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第6話 旅立ち

お待たせしました。

 ティアが死者蘇生で復活し、森の最奥にて休息をとっている。その間、ティアは辺りの惨状を見て絶句しているけれど、特何かを言ってくることはない。死者蘇生のことも聞かれるまでは黙っておくか⋯⋯、言ったほうがいいのだろうが、その時、どんな反応をされるのか。怖くて体が震える。

 それはそうと、何故マナリスがこの段階で現れた?それにLv.90なんてMASTARでなければ出てくることはない。それに加えて、そのLv.ともなればゲームの時でも終わりの頃にしか出てこない。それに殆どがエリアボスである。

 だけど、これには何かが引っかかる。マナリスがエリアボスであり、尚且つこの始まりの場所。頭に引っかかっている何かがある。それなのに、思い出せない。どうして、思い出せない?


「フォルン様⋯⋯これ、見たことのない生き物です」


 ティアが指さしたそれはマナリスの死骸。ゲーム中だと溶解して綺麗さっぱり跡形もなく消え去るという仕様なはずなのだけど、ここでは違うらしい。


「それは⋯⋯」


 言っていいのだろうか?どうして知ってるいるのか、聞かれた場合は何て答えればいいのだろう。だが、ティアはこれから先も一緒に冒険する仲間だ。あまり隠し事をしたくはない。ならば、早い段階で言ってしまったほうがいいかもしれない。死者蘇生のことは言えないが⋯⋯。


「それはマナリスと言って数年後に復活するはずの生き物⋯⋯なんだけど、何故かここにいたんだよね」


「マナリス⋯⋯ですか?それって確か太古の昔の生物だって聞いてますけど」


 マナリスを知っているのか。それも太古の昔の生物⋯⋯となると、ゲームの設定がここには影響されている可能性が高い。

 ゲームでは、マナリスは太古の昔の生物ではなく、似たような言葉だけど【遥か昔の神の使徒】ということになっている。神の使徒ではあるが、人類の味方というわけではない。それは先の戦いで十分に理解している。


「そっか。とにかく、それが復活する可能性もあることも覚えておいて」


「あ、はい。ではこのマナリスは封印されていたマナリスでしょうか?」


「封印⋯⋯?」


 どこかで、聞いたことがある。


「はい。知りませんか?太古の昔に人類が初めて倒すことに成功した——倒すとは言っても封印なんですけどね——マナリスです。きっと、フォルン様の目覚めに反応でもしたんじゃないですか?」


 ああ!

 そうか、そうだったのか。思い出した。

 このマナリスは裏Chaptar(・・・・・・)のエリアボスだ。通りで記憶に若干残っているわけだ。本編シナリオをクリアすると、裏Chaptarが解放されて始まりの地であるここに古代遺跡が発生する。その最奥で鎮座しているのがこのマナリスというわけだ。

 ただ、そのエピソードはオマケ感満載でLv.上げ用としてあるようなものだったし、ネットの攻略ページでもそういう風に書かれていた。だが⋯⋯今ここに古代遺跡はない。何故エリアボスだけが発生し、その取り巻きは森の中にいた初期の魔物なのか。疑問は尽きないけれど、今考えていても解決しないことはわかっている。

 これもまた後回しにして、しなければいけないことをする。


「ティア、ここら辺の死体、焼いちゃうから少し離れてて」


「わかりました」


 私は魔法装備を身に纏い、杖を掲げて【バーニング】を発動する。その魔法スキルは辺り一帯に炎を出現させ、巨大な火柱を出現させた。昨日の夜に安全策として設置した(トラップ)の【火柱】の即時発動型⋯⋯とでも思えばいいだろう。辺り一帯が焦土になるが、木々に燃え移ることはなかった。不思議ではあるけれど、それもまた要検証だろう。


「凄い⋯⋯」


 ティアは魔法に見惚れ、死体を燃やし風に揺られる炎を目に焼き付けている。私も同様に、だがそれは魔法の効果を確認するために目に焼き付ける。異世界に行って魔法を使うのはイメージだとか多いけれど、ここは元ゲームの世界。イメージなんてしなくても発動するし、しても発動しない。ただ脳内に出現しているスキルを選択するだけだ。


