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第3話 Chaptar1

 昼食を終えると、ティアのお母さんに呼び出された。ティアのお母さんの後をついていくと、工房のようなところに着き、そこには一人の男性がいて、見覚えがある男性なためその人がティアのお父さんなのだとわかった。


「あんた、連れてきたよ」


「あなた様が⋯⋯確かに王族のようですね。こちらを」


 何故か感極まった様子で一つの指輪を差し出してきたティアのお父さん。その様子にわけがわからなかったので、素直にお礼だけ言って受け取った。その指輪は仄かに光を宿していて、とても綺麗だ。

 指輪を左手の中指に嵌めると、ふわりと髪の毛が浮いた感覚がした。前髪を見ると、燃えるような赤ではなく森を感じさせる、村の人たちと同じ緑になっている。

 村の人たちの髪と瞳は緑色。けれどティアのお父さんはまた別の金髪だ。瞳は蒼く澄み切っている海のようだ。そして、耳は普通のもの、僕と同じ。ここの村はエルフの里のようなものだろう。緑の髪に瞳と尖った耳と言えば、それ以外に考えられない。そして、ティアはお父さん(人間)お母さん(エルフ)混血(ハーフ)


「ありがとうございます。これ、凄いですね」


「いやはや、王女殿下に褒められるなんてねぇ⋯⋯」


「夫は王都で有名な魔道具職人だったのですよ。⋯⋯その王都も、今ではないんですけどね」


 はは、と遠い目をするティアのお母さんはまだ名乗っていないことに気付き、お父さんと一緒に名乗ってくれた。


「私はティーゼで、夫はアビルタといいます」


「ティーゼさんにアビルタさんですね。僕はフォルンです。よろしくお願いします」


 ティーゼとアビルタで、頭文字からティアなんて安直だけど好感は持てる。ハーフエルフと言えば里から追い出されたり奴隷商に売り払われたり、人として扱われなかったりするのが異世界での常識のようなものだと思っていたから。

 その心配は杞憂だったようでうれしく思う。ティアは今も元気に食器の後片付けをしていた。


「それで、王女殿下はどうしてこちらに?まだ情勢は不安定ですので、出てくるのは危ないかと思いますが⋯⋯」


 アビルタさんにそう言われ、どう言ったものか悩むところだ。ティアにはある程度の事情を話してしまったけれど、この人たちは気付いたから森の中にいたなんて信じるだろうか?でも、それしか思い浮かばない。一か八か、吉が出るか凶が出るか。


「実は、僕は気が付いたら森の中にいたんです。そこでティアと出会って、ここまで連れてきてもらえました」


 その言葉に驚愕の表情を浮かべる二人。二人は顔を見合わせた後、僕に真剣な表情で真剣な目で語り掛ける。


「それはつまり、繭から出てきた。影で過ごす時は終わった。ということになります」


「繭⋯⋯?影⋯⋯?」


「はい。あなた様はもしや、第2王女殿下ではありませんか?」


「その、通りです」


「やはりそうですか⋯⋯、では改めて名乗ります。私はネヴィル帝国皇帝付き秘書、ティーゼ。こちらは皇帝直属魔導隊隊長アビルタ。第2王女として生まれた子どもは代々皇帝によって繭に封印されてきました。ネヴィル帝国に何が起きてもいいように、と。あなた様はネヴィル帝国を奪還するための旗頭となるのです」


 それを聞いた瞬間、僕はハッとした。

 繭、森、滅んだ帝国。

 どうして今まで気が付かなかったのだ。

 こんなにもヒントがたくさんあったというのに。

 僕の頭には一つのゲームが浮かんでいた。



 マナ・ファンタジー、通称MF。

 失われた技術、滅ぼされた帝国。そして目覚めるかつての帝国の王女(王子)。繭から目覚めた王女(王子)は帝国を取り戻すべく森の中で出会った魔法の扱いが得意な一族を仲間に引き入れ、各地を周り、仲間を着々と増やしていった。そして王女(王子)は王国に戦争を挑む。だが、その戦いは世界に影響を与え、太古の人類の敵であったマナリスが出現し始めた。王女(王子)と仲間たちは戦争をやめ、新たな組織『浮遊艦艇・レジスタンス』を設立し、人類の存亡をかけたマナリスとの戦闘が始まる。



 これは、マナ・ファンタジーの世界だ。

 それも、戦争が始まる前の世界から始まる、異世界転生⋯⋯いや、異世界転移か?そんなこと、今はどうでもいい。ゲームではレジスタンスを設立したところから始まっていたはずだ。

