第11話 「一級」
勝手知ったる何とやら。
一度来た場所である。
『手配屋「霞浜」(竜刺し組)』
と大きく出ている看板を横目に、蓮左はずんずん進んでいく。
まるで迷いのない蓮左の後ろを、何だかツマらなさそうにいつきがついて行く。
手配屋「霞浜」は竜刺し組の株仲間が運営する、職業斡旋所のような機関である。
「竜刺し組」は言ってみれば漁協のような存在である。
よって、斡旋する仕事も漁業関係が主だが、規模が大きくなるにつれ、業種は問わないようになって行った。現在では土木関係や、売り子などのサービス業へも斡旋している。基本、職種は問わない。
会員は手配屋と一時的な雇用契約を結ぶことで、仕事にありつける仕組みだ。
また、人手が欲しい会員が人工を求めて訪れる場所でもある。
人手を求める者も、仕事を求める者も、どちらも手配屋に手数料を支払うことになるが、それでもこの活況を見るに、ひとまず双方不満はないようだ。
「今日もまた随分と長い行列を作ってござるな」
蓮左はまだ会員ではないので、行列には並ばない。
受付の娘の『早見え』――実際に『早見え』というスキルなのだが、蓮左はスキルの認識がまだ曖昧である――をしばらく見ていたいところだったが、まずは会員登録だと、蓮左は先を急ぐ。
「(三)新規会員登録」
三番窓口に行くと、そう書かれている。
前回、総合受付の娘に案内された通りである。
ここまで来れば、急いだところで仕方がない。
前に一人いるだけである。
とりあえず行列に並ぶ必要はないと、蓮左は椅子に座って待つ。
15歳くらいだろうか、長髪の青年が蓮左の前で会員登録をしている。
おそらくは元服前。
彼も今日初めて手配屋に登録するのだろう。
自分の番が来た時に役に立つこともあろうと、蓮左は青年の様子を伺う。
いつきはすぐに気が付いた。
遅れて蓮左も。
「「耳長族!?」」
しかし、やけに耳が長い。
いつき以上である。
霞浜村で耳長族の血をひく者は、漏れなく十二聖人の血縁者である。
『そして三人目は賭春仁。15歳。六海藩『斥候組』を創設した十二聖人の一人、『千里眼』トバルの一人息子』
平二郎との会話を思い出し、腰が浮く。
「(……くっ、いざとなったら足がすくむか)」
蓮左は深呼吸をして、座り直す。
「(気持ちがブレるのは仕方が無いにしても、行動までブレては先が思いやられるでござる。今日のところは会員登録が先)」
実に苦しい言い訳である。
単に、想定外の状況に、準備が間に合ってなかっただけであろう。
霞浜村は村とは言っても、人口や経済規模だけではなく、他の村に比して異常に面積が広い。実質、一つの藩と言っても過言ではないほどに。
とは言え、基本的には村である。
なれば、公的機関などの場では偶然出会うこともあるはずだ。
「……臆病」
「ちっ……、余計なお世話でござるよ……」
賭春仁はエルフ族の血をひく二世である。
「千里眼」トバルは純血の真エルフではなかったが、それでもエルフの血が濃いエルフ族であった。
青年の耳の長さから鑑みるに、彼がトバルの息子仁である可能性は高い。
「(同じ村にいるんだ。また会うこともござろうよ)」
蓮左は気分を変えるように、賭春仁と思しき青年から視線を外し、手元の書類に目を通す。
(1)【氏名】
(2)【住所】
(3)【年齢】
(4)【経歴】※未経験者も歓迎
(5)【希望の職種】※希望する報酬や就業環境など詳しく
「(記入すべきはざっと5箇所。特に問題はないな。特別滞在手形を貰った時と同じでござる)」
ただし、機関の親元が違う。
手形は六海藩直轄の役所発行だが、手配屋の会員証は「竜刺し組」の発行。自治が認められている霞浜村において、「竜刺し組」は自治体運営。正確には組合運営。六海藩からすれば、民間と変わらない。
