左右から
ティエッタのおっぱいからイアリスさんを救出して、10分後。
「はぁ……」
ソファの背もたれの端っこで体育座りをして、物憂げなため息をつく耳かき妖精が一人。
今度はイアリスさんが、黄昏れてしまっていた。
「なんというか、ティエッタさんを助手として預かったことを後悔してきました……」
「そ、そんなっ!?」
「偉大な魔法使いが器の小さいことをいわないでください」
「偉大な魔法使いだって、コンプレックスのひとつやふたつあるんですよ-……ええ、そりゃーもー、悟りを開いて、おっぱいなんてかんけーねーという境地に至ったこともありますけどねー……こういうのって波があるんですよ。周期があるんです。今のあたしは、おっぱい小さいことを気にしちゃう周期なんですー」
いつになくふわふわした口調でとうとうと語るイアリスさんに、私とティエッタは顔を見合わせた。
「ま、魔法で大きくしたりとかはできないんですの?」
「小さくはなれるけど、大きくはなれないらしい」
「なかなか、魔法も万能というわけにはいかないんですのね……あ、でもそれでしたら私の胸を小さくすればいいんじゃありませんの? 正直、大きくても肩が凝るし、森での活動するのにも邪魔で――」
「それを小さくするなんて、とんでもない!」
私は、つい大声を張りあげてしまった。
「ご両親からもらった身体を、あたら粗末にするものではないだろう!」
隣にいたティエッタの肩を、ガシッと掴んで訴えかける。
私は太ももフェチだが、だからといっておっぱいが嫌いなわけではないのだ。
正面から、真摯に見つめたエルフの姫君は、衝撃を受けたように口をぽかんと開けていた。
やがて、薄緑色の瞳をうるうるさせて、
「わ、わかりましたわ……アユノスケさんがそこまでいってくれるなら、私、この身体をもっと大切にします」
「わかってくれればいい……」
「アユノスケ、鼻の下伸びてますよ」
うるさいな。
ティエッタは私よりも身長が低いので、こうやって正面から向かいあっていると、そのこう、ちょっと視線を下げれば、胸の谷間がデスネ……。
「はぁ……茶番を見ていると落ちこんでいるのも馬鹿らしくなってきました。アユノスケ、気晴らしに耳そうじをしますから、こっちにきなさい」
「人の耳を気晴らしにしないでください」
「あたしの気分が晴れる、アユノスケは気持ちよくなれる、WINWINというやつです」
まぁ、耳そうじをしてもらう事はやぶさかではないが。
なんだかんだで、さっきから掘る掘る詐欺が続いているので、微妙に耳の奥がかゆくなってきている。
ソファに座ると、ティエッタが、なにか言いたそうな表情でこっちを見ていた。
ううむ、このままだと確かにティエッタがのけ者みたいだな。
なにか、うまい妙策はないか……
耳そうじをしたい女の子は二人……いや、片方は300歳だから女の子というのはちょっと語弊があるか……。
ツンツン、と金色の耳かき棒で頬をつつかれる。
「アユノスケ、なにか失礼なことを考えてませんか?」
「いえ、なんでも……」
適当にお茶を濁すと、イアリスさんはなにか思いついたように手をぽんと叩いた。
「そうです、アユノスケには耳が二つあるんですから、左右から耳そうじをすればいいんじゃないですかね」
「ええ?」
「あ、危なくないですの?」
「あたしは傷つけない自信がありますよ」
イアリスさんは、薄い胸を張ってふっと笑った。
む、と顔を曇らせるティエッタ。
「わ、わかりましたわ……それでは私は、アユノスケさんの左耳を」
「では、あたしは右耳を」
「え? え? え? ちょっと、なにこの状況……」
ソファの真ん中に座っていた私は、ティエッタとイアリスさんに挟まれる形になる。
「う、動かないでくださいましね……」
世界樹さまの耳かき棒を持って、ティエッタはそっと寄りそってくる。
おあ、二の腕を挟むおっぱいのやわらかな感触。
「ふふ、アユノスケはいいご身分ですね」
イアリスさんは、茶化すように笑って、肩から金色の耳かき棒を伸ばしてくる。
ななな、なにこのハーレム展開。
私は、身動きが取れなくなってしまった。
幸せとか快楽とか、もうそうんな言葉では表現し得ぬ域に達している。
かわいい女の子(やっぱり片方は300歳だけど)に挟まれて、両側から左右同時に耳そうじ……!
