ベルヘイムへの旅立ち
「いやー! すまないな。そちらの女性を三人がかりで襲っているのかと思ってだな……まぁ、よくある勘違いってヤツだ!」
「んな勘違いするかよ! 男三人なら、まぁ分からなくはねぇ……けどよ、男一人に女二人で襲うか? 客観的に見ても異常な状況だろ!」
焚火を囲んで輪になる航太達とガラード達は、一応の和解はしていた。
しかしガラードのよく分からない勘違いに、航太は語気を強める。
「そうよねぇ……私達って、そんな凶暴に見えるのかな? 戦闘になると、無意識で目が釣り上がっちゃうとか?」
「智ちんは、怒ると怖いもんねー。私と美羽ちゃんが襲われてる様に見えても、仕方ないかなー」
睨む智美の顔を、「ソレソレ」と笑いながら絵美が指差す。
「でも、皆さんが強くて良かった……ガラードは、考える前に行動しちゃうから……」
白い修道服に身を包んだニミュエは、全員に怪我が無い事を確認して安堵した。
教会から離れる事を聞いた神父が、ニミュエの為に用意してくれた白い修道服……
黒から白に着替えた時、少しの寂しさと大いなる決意を胸に抱く。
ガラードを守り抜く決意を……
「はっはっは! まぁ、いいじゃねぇか! それにしても、本当に腕が立つ。マックミーナの戦士を一撃で倒しちまうとは……大したモンだ!」
「よかねぇ! そして痛ぇ! 勘違いにも程があるぜ! 少し考えりゃ、分かりそうなモンだがな!」
背中をバシバシ叩かれた航太は、ガラードを睨んで反論する。
「まぁまぁ……ガラードさんも反省してるみたいだし、結果オーライって事でイイんじゃない? 美羽ちゃんが泣いてたのは事実だしね」
「ごめんなさい……私が動揺して泣いちゃって……でも、今だに信じられない。こんな世界があるなんて……」
智美が止める前に、美羽が口から出してしまった。
こんな世界……と。
「美羽さん……でしたね。別の世界から来た……と言わんばかりですが、どちらのご出身ですか? 見たところ、奇妙な衣服を着てらっしゃいますし……」
「えっ? そんなコスプレみたいな格好の方がおかしいです。私の格好なんて普通かな? って思うけど……」
胸元が少し開いたVネックのタンクトップにGパンを履き、白に青のストライプが入ったワンピースを羽織った美羽の格好は、元の世界では普通の格好に間違いない。
確かに、鎧を着込んだ男性と白い修道服の女性など、コスプレに見えても不思議ではない……が……
説明を放棄して会話に入る素振りを見せない航太と絵美を見て、頭を抱えて大きな溜息をついた智美は、更に大きく息を吐いてから口を開く。
「元ベルヘイム遠征軍の風の騎士って言ったら分かるかしら? 彼の出生は謎って事になってるでしょ? 彼女も風の騎士と同じ出身で、こことは少し文化の違う国なのよ。もちろん、服装も少し違うわ」
「って……あんたら、伝説の風の騎士御一行かよ! ヴァナディース姫を救い、あのバロールを倒し、ヨトゥン軍最強って噂のロキと互角の戦いをしたって言う……そりゃ、強い訳だな!」
ガラードの言葉を聞きながら、航太と絵美はもちろん、話をした智美までキョトンとなった。
「……いや、だいぶ違うな……確かに、ベルヘイム遠征軍の風の騎士とは言われていたけど、バロールもロキも倒したのは別のヤツだよ。そいつは……」
「いやいや、謙遜すんなよ! フィアナ騎士のアルパスター将軍と協力してバロールを倒した! 7国の騎士以来の伝説だ! 風の騎士と二人の水の騎士……パーティ構成も一緒だしな! こりゃ、色んな人に自慢出来るぞ!」
再びの勘違いに、航太達三人は頭を抱える。
そして、今回はニミュエまで目を輝かしていた。
「すごーい! ベルヘイム騎士を救ってから、何も言わずに姿を消した英雄達に出会えるなんて! こんな人達に戦いを挑んだなんて知れたら、ガラード殺されちゃうかも……」
「だな……すまんが、他言無用で頼むぜ? そのかわり、何でも協力してやる! 俺達は、当てのない旅をしている途中だしよ」
もはや服装の事など忘れ、二人は目を輝かしている。
「あの……皆さんは、こっちの世界では英雄って事になっているのかな? だとしたら、どうして一真くんだけ行方不明なの?」
「あのね、こっちの世界では噂の話が歪んで伝わってしまっているけど、今の話の全てがカズちゃんの功績なのよ……私達は、本当に何も出来なかった。ほんの少しだけ、カズちゃんのサポートが出来たって……勝手に信じたいだけで……」
本当に悔しそうに唇を噛む智美を見て、美羽も少し悲しくなった。
「でも、今は一真くんより強いんでしょ? あんな大きな化け物を一撃で倒しちゃうんだもん! そしたら、直ぐに連れて帰れるよね?」
「一真なら、あの化け物が不意打ちで鈍器を振り下ろした段階で勝負がついてる……躱すのと同時に攻撃して終わりだ。くそっ! 少しは強くなったつもりなのに、強くなればなるほど、一真の強さが分かっちまう! 本当に、一真を連れて帰れるのか……?」
航太の言葉……本当に辛そうな航太の姿を見て……そして皆の話を聞いて、美羽はようやく実感した。
看護学校で一緒に学んでいた学友は、よく分からない世界で戦い、心を失ったのだと……
そう思うと、胸の辺りが熱く……締め付けられる感じがした。
脳裏に過ぎる優しい笑顔……人を救う為に必死に学ぶ姿……
「私も……皆さんに付いて行っていいですか? 私も、一真くんに戻って来てほしい……お願いします!」
「いや……お願いされてもなぁ……日本と違って、こっちの世界は危険なんだ。力がねぇと、死んじまうんだぞ!」
頭を下げる美羽に、航太は困った表情で智美に助けを求める。
「アルパスター将軍とかゼークとか……私達も、最初は今の美羽ちゃんと一緒だったと思うけど、必死で助けてくれたよね。私がヨトゥン軍に捕まってた時、ランカスト将軍とゼークは、命懸けで助けようとしてくれた……助けてくれた。そして、こっちの世界で私達は沢山の事を学べた。航ちゃん、今度は私達が守りましょ! 美羽ちゃんの声が、カズちゃんの心に響くかもしれないし……」
「ベルヘイムまでなら、俺達が道案内してやれるぜ! 勘違いしちまった詫びもある。神剣使い三人と聖剣使い一人がいれば、護衛としては充分だろ。行くんだろ? ベルヘイムに」
ガラードの言葉に頷いた航太は、真剣な顔で美羽に視線を合わせた。
「付いて来るなら、後戻りは出来ないぞ。元の世界に帰るには、ここに戻るしかない。それが、どういう意味か……」
「おーおー、航ちゃんがカッコつけ始めたよー! メッチャ普通の事をカッコつけて言ってるー」
「それが航太でしゅからね~。そして、自分に酔い始めましゅよ~。さぁこい! 航太しゃん、決めゼリフをバシッと言うでしゅよ~」
決め台詞を言う前に邪魔をされた航太は、顔を赤らめてプルプルしている。
「さっ、勘違いくんがプルプルしているうちに行っちゃおうか! ミワちん、走るよー」
絵美とガーゴを先頭に、ベルヘイムに向けて歩き始めた。
ベルヘイムへの近道である森では、マックミーナ族とフィアナ騎士が対峙している事も知らずに……