しばらくすると、青年は別室に連れて行かれ、受付の娘が入れ替わった。
(4)欄と(5)欄について、詳しく話し合うのだろう。
希望職種によっては、研修なども必要になる。
表の看板に、『研修制度あり! 担当手配師が丁寧指導』とあったことを思い出す。
「(おそらくはその類でござろう)」
「お次の方どうぞ」
蓮左の番である。
受付の娘の年齢は20そこそこだろう。こざっぱりとしていて好印象である。
年齢以上に落ち着いて見えるのは、現場での経験は長いのかもしれない。
「っ!」
またである。
受付の娘より、何か魔術的な攻撃――とまでは行かないが、初めて手配屋に来た時と同じく、蓮左は彼女から魔力の放出を感知した。
「お手元の書類に記入をお願いします」
「ここで書くのでござるか?」
「はい。もし、読み書きが不自由でしたら、代筆しますが?」
見ている前で書け、ということだ。
書類など、別の場所でも書ける。
目の前で書くことに意味があるのだろう。
「いや、特に問題はないでござる」
蓮左は自分の筆入れから筆記用具を取り出すと、筆先に墨をつけ、さらさらと書き込んで行く。
(1)【氏名】堀田蓮左
(2)【住所】六海藩霞浜村郷坂
(3)【年齢】12歳
(4)【経歴】無し
(5)【希望の職種】式年船遷宮
「何か、身分を証明するような保護者や保証人の書類、手形などはございますか?」
「特別滞在手形でござる」
蓮左は懐から手形を取り出すと、受付の娘に渡す。
受付の娘はサッと目を通す。
「では、こちらへどうぞ」
先の青年と同じように、蓮左も別室へ連れて行かれた。
その様子を、いつきは椅子にちょこんと座って眺めていた。
◇
「書類に不備はないようです。堀田さんもご存知かと思いますが、現在募集しております『式年船遷宮』の案件は一般の大工見習いや下働きではございません。船神社、つまり、実際に船を作る船大工でございます」
「はい、存じております。私は幼い頃より船に格別の興味があり、今回応募させていただいた次第でござるが――もしかして、年齢制限でもあるのでござるか?」
「年齢制限はございません。しかし、求められる技術水準は高く、手続きもちょっと特殊です。それゆえ、『一級』資格の募集となっております」
「なるほど。ちなみに、依頼主が求めておられる技術水準とは、具体的にどのようなものでござろうか?」
「木材と金属の精密加工でございます」
「両方ですか?」
「両方が望ましいですが、片方でも構いません。ですが、依頼主が要求されている加工の精密さと魔力容量が――え!?」
娘の表情が固まる。
受付の娘が再度『鑑定(生物)』を試みる。
【Mp】22179/22721
「……」
「先ほどから何をされておるのでござろうか? 貴方の魔力が私の魔力にちょいちょい触れているような感じがします」
さすがに釘を刺す蓮左。
訳も分からず好き勝手やられて黙っているほどお人良しではない。
「か、『鑑定(生物)』を使用、しています。入り口にも書いてありますし、ここにも」
確かに娘が指差したカウンターの端を見ると書いてある。
『当方が必要と判断した場合、随時、スキル『看破』、『早見え』、『鑑定(生物)』等を使用することがございます。予めご了承くださいませ」
なるほど、先ほどの魔力異常は、自分を「鑑定」した結果か、と蓮左は理解した。
だが、蓮左はスキル自体を正しく理解していない。
兄雪平は子供の頃に霞浜を訪れている為、魔術の概要を理解しているが、蓮左はほんの二週間ほど前に初めて霞浜を訪れたのだ。
母にも初級の回復魔術をザッと教わっただけ。
後は全て独学だ。
蓮左は魔法陣を使わないほとんどの魔術を独学で使えるようになったのだ。
まさに天才。
しかし、天才がゆえに、周囲は魔術の概要すら蓮左が知らないことに気付かなかった。
