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雫物語~鳳凰戦型~  作者: クロプリ
それぞれの旅立ち
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ガラード・エレイン1

「ふーっ! さて、そこの教会で飯でも貰うかな。腹減った腹減った!」


 土で濁った池の水で髪を洗っていた青年は、大きく伸びをすると近くの教会に向かって歩き出した。


 精悍な顔立ちとは似つかわしくないボサボサの髪、薄汚れた服の上に栄える金色の剣と鞘。


 浮浪者なのか貴族なのか……謎の風貌の青年の名は、ガラード・エレイン。


 ブレスタ・グランロッドの子供であり、ガラバ・グランロッドとは異母兄弟になる。


 湖の妖精の計略によってブレスタは妻ではない女性と一夜を共にし、生まれたガラードはグランロッド家の名誉を守る為に赤子の時に修道院に預けられてしまう。


 その修道院に通っていた魔術師マーリンに引き取られ、騎士としての教育を受けたガラードは、己の主を探す旅に出ている。


 18の誕生日を迎えたガラードは、マーリンから己の主君を探す旅に出ろと突然言い渡された。


 訳も分からず家を放り出されたガラードは、当ての無い旅の真っ最中だ。


 それでも、ガラードの顔に悲壮感は無い。


 親同然で育ててくれた魔術師マーリンは、意味の無い事はしないという確信があった。


 この旅にも、何か意味があるのだろう……そう信じているからこそ、明るく旅を続けられる。


 と言っても、行った事のある修道院や教会をグルグルと回っているだけなのだが……


 その日も、子供の頃に訪れた事のある教会に厄介になろうと決めていた。


「神父さん、いるかい? 飯を分けて欲しいんだけど……」


 ガラードは修道院や教会で生活を送っていたため、躊躇いなく扉を開ける事が出来る。


 いつものように、食事を恵んで貰おうと教会の中に入って行く。


 教会というものは、厳かで静かな場所のはず……しかし、何か騒がしい。


「おい、止めておけよ! 殺されちまうぜ!」


「何人も殺られてんだから、何も危険な事しなくても……」


 そんな言葉を無視して、1人の騎士が教会の隅に立ててある盾を手にとった。


「馬鹿馬鹿しい。この盾を盗まれない為に、教会の人間がデマを流してんだろ! 騙されてんだよ! それに、この地方にオレより強い騎士はいない。神父さんよ、盾は頂くぜ!」


 白に輝く綺麗な盾を手に取った騎士は、無言で見つめる神父を横目に、そのまま教会の外に出て行く。


 ガラードはイマイチ事態が飲み込めずに、騎士の出て行った扉に視線を向ける。


「神父さん、お久しぶりです。で、一体何があったんですか?」


 子供の頃に遊んでくれた神父さんを見つけて、ガラードは声をかけた。


「ああ、久しぶりだな。立派な青年になったが、もう少し清潔にした方がいい」


 ガラードの姿を見た神父は懐かしさに目を細めるも、あまりにも汚い身なりに呆れ顔になる。


「まったく、マーリン殿も父親役をかって出たのなら、しっかりしてくれないと……」


「いや、神父さん。これはオレの問題さ……師匠が悪い訳じゃない。それで、あの盾は?」


 ガラードは、騎士が持って行った大きな盾が気になっていた。


「ああ……数日前から、教会の隅に置かれていたんだ。誰かが持って来たのか……とにかく、あの盾を持ち出すと白の騎士が現れて戦いを挑んでくるんだよ。それが出鱈目に強くて……既に何人かの騎士が犠牲になった」


「へぇ~。じゃあ、ちょっくら見てくるか。少し気になるし……盾さえ持たなきゃ、大丈夫なんだろ?」


 呼び止めようとする神父を無視して、ガラードは盾を持って行った騎士を追って教会の外に出る。


「本当に出やがったな! 貴様、何者だ!」


 教会の外で、直ぐに盾を持って行った騎士に追いついた。


 盾を持つ騎士の目の前には、白の鎧と白の兜に身を包んだ騎士が馬上で槍を構えている。


「あの白い騎士……構えに隙がない。こりゃ、強そうだな……」


 ガラードは呟くと、暫く戦いを見守る事にした。


 先に仕掛けたのは、盾を持つ騎士だ!


 自らの半身程もある大きな盾で上半身を隠し、白騎士に迫っていく。


 自らの間合いに入ったのだろう……動かない白騎士に対し、不用意に盾から身体を出して剣を振る。


 その一瞬を、白騎士は見逃さなかった。


 盾から身体の出た場所………右の胸を目掛けて、無駄なモーションも無く鋭い突きを見舞う。


「ぐはぁ!」


 盾を持つ騎士は右胸を貫かれ、その手から盾と剣が落ち、身体も大地に崩れ落ちる。


「まじか! おい……あんた、大丈夫か!」


 ガラードが倒れた騎士に近付いた時には、白騎士の姿は既に消えていた。


「一体、何者だ? だいたい、馬の蹄の音すら聞こえなかったぞ……どうやって消えた?」


 ガラードは気になったが、今は胸から大量出血をしている騎士を助けなければならない。


 自らの服が血で汚れるのも構わず、ガラードは騎士を引きづりながら教会まで運んだ。


「だから止めろって言ったんだ! 言わんこっちゃない!」


 盾を持ち出すのを止めてた男が、頭を抱える。


「神父さん、何とか血を止めてやってくれ! 心臓の逆側だ。直ぐに止血すれば、助かるだろ! オレは、あの白い騎士の正体を確かめる!」


 そう言うと、ガラードは教会の外に落ちている白い盾を拾いに走った。


「お前………今の見てたんだろ? 何やってんだ!」


 教会の中から、男が叫ぶ。


「ああ……だが奴の存在は不気味だし、放置しとく訳にもいかんだろ? それに、盾の秘密も気になるしな……」


 白く輝く盾を構えたガラードは、十字架を模倣したとしか思えない自らの愛剣カリバーンの金色の鞘を握りしめた。


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