 どうしてこの世界に来たのかはわからない。けれど、今の僕はこの世界の一員。視界に映る彼らは自然の動作をしているし、鼻を擽る木々の匂いは心地がいい。全身を撫でるようにすくい上げる微風に揺られた木々が織りなすさざめき(ハーモニー)。そのどれもが、僕がこの世界に存在している証明を成している。

 なら、僕のやるべきことは一つ。

 ゲームと同じように戦争を巻き起こしマナリスとの戦争をするわけには行かない。この世界の難易度がNORMAL(ノーマル)であるなら正直一人でも問題ないだろう。それでも、ボス相手となると死ぬ気で戦わないといけない。

 そして次の難易度のEXPERT(エキスパート)なら、仲間が必要になる。ソロプレイでも仲間を二人連れて行くことが出来ていた。良かったけど、それでも必要だったのだ。それに、この難易度であればボス戦で仲間は確実に死ぬ。

 最後に、最高難易度のMASTER(マスター)の場合、雑魚敵にすら一人だと命の危険が伴う。ボス?そんなもの何度も死に戻りしなければ、弓では勝てない。攻略動画を見たことがあるけれど、弓は最弱なのだ。前衛職が一撃で10万を叩きだしたり、攻撃を耐えたりするけれど、弓の場合は一撃で2万強が限界、攻撃は掠れば吹き飛びコンボで死んでしまう。つまり躱すしかない。だけど自動回避はボス戦では機能しない。全てがプレイヤー技術に依存している。

 かといって、僕の技術がダメなわけではない。攻撃を当てながら躱すというのは高等テクニックだ。


 つまり、何が言いたいかというと、ここがMASTERであった場合、死に戻りが出来るかわからない以上、試すことも出来ない現状ではどうしようもないのだ。

 それに仲間を集めるにしても、EXPERTの時点で死が確定している。死ぬのがわかっているのに連れて行くなんて到底出来ない。

 僕に出来るのは、ただただNORMALであることを祈るだけだった。


 それでも、僕は彼女に返事をしなければならない。

 この場合、いいえの選択肢はない。

 彼女の瞳には帝国奪還のための強い意志が灯っている。これをむざむざなくしてしまうのか。僕に期待の眼差しを向けてくる二人を無下にするのか。

 僕に、そんなことは出来ない。例え二人が死ぬのだとわかっていても、その思いに応えなければならない。それが王女しての、僕の使命だから。


「わかりました」


 気付けば返事をしていた。

 ここは始まりの地。つまり僕が遭遇した敵は最初期の魔物。ただの雑魚に過ぎない。それはMASTERでも同じだ。レベルカンストの僕からしてみれば、通常攻撃を一発あてるだけで倒すことが可能な敵。それを倒しただけでいい気になっていたなんて、どうかしている。

 その時、目の前に見慣れたものが出てきた。ただし、それは画面内に映し出されていたものだったし、内容も大きく変わっている。



【Chaptar1】

 惑星を覆う古代人が作り出した(リング)

 人々はその温もりの下、大気に満ちる魔力(マナ)の恩恵を受け、豊かな生活を送っている。

 繭から目覚めたフォルン・ル・ドリエ・ネヴィルは数年前に滅ぼされた帝国を取り戻すべく、自らが旗頭となり人々を導く。

 今は亡き皇帝の意思を継ぐ者として、彼女は世界に騒乱を巻き起こす旅に出る。

 その仲間、ティアとともに。



 ゲームと内容が全く違う。

 それに仲間にティアだって?絶対に連れて行かない。けれど連れて行かないなんて選択肢はない。ここに書かれているのはゲームではあらすじのようなものだ。つまり、既に決定事項となっていて、僕が声をかけなくても放って行ってもついてくる。

 そうなっているのだ。

 クソッ!!

 なんだよこれ!

 やっぱり、僕にはこんなの!

 でも、実際にこの世界をどうにかできるのは僕くらいしかいない。

 他にもプレイヤーがいると思うか?