蓮左自身も疑問に思わなかったのでスルーしていた。
再現できたからである。
魔術とスキルの違いすら知らないにも関わらず、ほとんどの魔術を再現出来た。
そもそも、蓮左の中では、「魔術大学」の存在を知るまで、魔術とは独自に工夫するもの、という認識だったのだ。
「それで、何を『鑑定』したのでござるか?」
平二郎には魔術とスキルは別物だと聞いていたが、現状、違いが分からない。ひとまずは『鑑定(生物)』という魔術が存在する、蓮左はそう判断した。
生物というからには、蓮左自身を鑑定したのだろう。
『鑑定(生物)』を使用することで、何が知れるのか。
「(くふふふ。毎日毎日、新しい発見ばかりでござるな。それが嬉しくもあり、無知であることが哀しくもある。何しろ、ほんの二週間ほど前まで、すぐにでも大陸に渡れるのではと、恥ずかしげもなく自惚れておったのだからな)」
「堀田蓮左さんの魔力容量でございます。ちょっとあり得ない数値なので、別の者に確認させても宜しいですか? それと、年齢は12歳で間違いないですよね?」
12歳かどうかを確認したのは蓮左の体格などから、「成長期前」だと判断したからだ。
MpはHpと同じく、成長期に大きく増加する。
それを待たずして、魔力容量22000超えという異常値に、受付の娘も思わず確認してしまったのだ。『鑑定(生物)』で、すでに年齢に偽りがないことは確認済みにも関わらず。
「構いませんよ。それと、拙者は間違いなく12歳でござる。(何と! 他人の魔力容量が分かるのか?)」
相手の魔力容量によって、対象の使う魔術がある程度予想が付くではないか、と蓮左は動揺を隠せない。
実際には、『鑑定(生物)』発動には条件があり、10mも距離が離れていては、まず発動しない。スキルレベルにもよるが、通常は3~4m、スキルレベルが高くても5m前後だろう。
だが、蓮左の『魔力紐』と22000を超える膨大な魔力容量があればどうだろうか。
蓮左の魔力容量なら、通常、距離が離れすぎていて――つまり、霧散し無駄になる魔力が多すぎて――使用出来ない、あるいは使用しない状況でも、発動出来るのではないか。
先ほど耳長族の青年と一緒に別室に行っていた受付の娘が、丁度、戻ってきた。
「マッちゃん、ちょっとごめん。こちらの堀田蓮左さんの魔力容量の『鑑定』お願い出来る?」
「良いわよ、どうした――ッんの!?」
言葉が詰まる。
「……やっぱり?」
「……22187/22721……ね」
「魔力容量も異常だけど、回復速度も異常――あ、異常だなんて、失礼しました。あまりに驚いたもので、つい……」
「別に気にしていませんよ。それよりも、会員登録の方を急いで下さらぬか? 出来れば、今日中に現場の棟梁に挨拶を済ませておきたいと思っております」
「あ、いえ、その……、実はこの漁座神社『式年船遷宮』の作業員募集ですが、私どもが用意した、簡単な試験を受けていただきたいのです」
「私の年齢が問題なのでしょうか?」
「いえ、断じてそのようなことはございません。こちらの依頼は『一級指定』であるばかりでなく、高度の技術を必要とします。実は、魔力容量も足きりがあるのです。ちなみに、魔力容量1500以下は足きりとなります」
およそ15倍。
全くもって、問題なし。
「つまり、魔力容量は問題ないと。あとは技術的なことでござろうか?」
「そうなります。具体的には『造形魔術』になります。堀田蓮左さんの魔術大学での専攻は?」
「近々、通う予定はありますが、まだ魔術大学がどんな場所かも知りませぬ」
「……なる、ほど」
「私、『天剛組』から預かってる判定資材持ってくる」
「あ、お願い」
マッちゃんと呼ばれた樋口マツエが別室に走る。
