ベルヘイムへの旅立ち3
「案の定、真っ暗になったな……ガッツリ森の中で……」
「期待はしてなかったけどね。美羽さん、初日から散々ね……」
航太はガラードを睨み、智美は呆れた顔で溜息をついた後、美羽を気遣う。
「はい……疲れましたけど、でもキャンプ・ファイヤーみたいで楽しいです。ただ……」
美羽の視線の先には、豪快に串に突き刺された肉が焚火用の火に炙られている。
森にいた鹿を倒し、捌いて串に刺しただけの肉……
「なんだ? 美羽は、お嬢様育ちか? 鹿肉なんてご馳走だぜ! 少し焦げたトコが、香ばしくて美味いんだ! 豪快にかぶりつけ!」
ガラードがかぶりついた部位から少し血が滴り落ち、美羽は目を背ける。
「ちょっちガラードくーん! ミワちんも智ちんも、ガラードみたいにガサツじゃないのよ。少し黙って、静かに食べよっか?」
目を吊り上げてガラードに指示した後、絵美は優しい笑顔を美羽に向けた。
「よし、今日はポテチ開けようか? 航ちゃん、持って来てたよね?」
「おい……そりゃ、オレのお楽しみ……でも、まぁいいか。だが、少しずつでも、コッチの飯に慣れないとな……」
自分のリュックからポテチを取り出した航太は、絵美に手渡す。
「そうだね……私も、最初はキツかったなー。野生味溢れる臭いが、結構堪えるのよねー」
そう言いながらも、智美は少し焦げている鹿の肉を口に入れる。
「で……ガラードさんよ。マックミーナ族ってのは、一体何なんだ? あの一つ目小僧……じゃなくて一つ目巨人も、ヨトゥンなのか?」
「航太さん……ヨトゥンが人間の世界へ攻めて来た頃の話……ご存知ないですか? 小さな子供でも知っている話なのに……」
航太の質問に、ニミュエが首を傾げた。
原爆とか大震災って何? と、大人が質問してきたようなモノと言えば分かるだろうか?
知ってて当たり前の質問に、ニミュエは困惑する。
「ごめんなさい! 私達、本当に無知で……外の世界と隔離された村で育ったから、何にも知らないのよ……」
「でも、さすがに……」
智美の言葉を不信に感じたニミュエを、ガラードが手で遮った。
「まぁ、いいじゃねぇか。知らなきゃ、今知ればいい」
ガラードはそう言うと、更に豪快に鹿の肉を口に頬張る。
話途中でも食事の手を休めないガラードを横目に、口の中の鹿肉の影響で話せないであろうガラードに変わって、ニミュエは口を開く。
「マックミーナ族っていうのは……」
マックミーナ族とは、ヨトゥンが住む世界ヨトゥンヘイムと人間が暮らしていたムスペルヘイムの間に住み着いていた民族である。
一つ目の異形なる存在……そして、背の低い者でも3メートル以上ある巨人の集団……
ヨトゥン軍の先兵部隊であったロキの部隊がマックミーナ族を従えてムスペルヘイムを攻めた時、人々は口を揃えてこう言った……巨人族が攻めて来た……と。
それ以降、ヨトゥン=巨人族という認識が出来上がってしまった。
そのマックミーナ族が、ヨトゥンに反旗を翻す。
それが何故なのか?
謎に包まれているが、ヨトゥンとマックミーナ族との戦闘は熾烈を極めた。
結果、ムスペルヘイムを占領したマックミーナ族を、ヨトゥンがミュルクヴィズと呼ばれる暗い森で覆い隠す事になる。
「それが、なんでベルヘイム国境付近に出て来るんだ? ムスペルヘイムって、コナハトの先だろ?」
「そうなんですけどね……最近、ミュルクヴィズから出られるマックミーナ族が現れているの。その力は、ヨトゥンの兵士より上と言われているわ。危険な相手よ……」
ニミュエの説明を聞いた航太は、首を捻った。
ベルヘイム遠征軍がバロールを倒し、ヴァナディース姫を奪還したコナハト城……ムスペルヘイムは、そのコナハト城の更に先にある。
ヨトゥン領であるコナハトを通り抜けない限り、ベルヘイムには到達出来ない筈なのだ。
ニミュエの説明だと、ヨトゥンとマックミーナ族との間には確執があるのは間違いないだろう。
「ま、マックミーナ族退治の為に、フィアナ騎士団も出張ってるって話だ。直ぐに討伐されるだろうさ!」
「そうか? そんな単純な話じゃ無い気がするが……」
航太は、満天の星が浮かぶ夜空を眺める。
静かな森の中……しかし戦闘の足音は、確実に航太達に迫っていた……