二人は、ゆっくりと私の耳へと耳かき棒を射しこんでいく。
ボシボシ ゴショゴショ
危ないって、怖いって、ああん、だけど気持ちいい……!
コソコソ カリコリ、コリコリ
ほ あ あ あ あ……! さ、左右同時耳かきなんて、耳かき音声作品の仲だけに存在するファンタジーだと思っていたよぉ……!
さすが異世界。
エルフとフェアリーに、こんなコトしてもらえるなんて……ああ、もう死んでもいいかもしれない……一度死んでるけど。
「アユノスケさん、すごい顔になってますわ……ふふ、気持ちいいんですのね」
ティエッタが、とても満足そうに囁くと、その吐息が耳にかかる。
こそばいぃ……あと、エルフの女の子の息って、ちょっと甘い香りがする。ていうか、ティエッタいいにおいすゆ。
「この体勢で耳掃除をするのは初めてですが、そんなに悪くはないですね」
要領を得てきたらしく、イアリスさんの耳かき棒は徐々に大胆な動きへと変わっていった。
「私の世界だと、耳のお医者さんというのがありまして……そこでは、イスにすわってる患者さんに、こんな感じで横からやるらしいです」
「なるほど……確かにこっちの方が、耳垢を落としても奥にはいかないからいいのかもしれませんねぇ」
そういって、ビックリするほど奥に入ってくる黄金の耳かき棒。
そこに溜まっていた耳垢を、匙の先がゴリッと掘り出す。
「あぅ……」
ついつい、声が出てしまう。
すると、左のティエッタが頬をふくらませていた。
「むぅ……さっきからアユノスケさん、イアリス先生のにばっかり反応してますわ……」
「それはしょうがないですね。耳かきテクニックに関して、ティエッタさんはあたしの足元にも及びませんから」
勝ち誇るイアリスさん。
おっしゃる通り、耳かきのテクニックに関しては、ただ耳かき棒を動かすだけのティエッタとは、段違いであると認めざるを得ない。
「ぶぅ……アユノスケさん、言われた通りにしますから、どこが気持ちいいのか教えてくださいまし」
ティエッタは、泣きそうな目でそんな懇願をしてくるのだった。
「健気でかわいいですねぇ」
イアリスさんが私にだけ聞こえるように、耳元で囁く。
そんな好かれるようなことをした覚えはないんだけどなぁ……。
まぁ、いいか。
「じゃあ、その……ちょっと奥の場所で、下のところを」
「ここですの?」
「いや、もうちょっと奥で」
「ここ?」
「ああ。そこです……はふぅ」
「フフ、ようやくアユノスケさんに気持ちいい声を出させましたわ。あ、もっと奥に大きいのが……」
ティエッタはさらに身体を密着させて、慎重に耳かき棒を進めていく。
「こう見えても、エルフの郷では一番の弓の名手……狙った獲物は、絶対に逃しませんわ」
キスもできそうなほど、その真剣な表情を近づけて、私の耳から耳垢を除去していく。
もはや、二の腕をすっぽりと挟んでしまった、彼女の巨乳。
「鼻の下伸ばしすぎですよ」
反対側からは、イアリスさんがハードストロークで耳を掘り始める。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……!
「あ あ あ あ あ あ あ……!」
「激しいのがいいんですの?」
イアリスさんの真似をして、ティエッタもハードストロークで私の耳をかきはじめる。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ……!
その日、私はきっと、異世界で一番の果報者であった。
次回からドワーフ編に入ります。
2016/09/03 表記揺れなどを直しました