「天剛組」は「式年船遷宮」を請け負っている集団のこと。
もちろん、創設者は信仰の対象でもあるイェツ・エバレット。
◇
「これが『造形魔術』の試験に使う道具でござるか?」
一辺10cmの木片と金属の立方体である。
金属の材質は不明だが、おそらくは鉄。
それと、銅製だろうか、三色熊が顎魚を口に銜えている像。
「はい。金属も木材も、砂や粘土と違って独特のコツが必要になります。それでは、作っていただくのは、こちらになります」
木材と金属で、それぞれモデルの像をコピーしろ、ということ。
「(出来る。この程度の造形、造作もない。この程度の質の造形で合格なのでござるか?)」
「慣れていないと難しいかと思われます。確かに金属は固いし、木材は木目があります。金属加工は魔力を多く使いますし、木材加工は木目を無視すれば、このような小さな像だと割けて――」
ぐにゃり
受付が話し終わる前に、寸分違わぬ像が出来ていた。
それも二体。
蓮左が素材を手に取った瞬間であった。
右手に木材、左手に金属。
像が完成したのはほぼ同時。
「い、まのは何、で、ど、どうしたのしょうか?」
「『造形魔術』でござるよ」
「しかし、今、一瞬で……?」
担当の石原ヨネだけではなく、樋口マツエも度肝を抜かれた、といった様子。
「目の前にお手本があるのだから、出来て当然でござるよ。本来、造形魔術とは、見た物を脳内に記憶し、具現化することでござろう」
一方、広く知られている「造形魔術」が何かも知らずに、「造形魔術」の何たるかを語る12歳の蓮左。
「いや、っ、え……?」
断じて違う。
違うが、目の前で展開された魔術のレベルが高すぎて、受付担当の石原ヨネは反論出来ない。
ヨネの隣で見ていた樋口マツエも同様である。
「お、驚きました、本当に。申し訳ありませんが、もう一度、見せていただけますでしょうか?」
「構いませんよ、何度でも」
もはや、蓮左は素材を手に取ることすらしない。
目の前で、素材が元の直方体に戻ったかと思うと、すぐさま三色熊の像にグネグネと変形する。
木材の場合、木目がある為、細かい造形は難しいのだが、特に苦にした様子もない。
二人の受付担当は口をあんぐりと開けたまま塞がらない。
少なくとも、二人が知っている造形魔術とは似て非なるものであった。
造形魔術とは、もっと地味で、職人的なものであったはず。
ゆっくりと、素材をじわじわと変形させていくものだったはずだ。
このように、派手で見栄えのするような魔術ではない! と二人は内心で叫んでいた。
「とっ、とにかく当方発行の推薦状を書かせていただきます!」
「推薦状を天剛組に持っていけば、まず間違いないかと」
樋口マツエが念を押す。
「採用でなないのですか?」
「堀田様を勝手に値踏みした上に、説明足らずで申し訳ありませんでした。天剛組が課した、先の二つの条件を満たした希望者の推薦状を書くまでが当方の領分となります」
「つまり、採用されるかどうかは、まだ分からないと」
「左様でございます。しかしながら、堀田様ならまず問題ないかと思われます」
「では、その推薦状とやらをお願いいたします」
「かしこまりました」
それまでも手際の良い受付であったが、蓮左の造形魔術を見てからの石原ヨネの行動は、さらに早かった。
◇
「……しかし、驚いたわね」
新規の登録者が一段落した後、ボソリと石原ヨネが呟いた。
「金属が粘土みたいに動きだした時は、心臓が飛び出るかと思ったわ」
樋口マツエも余程驚いたのだろう。
興奮を隠せない。
「あれ、どういう魔術なのかしら。金属を熱で溶かしたわけじゃないはずよ。だって、机は全く焦げてないもの」
「さぁ。どこかの旧家の『秘伝仙術』なんじゃない?」
仙術は約3000年前に神和に漂着したエルフ族が伝えたとされる魔術のこと。