 絶対にいない。

 言い切れる。

 だって、この世界は、あのゲームはオンラインゲームでもなんでもない、ただワイヤレス通信で協力プレイが出来るというだけの個人用携帯ゲームなのだから。


「では、これを」


「これは?」


「それは刻印です。皇帝より、私が今日まで預かっていたもの。あなた様には多くの協力者が現れるはずです。その時、なりすましではなく本当の第2王女殿下だということを周囲に示すために必要なもの。どうか、持っていってください」


 そう、か。これがあれば仲間をたくさん集められると、そういうことか。戦争に勝つためには必要なもの。だけど最終的にマナリスを相手にするのであれば、むざむざ犠牲者を増やすためのものにしかならない。

 なら、戦争を回避してマナリスに備えればいい。

 そう思ったのも束の間。僕はあれを見てしまっている。絶対に戦争は起こるのだ。僕が何もしなくても。それが【Chaptar】の効果。ゲーム内でも回避しようとしたことがあったけれど、回避できるわけがなかった。

 だけど、結末が既に見えているのであれば、対処のしようはある。彼らを、彼女らをパワーレベリングすればいいのだ。レベルという概念があるのかわからない。それでも戦闘技術を叩きこむべきだ。なるべく被害を出さないようにするためにも。

 まずはティアの勧誘からかな⋯⋯あちらから言いださせるくらいならこちらから誘ったほうがマシだ。それは自己満足でしかない。


「ありがとうございます。大切にします」


 そう言って二人の場から離れ、急いでティアのところに行く。すると、彼女は部屋でリュックサックに何かを詰めているところだった。どうやら、本当に【Chaptar】の効果は絶大みたいだ。


「ティア、本当はこんなこと頼みたくはないんだけど⋯⋯僕と一緒に、来てくれる?」


 ティアの後ろから声をかけると振り向いた。続いた言葉に彼女はだんだんと喜色の笑みを浮かべて行き、そのことが複雑な思いになって胸に突き刺さる。


「はい!もちろんです。フォルン様、私、とても嬉しいです」


 健気だな⋯⋯。

 無性に頭を撫でてやりたくなったので思うがままに行動する。


「⋯⋯フォルン様?どうして、泣いているのですか?」


 頭を撫でているとそう言われ、目から涙が流れていることに気付いて慌ててふき取る。けれどその涙は止まらない。どうし止まらない?そんなのはわかっている。ティアを、彼女が死ぬ未来を簡単に想像できたからだ。


「いや、なんでもないよ。ごめんね、ティア。本当にごめん」


「どうして謝るのですか?私は自分の意思でフォルン様についていくのです。ねえ、フォルン様。私は幸せ者です。こうして私たちの主である王族の方と一緒に旅をして、そして国を取り戻すのですから。ね?」


 この子は強いなぁ⋯⋯。

 ティアの瞳に強い意思が宿っていることを感じ取り、それ以上何も言う言葉は見つからなかった。下手に言ってしまうとその決意に水をさしてしまうことになる。

 僕は、せめて僕は、ティアを守り抜かなければ。

 でも、ただ守るだけじゃ足りない。

 ティア、これからは君を鍛える。僕のスキルを教えて、鍛えて、僕よりも強い子にしてあげる。だから絶対に死なないで。

 彼女に対して強く当たることになるだろう。それも、全ては彼女のため。彼女が身を守るための力を手に入れるため。そのためなら、僕は鬼にでもなってやる。これから増えて行く仲間だって同じだ。絶対に殺させやしない。


「ありがとう、ティア。それじゃあ、ティーゼさんとアビルタさんに挨拶に行こうか」


 行動するなら早い方がいい。時間は限られているのだ。

 ゲームでは確か、主人公が繭から目覚めてから『浮遊艦艇・レジスタンス』を結成するまでの期間は僅か4年。たった4年しかない。戦争はそれよりも早く始まってしまう。


「ティーゼさん、アビルタさん」


「なんでしょう⋯⋯王女殿下、覚悟をお決めになられたのですね」


「はい。僕は、いえ、私は、王国から帝国を早急に取り戻し、マナリスとの戦争に備えなければならない。そのため、ティアを連れて行かせていただきます」


「ええ。どうぞ。今の王女殿下はまるで皇帝陛下の写し鏡のようですわ」


 マナリスという言葉に驚いたようだけど、そのことには触れずティーゼさんは快くティアを貸し出してくれた。後は旅の支度をして、仲間を集めて戦争に勝利し、マナリスを滅ぼすための計画を立てなければならない。


 ふと空を見上げれば、これまで何故気付かなかったというほど巨大な(リング)の一部が木々の隙間から見えていた。

 その姿はまるで神のようだけど、最終目標はあそこだということを忘れてはいけない。

 あの(リング)こそが、全ての元凶であると、僕は⋯⋯私は知っている。

 そう、私だ。

 覚悟を決めなければならない。これから私は鬼にならないといけないのだから、強く在らないといけないのだから。呼び方だけでどうなる、と言うかもしれない。けれど、些細な事だからこそ重要な事でもあるのだ。これは私の覚悟の表れとして、その思いを忘れないように。

王女のルビの王子というのは、ゲームではどちらを選択するかによって変わっていたから、ということです。

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