ドワーフの郷2
「この度は、我らが部下が大変失礼いたしました」
イアリスさんの怒りが静まった後、私たちは丁重にドワーフの郷の王の間へと通された。
ドワーフの郷は蟻の巣のごとく入り組んで山の地下に広がっており、まるで迷宮のようだった。
ドワーフたちの案内で、玉座がある50メートル四方くらいはあろうという広い部屋にやってくる。
しかし、ドワーフ王のギドーは玉座には座らず、その場で床に膝をつき、平伏したのだった。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい許してください」
あまりにも情けない姿に、随分と屈辱的な言葉をぶつけられたはずのティエッタが、逆におどおどして困っている。
「まぁまぁ、頭を上げてください。家臣の方々も見てますし、誠意は伝わりましたから。ティエッタさんも、もういいですよね?」
「え、ええ……」
「慈悲深き采配、まことに感謝いたします」
「はい握手ー」
イアリスさんの音頭で手を取り合うエルフの姫とドワーフの王。
これでは争いは亡くなったのだ……。
「もぅ、これであたしが面倒を見ただけで通算53回目の和平協定ですからね? 本当に頼みますよ」
そんなに和平協定を取り持っていたのか……。
みんながイアリスさんのことを偉大な魔法使いと仰ぐ理由の一端を見た気がした。
「それで、ギドーさんに実は作っていただきたいものがあって今日は参ったのですが」
「ははー、なんなりと申しつけください」
仮にもドワーフ族の王が完全に跪いて……。
「もしかして、イアリスさんてこの地上の覇者として君臨できるんじゃ内ですか?」
私は、小さな声で隣のティエッタにいった。
「地上どころではありませんわ……天界から地の底にある地獄まで、三千世界を統治する力をあの小さな身体に秘めているとも言われますわ」
もぅスケールがでかすぎて、どんな反応をすればいいのかわからない。
あと、三千世界は仏教用語だけど、私が分かりやすいように適当に翻訳されているんで定期。
イアリスさんが見せるスクリュー型と三連ワイヤー型の耳かき棒の設計図を見るギドーさん。
長い白髭をなでながら「ううむ」とうなる。
「これが異世界の耳かき棒ですか……我々の技術力を持ってすれば、再現することは可能だと思われます……が、しかし」
ギドーさんは続きをいいづらそうに言葉を濁した。
「しかし、なんですか?」
「いえ、その……実は我が採掘場に地竜が出没してしまいまして……現在、我らがドワーフ一族の鉱山を閉鎖しているのです」
「なんと……」
「至急、地竜討伐用のゴーレム部隊を派遣したのですが……意外に強力な個体のようで、手こずっておりまして……」
「耳かき棒なんだから、わざわざ採掘までしなくてもだいじょうぶでは……」
私が突っこむと、「とんでもない」とギドーさんはものすごい剣幕になった。
「イアリスさまに献上するものとなれば、我らも職人として、一切手を抜くことはできません。我らが技術の粋をかき集めて満足いただけるものをつくらなければ……!」
「そういえば、森の民は世界樹から削りだした耳かき棒を作ってくれましたねぇ、ティエッタさん」
「え、ええ……」
なにが「そういえば」だ……。
あの腹黒妖精、さらっと要求するもののハードルを上げやがったぞ……!
世界樹さまの耳かき棒、ほとんど使ってないくせに!
「なんと、世界樹から削りだした耳かき棒ですと! ぐぬぬぬ、であれば、我々も高純度のミスリルを凝縮した最強の一本を作らねばなりますまい。秘めた魔力を解放すれば、山ひとつ吹き飛ばせますぞ!」
耳の中に入れるものになんて機能をしこもうとしてやがるんだ……。
しかし、イアリスさんもノリノリだった。
「純ミスリルの耳かき棒ですか。おもしろそうですね。そんな便利なものがあると、あたしの耳かき技術がなまってしまいそうな気もしますが、耳そうじの求道者としては放っておけません。いきましょう、地竜退治に」
「おお!」
イアリスさんの決断に、その場にいたドワーフたちが口々に感嘆の声を上げた。
次回長くなりそうなので、短くてすみません。