体系はすでに失伝しており、一般には魔道具の設計図としてのみ、個々に伝わっている。しかし、中には「秘伝」として、代々お家に伝わっているものもある。
樋口マツエが示したのはその可能性。
「あり得るわね。私の記憶が定かなら、網元にも大学にも、堀田姓は無かったはず。魔力容量も異常だし、回復速度も異常。ほんの数分で10近く回復してたわよ」
「ほんと、何なのかしら、あの子。人は見かけによらないわね。さっき私が担当した子とは大違い。驚かないでね、私が担当した子、何とトバル様の息子よ」
「十二聖人の!? それ、ほんと?」
「ほんともホント。名前は賭春仁。15歳。でも、蓮左君と違って、見かけ倒しね」
「どう見かけ倒しだったの?」
「魔力容量は1000くらい。スキル数は9。種族特性スキルもギフトもなし」
魔力容量1000は一般人よりは遥かに多いが、魔術大学に行けばゴロゴロいるレベルである。
それにしても、姦しい二人である。
会員の新規登録は、他の部署に比べて暇な時間があるので、受付嬢たちの間で持ち回りになっている。
およそ一週間(5日)に一度周ってくる、いわばサービスデーである。休日の前日にシフトされることが多い。
「正しくは『見かけ倒し』じゃなくて、『名前負け』でしょ。あ、蓮左君のスキル確認するの忘れた! それと、『天剛組』で採用になった後のことの説明も!」
報酬は手配屋から支払われるので、当然、受け取りや報酬体系の説明も必要である。
推薦状を渡した後、一仕事終えたと、すっぽり抜けてしまっていた。
石原ヨネは頭を抱えて、自己嫌悪に陥る。
いきなり新規登録の窓口で「一級」の募集を処理することなど、通常はあり得ないのでうっかりしていた。
「あんた、馬鹿ねぇ。スキル数は18よ。内容は驚いてて確認している暇がなかったけどさ。私も馬鹿ね。あははは」
「……あの歳で魔力容量22000以上。スキル数18か……。これから先、どんだけ稼ぐんでしょうね」
「さぁ。ほら、新規のお客様よ。私はちょっと一休憩してくる。あまりにも現実離れした魔術見ちゃったから、少し疲れたみたい」
「私も……」
とりあえず、住所は判明している。
明日は休日である。
明日早くに【住所】にある郷坂を訪ねなくてはならない。
もちろん、上司には黙って行くつもりである。
◇◆◆◆◇
「(かくして、『ステータス偽装』は無事発動しましたとさ。『ステータス偽装』なだけに……。ぷふっ)」
賭春仁。
15歳。
生ける最後の十二聖人、「千里眼」トバルの正真正銘一人息子である。
「――にしても、あれが堀田蓮左か。小岩原家もとんでもない化物を連れて来たもんだ。魔力容量も異常だけど、『完全記憶』って何よ? 聞いたことねーっつーの。『複写』とか、何かスキル偏りすぎだろ? くふふふ」
蓮左も含め、その場にいた全員が気付かなかったが、二人目の受付担当、樋口マツエが『鑑定(生物)』を発動した時、同時に賭春仁も発動していた。
意識して、樋口マツエのタイミングに合わせたのだ。
その時、蓮左は全く同時に二人に鑑定されたことになる。
結果、蓮左は全く気付かなかった。
「(ま、面白そうだから、俺も『船遷宮』に参加してみるか。俺は蓮左君みたいな変態魔術は使えねーから、親父の威光を借りて、何とかもぐり込むべ。かははは)」
ぱしんっ
「キャッ」
前を歩いていた年の頃なら20前後、気の強そうな娘の尻を、意味もなくはたく賭春仁。
別にスケベ心を催したわけでもない。
本当に意味がない。
この男、一体、何を考えているのか。
「お、すまねぇな、姉ちゃん。腕が勝手に動いちまった」
「竜に食われて死んじまいな!」
「おー怖っ! けははは」
どうやら、トバルの軽い性格だけは確実に受け継いだらしい――否、ここまで軽くはなかったか。