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異世界耳かき店 ミミノヒ亭  作者: ひしゃまる
14/15

ドワーフの郷 

ユニコーンに乗って旅をする。

まさか、異世界に来たからってこんなにも主人公らしいことをするとは思っておらず、私の胸は自然と高鳴った。


しかも、エルフのお姫さまと、15センチかわいらしい妖精(最強)付き。

ティエッタは、私の前にすわり、手綱を握る私に後ろから抱かれているような姿勢である。

時折、ユニコーンが駆ける震動で手の甲がぽよぽよとしたなにかに触れてしまうのは……なんというか、役得と考えていいんですかね……?

「あの、アユノスケさん……」

「は、はいっ」

「えっと、その……さっきから」

「す、すみません!」

「い、いえ、いいんです。不可抗力だというのは分かってますわ」


「中学生ですか」

イアリスさんが、肩をすくめる。

中学生に該当する言葉が、この世界にあるのか……。


広大な異世界の景色が、グングンと流れていく。

本来ならば風圧が凄まじくてしゃべっていられないくらいの速度が出ているのだが、イアリスさんが風の防壁を張ってくれているため、旅は快適だった。


てか、私は運転免許(オートマ限定)以上の騎乗スキルなど持っていないわけで、なにがいいたいかというと、イアリスさんの洗脳魔法しゅごい。絶対かかりたくない。


朝に『ミミノヒ亭』を出発して、昼には山道を登り、ドワーフの郷があるといわれる洞窟の入り口に到着した。


「お疲れさまですわ、アユノスケさん」

「いや、私は手綱を握ってただけですので……けど、おなかは空きましたね」

「わ、わたし、お弁当を作ってきましたわ」

ティエッタが照れながら差しだしたのは、サンドイッチだった。

「ヒト族が食べる物を、イアリス先生に教えてもらったんです」

中に入っていたのは、塩コショウの利いた子羊の肉と、辛みの効いた香草。やや固めの素朴なパンの味わいとあわさって、一口食べるとほっぺたが落ちるような気がした。


「アユノスケさん、ほっぺたに、パンのクズが」

彼女は、それをつまんで自分の口の中に運ぶ。

「あ、ありがとうございます」

「いえ」


「はぁ……目の前でイチャつかれて、ドワーフ族の門番の方々が砂を吐いてますよ」


イアリスさんが私の肩でこめかみをおさえながらいった。

え、なにそれ見たい。

ドワーフって、砂を吐くものなの?


しかし、私が顔を上げたときには、様子が違っていた。

鎧に身を包んだ、身長一メートルほどのひげもじゃの小人が五人、私たちを取り囲んでいたのだ。

みな、剣呑な目つきで、手にしたバトルアクスを今にも振りおろさん勢いだ。


「何者じゃおまえたちは」

「そこなエルフの娘は、ここがドワーフの郷と知って踏み込んだのか?」

「しかも、年中じめじめとした洞窟の暗がりで暮らす我々の眼を潰さんばかりのリア充っぷり……即刻立ち去れ」

「さもなくば、ひどい目に遭わすぞ」

「ひどい目とは、具体的にいうと……」

ポッと、五人のドワーフが同時に頬を赤らめる。


ちなみに、『リア充』という表現については、私の女神の加護の翻訳機能が私に理解しやすいように勝手にそう翻訳したということであり、このドワーフたちがそのまま『リア充』という言葉を持っているわけではない。


「リア充め、石化しろ!」


ドワーフたちの表現的には、爆発じゃなくて石化らしい。


私とティエッタが困っていると、イアリスさんが私の頭によじ登って、ずいと前に出た。

「耳かき妖精のイアリスがきたと、ドワーフ王のギドーにお伝えください」


「こやつ、ギド-さまを呼び捨てにするとは……」

「このフェアリー、そこのエルフの使い魔に違いない」

「大体、耳かき妖精ってなんじゃ?」

「大人しく帰らぬようなら、その耳をちょん切ってくれる」


すると突如、晴れていた空に暗雲が立ちこめだした。

ゴロゴロと、漆黒の雲から、雷の音が聞こえてくる。


「おい、おまえら」


一体、15センチしかないその身体のどこから、聞いたものの全身の体毛という体毛が怖気立つような声が出るというのか。

地の底から這い出てきた、幽鬼を思わせるような、声が。


「ティエッタさんは、あたしの助手です……それに手を出すということは、このあたしを敵に回すということですが、よろしいですね?」


あ、ヤバい。

この大人げない大人の耳かき妖精が、おそらく耳そうじを馬鹿にされた時以上に怒ってる。

「あの、ドワーフさんたち……謝ったほうがいいと思いますよ」

さもなくば血を見ると思った私は、目の前のドワーフたちにいった。

「わ、わたしからもお願いしますわ……みなさまの前でサンドイッチを食べたことは謝罪ますので、どうか、早く」

ティエッタも私と同じ結論に達して謝るように勧めるが、ドワーフたちはイアリスさんが発するオーラに飲まれ、それどころではなかった。


五人全員が腰を抜かしてその場に尻餅をつき、ズボンの股間のあたりに黒い染みを広げて、歯をガチガチと鳴らし涙をにじませている。


死だ。

彼らは今、逃れようのない死を目の前にしている……。

もうダメか。

私は瞼を閉じて、手でそっと十字を切ろうとした、その時――。


新たな影が、洞窟の中から現れた。


他のドワーフたちと同じ、でっぷりとした樽のような体型のそれは、勢いよく穴の中から飛び出してきて、ズザザーッと地面のうえをすべってくる。

砂煙が晴れると、そこには見事な土下座を決めたドワーフがいた。


ジャンピング土下座……ジャンピング土下座だ……!

リアルでやるのははじめて見た……!

まさか異世界でみることになろうとは……!


「どうかご容赦ください、イアリスさま……」


華麗なるジャンピング土下座を決めたドワーフは、ガタガタと震える声で告げた。

「すみません……本当に、ごめんなさい、うちの若いのが……」


すると、徐々に空を覆っていた漆黒の雲が消え、不気味に響いていた雷鳴も小さくなっていった。

「あら、ギド-さん、お久しぶりです」

触れればゾウでも殺してしまいそうなどす黒いオーラは一瞬にして消えて、イアリスさんはにっこりと笑った。

どうやらこの、新たに現れたのがドワーフ王ギドーのようだ。


「「「ははーっ!」」」


平伏する六人のドワーフ。

「世界は、ドワーフ王によって救われたのですわね……」

ティエッタが、しんみりとして呟いた。

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