「予定がだいぶん遅れたけど、そろそろ森を出ようか」


「は、はい!」


 返事をしたティアの言葉に緊張の色が見られる。森を出るのは初めてなのだろう。私も、こちらに来てからは森の中にしかいなかったので楽しみだ。この世界の街はどんな風になっているのかも気になる。技術レベルなども。ただ、そこらへんはゲームに酷似している可能性が高いので、あまり高度な文明は期待できない。

 ティアのLv.も16だし、群れに囲まれなければここでも単独で抜けられるはずだ。そして、この森を出るのに必要なLv.は本来10もいらない6である。その場合、NPCの仲間が必要不可欠だ。

 私たちは森の最奥を出るために歩き続ける。時折出てくる魔物はティアに任せ、外に近づくに連れて敵のLv.も上がっていく。外に出る頃にはまたLv.が上がるかも、と思ったがどうやら上がらなかったみたいだ。それほど楽に上がるものではないということだろう。


「やっと外⋯⋯」


「わぁ⋯⋯!」


 体内時計で4時間ほどかけて、ようやく森の外に来た。周囲一帯砂漠であり、こんな光景はゲームでも見たことが無い。それもそのはずで、ゲームではエリア間移動は浮遊艦艇に乗らないと移動できないので徒歩は初めてなのだ。

 ティアが感嘆の声をあげ、私もそれに続く。疲れはしたが、砂漠の向こうにはうっすらと街が見えていることからあまり離れてはいないのだろう。とりあえず、今見えている街を目標として歩けばいい。


「ティア、行くよ」


 手を差し伸べてエスコートされるダンスの御姫様のように、ティアは手を重ねた。その手を引いて、私は歩き始めた。


 歩き始めて数十分。

 おかしい。街が一向に近づく気配がない。水や食料はもらってきたので10日ほどは持つだろう。だけど、それまでの野宿が大変だ。なにせ、砂漠と言えば昼間はとても暑く、深夜はとても寒いというのが常識だ。そんなところで寝起きすることは出来ない。

 この惑星(ほし)を包み込んでいる(リング)の間からは太陽が覗いている。その太陽も傾き始め、徐々にではあるが景色が赤く色づいて来ている。太陽が沈むのも時間の問題だ。


「フォルン様、あれは⋯⋯」


 ティアが何かに気付き、私に合図する。その方向を見てみると、馬車⋯⋯だと思われるものが4匹の魔物か獣に襲われている様子が見えた。馬車の護衛らしき人達はその敵相手に善戦している。あの調子なら全て倒すことができるだろう。


「襲われているけど、きちんと倒せるよ」


「そうですか、よかった⋯⋯」


 ティアは心配性だなぁ。それに、全く知らない人の心配を出来るだけの余裕が今あるというのは心強い。同時にもう少し緊張感を持ってほしいとも思う。ここは見晴らしがいいから、敵が現れたらすぐにわかるけれど森などであればひとたまりもない。とは言え、森の中では周囲を警戒していたので問題ないだろう。

 3人の護衛らしき人たちはこちらに気付いたようで、手を振っている。このまま近寄ってもいいのか、騙されたりはしないのか気になるところだが、私の実力(Lv.)だと問題ないだろう。そう考え、ティアと共に近づいて行く。


「こんにちは」


 愛想の良い笑みで挨拶をされ、こちらも愛想笑いを浮かべて挨拶を交わす。少し話してみると、その3人はやはりこの馬車に護衛として雇われているらしく、主人は馬車の中から現れた。護衛のリーダーであるキンガリーと言う20台前半ほどの男性が主人に声をかけると、主人は一つ頷いた。


「初めまして。私はフェクトリーと言う旅人だ。世界を見て回っているのだが、いかんせん私には力がなくてな。こうして護衛を雇っているというわけだよ」


 フェクトリーは30台に届いていそうな外見をしている。その瞳の眼光は鋭く、けれど体は自己紹介の通りあまり鍛えてはいなさそうだ。ただ、この世界においてLv.が全てなため完全に信用することはできない。魔法使いや弓使いである可能性もあるのだから。

