思ったんだが……」


 クスターは弟と妹を見て、そして深い溜息をつく。


「えー、回復魔法が使える私がいた方がいいでしょ? 薬草を買うにしたって、高いんだから……それに、卒業試験に使う程度の洞窟なら楽勝でしょ?」


「だと、クスター気にするな。アレナが行くなら、彼女を守る為にオレも行く。ある意味、デートみたいなモンさ」


 イヴァンとアレナは、目を合わせて笑う。


 神剣ティルフィングが眠る洞窟は、ベルヘイム騎士養成学校の卒業試験に使われる。


 4人一組で洞窟に入り、ティルフィングを守る炎の前に置かれた印を持って帰ってくるという試験だ。


 洞窟中に住まうモンスターに倒されるようでは、ヨトゥンと戦う騎士にはなれない……そして、運良くティルフィングに認められる者がいれば騎士団の戦力アップに繋がる。


 来年卒業のクスターは、今年の卒業生にティルフィングが取られる前に洞窟に忍び込み、ティルフィングを持って来ようと思い立った。


 本来、洞窟の前には侵入禁止の封印がかかっているのだが、その日は外れている。


 何故か……学校としても、出来れば学内最強と呼ばれるクスターにティルフィングを渡したい……つまり、黙認したのだ。


「しかも、オレの言った通りだろ。先公の聞こえる場所で洞窟探検の話をすりゃ、封印を解いておくだろうってな。学校としても、クスターにティルフィングを使わせたいのさ」


 そう言うと、イヴァンは洞窟に足を踏み入れる。


「行こうぜ、兄貴! 明日っから、オレはMyth knightの弟って自慢出来るぜ!」


 走り出すザハールの背を見ながら、クスターはバスタード・ソードの柄に手を置いて気を引き締めた。



「凄い炎……これじゃ、中に入ってティルフィングを持って来るのは無理ね……こんな炎の中で、剣は溶けないのかしら……」


「神剣だからな……溶ける筈はないが、流石に持って帰るのは無理そうだな。ティルフィングに認められれば、炎は消えるのだろうか……」


 炎の前で立ち尽くすアレナとクスター。


 消える様子のない炎に、途方に暮れる。


「ティルフィングを護る炎の前まで着けば、何らかの方法が提示されると思ったんだが……何も無いな。本当に炎に囲まれているだけで、何も無い」


 ティルフィングを護る炎の周りを一周したイヴァンも、何の方法も見つけられず戻って来た。


「炎の一番上も見えない。飛び越えるのも無理そうだね。兄貴、どうすんだよ?」


「つまり、ここにいる誰もがティルフィングに認められなかったって事だろう。オレは、神剣を持つ器じゃなかったって事さ」


 噴き上げられる様に立つ炎は、天井が見えない洞窟の……その天井まで伸びているのではと思わせる程に頂点が見えない。


 そして炎の壁は厚く、飛び込んでも消し炭になるのは間違いないが……


「ひょっとしたら、炎に飛び込む勇気を試されているのかもしれん。まずオレが飛び込んでみる。可能性を感じたら、クスターも飛び込んでみてくれ!」


「ちょっと、何を考えているのイヴァン! こんなところで死んじゃダメ! 一度戻って、何か対策を考えましょ? 炎に飛び込まなければ手に入らないなら、今年は取られる事ないよ」


 炎に飛び込もうとするイヴァンの腕をアレナは思い切り掴み、その動きを制止する。


「イヴァン、アレナの言う通りだ。命までかける必要はないさ。それに今年の卒業生に、炎に飛び込める勇気のある奴はいない。先輩に失礼かもしれんが、実際オレより強い奴もいないしな……」


 アレナとクスターに止められたイヴァンは俯きながら頷くと、踵を返す。


 その時……


(血を……よこせ……我に……血を……)


 突然、頭の中に言葉が入って来た。


「なんだ、今のは?」


「クスターも聞こえた? 頭の中に声が響いたような……変な感覚……でも、血って……」


 クスターとアレナは振り返って、再び炎の……その先を見つめる。


「兄貴……なんだったんだよ、今の……なんか、こえーよ!」


「ティルフィング……まさか、神剣ではなく……」


 クスターはザハールの頭を抱き寄せながら、後退りした。


 その顔は、炎で赤く染まっているのに青ざめている。


「アレナ、イヴァン! 洞窟の外に出るぞ! 何か、ヤバイ気がする!」


 後退るクスターの頭に、更に言葉が響く。


(血だ……我に大量の血を飲ませよ……我を求めし者よ……血を……その対価に、力を与えてやるぞ……血を……我に……)


 禍々しい言葉に耳を塞ぐが、直接脳内に響き渡った。


「くそっ! アレナ、イヴァン……走れ!」


 クスターが叫んだと同時に、女性の悲鳴が洞窟内に木霊する。


 か弱く、絶望的で、哀しみが篭ったその声は、クスター達の足を止めるに充分だった……


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