 敵である獣や魔物、マナリスのステータスは覗き見ることが可能だけどNPCのステータスが表示されないのと同じで、この人たちのステータスを見ることは出来ない。


「ところで、君たちはどうしてここに?」


 フェクトリーに聞かれ、どう答えようか迷う。だが私が答えるより先にティアが返答した。


「私たちはあの森から来ました。でも、ここがどこかわからなくて⋯⋯あの街に行こうとしていたのに全然近づかないのです」


「ほう、あの森から、というと今は無きネヴィル帝国の城跡か。反対側に出ればネヴィル帝国の市街があったはずだが⋯⋯?」


 そうなのか⋯⋯。マップはあっても近場しか表示されないし、ゲームでの全体マップはChaptarごとに表示はされていたけれど国名や森なんてのも表示されていなかった。今思えばとても大雑把なマップだったと言える。


「えぇっと、少し、道に迷いまして」


「ふぅむ。そちらはエルフ⋯⋯いや、ハーフエルフか。それならば森でも迷うことは⋯⋯あるのか?まぁエルフは迷わないがハーフエルフは迷うというのも、あるんだろうな。それで、君はエルフでもハーフエルフでもないね。人間か?」


「はい。あの森のエルフの里でこの子と出会い、一緒に旅をすることにしたんですよ」


「ほう、そうか。その魔法の装備も中々の物だろう。よければ護衛をしてくれないか?」


 この人が誘ってくれるのは道もわかって街へも行けるから、とても嬉しい。だけどいいのだろうか?既に護衛がいるのにほかの人を雇うなんてことをすれば、先に雇われていた人たちの反感を買うことになるのではないだろうか?


「気にしなくていい。俺たちは報酬が減らなきゃ仲間が増えるのは大歓迎だ。リスクも減るからな」


 なるほど、確かにその通りだ。人数が増えれば対処の方法が変わってくるし、戦闘も安定するだろう。それに報酬が変わらないというのであれば、うん、この3人の反応も頷ける。

 それにしても運がよかった。弓装備で出会っていれば弓で戦わないといけないところだった。まだ手加減の効く魔法装備の方がマシだろう。何故魔法装備になっているのかと言えば、おそらく最後の戦闘で魔法装備を使っていたからだと思う。そして、森を出たら自動的に服の上に現れ、固定されてしまったのだ。

 これはおそらく、Chaptar1(チュートリアル)が終わったということなのだろう。後でこっそり弓装備に換装できるか試しておかないといけない。もし出来ないのであれば、この世界がMASTARである以上危険が更に増えてしまう。


「報酬は減らさんし、お嬢さんたち二人に渡す報酬は彼らよりも少なめだ。一緒に来てくれないか?」


「わかりました。いいですよ」


「おお!では頼みます」


「はい。お任せください」


 そうしてやり取りを終えると、ティアが装備の裾をちょんちょんと引っ張る。どうしたのだろうか?


「いいの?フォルン様。この人たち、信用できる?」


 心配そうな目を向けてくるティアに大丈夫だよ、と頭を撫でると嬉しそうに頷いた。

 おそらく大丈夫だ。敵意や害意は感じられないし、マップ上でも緑の点であることは確認済み。それに護衛として街まで連れて行ってくれるのだから、お金ももらえて迷子にならず街に着くということを踏まえれば一石二鳥だ。

 あの3人よりも報酬が少ないことは納得できる。最初から護衛をしてきた者と途中から入ってきた護衛の者が同じ金額というのは不満が溜まる。途中から入る護衛の頭が悪かったり、傲慢な人であれば納得できないかもしれないけれど、私はそのあたり弁えているつもりである。


「よし、それなら俺たちも文句は言わねぇ。これからよろしくな」


「いえ、こちらこそよろしくお願いします。⋯⋯ティアも」


「あ、はい!よろしくお願いします!」


 二人して皆に頭を下げ、ようやく出発した。今彼らが向かっているところはゲームで御馴染みの【ジェボリック】というChaptar2に当たる山の麓にある街だ。この世界でもその街がChaptar2になる可能性は高いので、油断はできない。

 それに⋯⋯、


「戦力をどう集めるか⋯⋯」


 戦争の戦力を、どうやって集めるかが問題だ。更にその後に続くマナリスとの戦争についても考えなければならない。まだ旅は始まったばかりだからと言ってゆったりしている時間はないのだ。早いところ協力者を取り付けなければならない。

 そのためには、街に行った後、ビヒティス帝国から他国へ出なければ、戦争どころではないのだ。

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